バハロが、シャルルの父を殺し、王として君臨して数年。
その間、バハロはシャルルを嬲《なぶり者》とし、月日を空けず、その身体を陵辱した。

いまや、その身体はシャルルの意を反して男を受け入れ喜ばせる身体になってしまったし、男のものを挿れられれば演技ではない甘い声も出るようになった。
アナルのいいところを抉られれば、反抗したい心を裏切って気持ちがよくなってしまうし、ぺニスを刺激されるよりももっとずっと抗えぬ快感に支配される。性に疎かったシャルルであったのに、今では娼婦のように身体を開けば淫らに反応を示す。

 昔は騎士団として鍛えていた身体も、現在は城にいる間はほとんど男たちに抱かれており、あいた時間は泥のように眠っているため、鍛える時間もなく筋肉は数年前より格段に落ちてしまっていた。

抱かれるのはかなりの頻度であったため、もし、シャルルが女であったのならば、今頃その激しい行為に子でも孕んでいたかもしれない。


鏡に映るのは、いまやほっそりとした華奢な身体である。元々、肉がつかない体質であったが、ここ数年は心労でうすっぺらい身体になった。



 騎士団にいるときは、誰もが憧れる凛々しい騎士であったのに、今は男らしくもなくまた完璧に女の者でもない不思議な色気を纏っている。
淫靡いんびでいて、でもどこか背徳的な。
時折、気だるげに吐息を吐く、その姿は、男たちの欲をどれだけ煽るものか、シャルル本人は知っているのだろうか。


表情のない、まるでカラス細工のような美しいお姫様。
そのお姫様をみだらな顔をさせ、自分の者で汚したいと思う男がどれほどいるか。


 
 国を手に入れたバハロが、この国の統治者になって王のまねごとをして、早十年近く。
バハロはけして飽きることなくシャルルを自身の隣に置き、その身体を自由にしてきた。

シャルルはバハロだけに抱かれてきたわけではない。国を手に入れたバハロは、いかにシャルルを傷つけることができるかを楽しみにしており、その責め苦は日々飽きることなく、少しずつ酷いものになっていった。
シャルルが酷い責め苦に反応をしなくなっても、なお、それらは終わることはなかった。

 無数の男たちの手で、競うように抱かれたことも有れば、人でない獣の生殖器を受け入れたことすら、ある。


夜中、バハロのペニスをアナルにいれたまま、犬のように四つん這いになって、城下を歩いたこともある。
場所や体調などを気遣わず、シャルルを苛むバハロ。

 城下で、バハロに抱かれたシャルルをみてしまった民もいる。
けして、抵抗もせずにバハロのなすがまま、男の欲を受け入れているその姿は、かつて剣を震い国民に尊敬のまなざしを受けていた王子の姿ではなかった。
浅ましく、略奪者にこび、尻を振るその姿は悪魔に魂を渡した淫乱そのものだった…何人か、情事を見てしまった国民はいう。

勇ましく、凛々しく民を思う精悍な海の加護をもつ王子はいない。いまいるのは、命惜しさに家族さえも殺した男に尻を振る淫乱だけだ…と。

 王族の中で、シャルルだけが生き残り、国を侵略した憎い筈の男バハロとともにいる。

本当に国を思う王族なのなら、たとえ差し違えても、国を滅亡させた男などいるはずがない。
なのに、シャルルは、生きながらえている。
それは、両親や兄弟、民を殺された憎しみなどよりも殺される恐怖心を上回ったから、シャルルはその美貌でバハロを陥落させたのだ。
  
 何も知らぬ一部の国の民は、シャルルが命乞いの為に身体を差しだして、生きながらえている、と思いこんでいた。
バハロの下で王子であったときと同様、それ以上に贅沢をし、今の生活に甘んじている…と。
海の加護がある人魚であるはずなのに、バハロのいいようにさせているのは、つまり、そういうことだ…と。

バハロがくる前、民に慕われ憧れでもあったシャルルは、有りもしない噂のせいで、今やほとんどの民に恨まれ嫌悪されていた。
バハロと同様、いや、それまでの信頼があった分それ以上かもしれなかった。


いまや、シャルルの味方はどこにもいない。
城にも。
そして、国にも。


(…だれも、助けなど…求められない。
もはや、今のオレには…)

煌びやかな場内に集まった、バハロが招待した飢えを知らぬ、資産家達。何十人といるのに、皆シャルルをぎらぎらした瞳で見つめるだけで、助けようという者は一人もいない。

「シャルル」
バハロの呼ぶ声に表情ひとつかえず、バハロの元へ近寄った。

あまりにゆったりとした歩調に、バハロの隣、ぶくぶくに太った丸まるとした白髪交じりの男がイライラとした口調で

「…おい、王子よ…。はやくこぬか…ああ。元王子だったな…」
とせかす。

(…ヒルデルト…。忌々しい王家を裏切ったぶため…)

