ストーカー型
俺の身体は、物心つくころには、もう男の身体を知っていた。
両親の記憶はない。
俺が赤子だった頃に、俺を捨てたようで幼少期に俺はこの男に身体を売る店に売られた。
其の頃から、俺はガリガリのチビで、骨と皮のような身体だったらしい。
俺の見てくれは、この店の中でも下の下の方だ。
つまりは不細工だった。
加えて、俺は可愛らしさのかけらもなかった。
考えは捻くれていて、素直にお礼を言うこともない。
口を開けば生意気言って、客の気を逆なでる。
人を怒らせることの天才で、俺の性格を知って逃げてしまった人間は、何も客だけに留まらない。
よせばいいのに、下手なことを言っては相手を傷つけ幻滅させる。
親もいなけりゃ、信頼できる人間も極わずか。
惨めな一匹狼だった。
顔も駄目、愛嬌も駄目。
そんな俺が、17にもなってこの店に働けている理由は、ただ1つだ。
俺の身体はかなり極上らしい。
らしい…というのは、俺自身、実感がないからなのであるが、事実俺の身体を求め、道を外した人間は数多く存在し、人殺しにまで発展したこともあった。
俺を求めて、金貸しから多額の金を借り、その金が返せず首を吊った人間もいた。
そんないわくつきの俺なので、いつしか俺が相手にするのは客の中でも金を持った客のみになっていた。
それも、俺の顔を見ないことが条件付きで、俺は客達に抱かれていた。
俺はいつしか、知る人ぞ知る、娼婦となっていた。
“そいつ”と出会ったのは、俺が夜道で男に襲われている時だった。俺を襲った男は、俺の客ではなく、店の別の娼婦の客で、金が返せない腹いせに、フラフラと町中を歩いていた俺を襲ったのだった。
俺を助けに入ったそいつの名前は、“狂児”といい、街でも噂のハンサムなやつだった。
気は優しくて、頭もよく、器量も良い。おまけに度胸もあるとくれば、欠点なんかないんじゃないか…って、くらいの男だった。
年頃の女どもはこぞってあいつの噂をする。
女だけじゃなく、あいつに抱かれたがっているのは、この店に働く男の中でもいて……、俺も、その1人だった。
あの男前に抱かれたい。
普段優しいあいつが、俺の身体に狂い、俺だけに愛を告げるようになったら、どんなにいいだろう。
妄想しては、虚しい現実に落ち込む日々。
狂児が男に興味があるやつだったら、俺にも少しはチャンスがあったかもしれない。
なにせ、俺は噂の娼婦だ。
自分自身、俺の身体に価値などないと思っているが、事実俺の身体を求める男は多い。狂児とて、1度抱かれてしまえば俺に落ちてくれるかもしれない。
けれど、狂児は真面目なやつで、こんな身体を売る店なんて到底くるようなタイプでもなくて。
俺は、ひっそりと狂児を思い影から見ているだけの日々を送っていた。
あいつのことが、好きで、気になってしかたない。
だけど、裏の世界で生きている俺とあいつじゃ世界が違いすぎていて、知り合う機会なんててんでなかったんだ。
そんな俺に振って湧いた、唐突な転機。
狂児は襲われている俺を見捨てることはせず、襲ってきた男から俺を助けてくれた。
「大丈夫かい…?」
服がボロボロになった俺に、包み込むように自分の服をかけてくれた狂児。
しかし、俺の口は素直になれなくて。
「余計なこと、すんなよ…。あれ、俺の客だったのに…」
気づけば、いつもの憎まれ口を叩いていた。
「そうかい…。それは、悪かったな」
案の定、狂児は俺の言葉に気分を害したようで、すぐに其の場を立ち去ろうとした。
いかせたくない。
もっとそばにいて。
俺を見て。
狂児を前に、隠していた心が暴れだす。
俺は通り過ぎ去ろうとする狂児の服の袖を掴み、
「待てよ」と狂児の歩みを止める。
「なんだ…?」
「なぁ、あんた、男知ってるか?」
「え…」
