『男同士の…障害があっても好きだと思う感情はね…、私は冷静な頭で考えることのできないくらい、激しい感情だと思っています。
そうですね、相手の顔をみるだけで、思考が吹き飛び、ただ無性にキスしたいとだけ思ってしまう…そんな感情ですよ、きっと。

きっと、そんな単純な感情が、好きって感情なのです』


蘇る、昼間であったマスターの言葉。


『深く考える必要はありません。
考えても答えのでないことは、あえて考えないほうがいいのです。
なにもかも細かいことを考えないで。

ぱっと頭の中で意中の人を思った瞬間に、出てくる言葉。

それこそが、偽りのない、自分の本心だと思いますよ。
目を瞑って相手を思ってください。
ただ純粋に、自分の思い人を。

一番最初にその人を思い浮かべて、なんて思いましたか?どんな言葉が出てきましたか?

きっと、一番最初に浮かべた言葉や感情が、貴方の思い人に対する、本当の思いだと思いますよ』


(俺が、利弥さんに一番に思うことは…)


「かなしい顔をさせたくない…
幸せにわらってほしい。
それで、ずっと俺の隣にいてほしい。俺がどんなに駄目な犬でも。笑って許して、傍にいて。

それから…抱きしめてほしい…。えっと、それから…ぎゅって、不安なんか抱くことがないくらい、強く抱きしめてほしい。

ああ、なんだ。俺、好きなんじゃん。
こんなに、すらすらいえるくらい、どうしようもないくらい…」

一番最初にその人を思い浮かべて、なんて思いましたか?
どんな言葉が出てきましたか?


「好きなんだよ…、俺…」

きっと、一番最初に浮かべた言葉や感情が、貴方の思い人に対する、本当の思いだと思いますよ

「好きなんだ。
俺は、どうしようもないくらい、もう利弥さんが好きになっちゃったんだ。一緒にいて。
優しくされて、心配されて。またかっちゃんのときと同じように、利弥さんのことを…」

一呼吸おいて、瞳を閉じる。

「俺は、愛してるんだ」

言葉はすんなりと、口から洩れた。



認めてしまえば、こんなにすんなりと言えるのかと吃驚するくらい、自然に言葉になった。


目を開けて、室内を見やる。
利弥がいないと、部屋は寒々しい。
他人行儀で、静かで、悲しくなってくる。
一緒にいればそんな気持ちにはならないのに。
一人はどこまでも、寂しい。


「寒い、寂しい、会いたい。
利弥さんがいれば、寂しくもないし、寒さも感じない。
そう、二人なら、寂しくない。
ふたりでいれば…寒さなんか感じない…。とってもうれしくなって幸せになれる。もう、俺、どうしようもないくらい、好きになってたんだ…利弥さんのこと」


ガチャ、とドアがあく音がした。
菜月は、主人を出迎える犬のように玄関に走り、衝動的に帰ってきた利弥に抱き着いた。


「菜月…?」
抱き着かれた利弥は驚きに目を丸くする。
菜月がこんな風に抱き着いて出迎えることなど、初めてだったから。


「おかえりなさい、利弥さん」
「ああ、ただいま。随分熱烈的な歓迎だな」
「うん。俺、利弥さんのこと、大好きだから。一人でいると寂しいって感じちゃうくらい。大好きなんだ」

利弥の抱き着いていた胸板から顔をあげて、どこかふっきれたような顔で菜月は微笑んだ。

「随分、素直じゃないか…」
「…うん。なんかさ、無性に抱き着きたくなったんだよ…」

(喪失感を感じたくない…、そう思うよりも、今身近にある温もりを感じたいって思ったんだ。マスターの言葉に、いつかくる別れよりも今ある幸せを感じたいって、そう、漠然と思ったんだ)


「利弥さん」

菜月の微笑みに、利弥の瞳が揺らぐ。

「おかえりなさい」
ひだまりのような微笑みを浮かべる菜月に、一瞬言葉を失ったあと

「ああ…ただいま」
利弥はちいさく、言葉を返した。





  
百万回の愛してるを君に