バハロの隣で偉そうにふんぞりかえる、バハロの側近の男が視線に入ると、普段涼しげな顔をしているシャルルの瞳が一瞬、鋭く燃え上がった。

「…はは、シャルルよ、王家を裏切った者にそのような言葉を吐かれるのは、今でも屈辱か?」
「いえ…、そのようなことは…」

言葉とは裏腹のことを言うのはもう、この数年で慣れたもので。
本当は、斬りつけたいほどに、バハロの隣にたつこの国を裏切った男と、バハロを憎んでいるのに。
それはおくびにもだすことはなかった。
「お前の為に今日も沢山客人を呼んでやったというのに、隅でつったって客人を放っておくなんて…、失礼だろう?」

シャルルがバハロの横に並ぶとバハロはシャルルの細い肩を強引に掴んで己の身体へと引き寄せる。
シャルルの細い身体では、バハロが少し力を入れてしまえばすぐに引き寄せられてしまう。

ぴったりと、体温を感じるほど密着する距離に、表情には出さないものの、嫌悪感で吐き気がした。


「シャルル…」
呼ぶ名とともに、顎元をすくわれて、顔を近づけられる。
それを合図にシャルルも瞳を閉じた。
唇を重ねる相手が、憎むべきものだという事実を見なくていいように、キスをされそうな時はいつだって、瞳を閉じて何も見えなくしてしまう。

(初めてのキスの時は…ずっと開けていたのにな…。あいつとのキスは…。キスを仕掛けたのはあいつだというのに、オレの視線に恥ずかしいといって…)

憎い男に口づけられて、思い出すのは初めてのキス。
まるでぶつけたような、下手くそな無理やり仕掛けられたキスであったけれど、シャルルの中ではとても大切な思い出として色あせぬことなく残っている。
心が折れてしまいそうな時、その思い出を思い出しては、もうその人は傍にいないのに慰められた気持ちになる。

愛しくて、誰よりも傍にいたい人。
自分よりも年は下で、やんちゃで活発的な男。
人とは違うこの人魚の身体を知られたくなくて人との接触は避けてきたのに、その男だけはどれだけ拒絶しようとシャルルの傍にいた。

 初めてのキスも、もう随分と昔のことだ。
あの時と、今とでは、大きく変わってしまっている。
初めてのキスを重ねた相手はもう、死んでしまった。いや、正確には、生きているかもわからない…だが。



「客人よ。これが、我が至宝。
そして、神の化身であり、我が妻。
シャルルだ」

シャルルから唇を離すと、バハロはまるで我がことのように高慢に言い放ち、シャルルの頬に、己の頬をあわせる。

頬をすりよせて、シャルルの頬の柔らかさを堪能しながら、

「どうです?この美しい顔。
澄んだ瞳。これぞ、神に愛された人魚の証。
いまや伝説的ともなった、神の加護あるもの…。
こんな綺麗な瞳、見たことがありますかな…?」

周りの客人に見せつけるように言い、バハロはシャルルの前髪をかきあげた。
さらり…と金の髪から、美しい蒼の瞳が覗く。
シャルルの瞳は今は感情が見えないが、目を奪われるほどの美しい海の色をしている。
まるで瞳に宝石を散りばめたようにその瞳は澄んでいる。
その瞳を見てしまえば、どんな豪華な宝石でさえ、色あせてしまうだろう。

客人はシャルルの瞳を見て、その綺麗な海の色にごくり…と唾を飲み込んだ。


「いまは瞳は、このような涼しい色をしておりますが、閨などは違いますぞ。
その瞳は情欲がともり、男のものを泣いて喜ぶ娼婦となるのです…。
淫乱な娼婦に…ね…」

バハロの傍らにいた側近の男、ヒルデルトは厭らしい顔で、笑う。
先ほどはヒルデルトの言葉に一瞬、反応しかけたシャルルであったが、今はもう何の反応もしめすこともなく、何の感情も示さず、無表情でバハロの隣にたっていた。

 シャルルは、今日は大きなスリットが入ったエメラルド色のドレスを着せられていた。宝石を散りばめた美しいドレスであり、シャルルの美しさをより引き立たせていた。

バハロが傍らにいたシャルルの太股を撫でれば、すぐにスリットから素肌が露わになる。
シャルルの絹のようになめらかな肌が露わになった瞬間、おお…とどよめきが起こった。

「これは…これは…」
「こんな綺麗なので、実際、美しいご令嬢かと思いましたが…」

ぎらついた視線で見つめながら、客人たちは鼻息は荒くまくしたてる。

シャルルのドレス下はなにも身につけていなかったようで、バハロがスリットをなで上げれば無防備な陰部が露呈された。
百万回の愛してるを君に