「俺が、教えてやるよ。アンタに。暇になったんだ。相手、しろよ」
俺は妖艶に微笑んでみせると、狂児に唇を重ねた。
狂児とは、其の夜抱き合うことはなかったものの、お互いのものを扱きあったり、抜きあったりした。
男のものなんて、今まで散々見てきたのに、狂児とする時は、今まで感じたことがないくらい、ドキドキした。
抱き合わなかったのは、ソレ以上関係を進むのが怖かったから。
俺の身体を抱いて、狂児が他のやつ同様、俺の身体に落ちていくのが怖かった。
俺は狂児が好きだったけど、狂児は別に俺を好きじゃない。
抱き合えば後に残るのは虚しさだけだってわかっていたから…。
狂児とそんなことがあって、俺が一方的に知る間柄から、お互いが知る間柄へと変化した。
ソレだけじゃない。
あれから、狂児は暇があれば俺の顔を見る為に、店にくるようになった。
狂児はあんなに男前なのに、俺の前では意外にヘタレな男だった。
俺がどれだけ罵っても、狂児は嫌なかお一つせず、俺の我儘をきく。俺が嫌がることは絶対にしないし、時折俺を物欲しげに見つめていても、無理矢理襲うこともなかった。
俺としては、狂児になら、いつだって無理矢理にでも抱いて欲しいのに。狂児は絶対に、俺から触れないとエロいこと1つしない。
それがちょっと不満で…ーー
「お前ってさ、ほんとヘタレだよな」
俺は、そう、よく狂児を罵った。
そんな狂児と俺を見て、よく思ってない人も多かった。
狂児は、この街1番のハンサムと言っても過言じゃない。
当然、店でもやっかみが酷くて…ーーー。
媚薬を盛られ、別の店に売られそうになったこともあった。
それを助けてくれたのも、狂児だった。
「ごめん…」と何度も狂児は俺に謝り、狂児の熱いもので俺を貫いた。俺は嬉しくて何度も狂児にキスを強請り、あられのない声をあげたのだけれど。
抱き合ってから、俺が危惧していた通り、俺達の関係はまた変化してしまった。
狂児の俺への会う頻度は増え、俺へ求婚するようになったのだ。
当然、店をやめるように言ってきた。
もうこの店には置いてられない…と。
狂児は執拗に俺の側について回り、店にも俺が他の客を取らぬよう手を回した。
ヘタレなあいつのストーカー化に、嬉しい反面モヤモヤした気持ちを拭い去ることができなくて。
「このストーカー男…っ!あんたに守られなくたって、俺は今まで一人でやってきたんだよ…!なんだよ、俺と一緒にいたいって。馬鹿じゃねぇのか。迷惑してんだよ、こっちは…!」
「お前が傷つくのなんて、見てられない」
「俺が傷ついてるって…ーー?馬鹿じゃねぇの?そんなの…」
「俺の勘違いだって?それこそお前の勘違いだ。
俺はずっと、お前を見てるんだぞ…。お前よりも、ずっと。
お前が、大事なんだ。だから…」
狂児は俺の顎を取ると、口づけて。
「俺を一生、お前の側にいさせろ」と告げる。
狂児なんて、ただのヘタレなやつのはずなのに…ーーー。
こいつだって、俺の身体目当てなのかもしれないのに…ーーー。
自分では制御不可能なくらい、胸のときめきが止まらなかった。
***
実は、両片思いの両ストーカーなお話。
実は受けくんと会う前から狂児くんは受けくんを好きで、お店まで行ったことがあるものの、受けくんが一般客は取ってないときいて、影で見守っていた裏話があります。
狂児と受けくんが付き合うのをよしとしない勢力に、狂児は薬を盛られて、娼婦としてのウケくんをあてがわれる。
受けくん以外を抱いてしまったと思い込んだ狂児は、受けくんとの別れを決意する。
あまり病んでおりませんが、ストーカー型ヤンデレってことにしておいてください。
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