体育祭が終わり、莉緒は芦戸や葉隠からよく髪の毛をいじられるようになった。と言うのも、上鳴や峰田から騙されてチアガールをした際に芦戸たちがヘアアレンジをしてくれたのだが、どうやらそれに味をしめたらしい。
昼休みなどの休み時間にされることが多いが、この日は朝のHR前に葉隠の席に座らされ美容院ごっこが始まっていた。
「今日はどんな髪型にする〜?」
「うーん、下ろすよりは結ばれてる方が良いかなぁ」
「はーい。今日はジメジメしてるからアップにしよ〜!」
今日は気温が高く、雨も降っているため髪の毛がまとまりにくい。髪の毛が肌に張り付くのも嫌なため、葉隠の提案に賛成して任せることにした。ちなみに、芦戸はまだ登校しておらず、今日の美容師は葉隠のみだ。
「あれ? 莉緒ちゃん、これ……」
「……イタッ!」
葉隠がくしを使って丁寧に莉緒の髪の毛を集めていたのだが、彼女が“あるもの”に触れた瞬間、痛みが響いた。
「やっぱり、たんこぶだ!」
莉緒もその『たんこぶ』に身に覚えはあったのだが、触らない限り痛みはないのですっかり忘れていた。
「この間、ちょっとぶつけちゃって……」
「じゃあ、ここは触らないようにするね!」
葉隠がそこの箇所に注意をしながら進めてくれていると、後ろの席から「ケッ!」と言う苛立ったような声が聞こえてきた。莉緒が振り返ると、爆豪がこちらを睨んでいる。
「腑抜けて訓練してっから、たんこぶなんぞができんだよ!」
この『たんこぶ』が莉緒の不注意や、爆豪の言う通り訓練でできたものであれば「うん、気を付けるね。ありがとう」などと返していたのかもしれない。しかし、これができた原因はそれではないのだ。
莉緒は爆豪の目をじっと見つめる。
「あ゛!? っんだよ、その目はァ!」
「……体育祭、控え室、机」
告げられた単語に、爆豪がピクッと反応する。どうやら心当たりがあるようだ。
そう、この『たんこぶ』は爆豪によって作られたものなのだ。
体育祭の時、控え室で遭遇した莉緒と爆豪は揉めごとを起こしてしまった。莉緒の棄権と返答が気に入らなかった爆豪により、胸ぐらを掴まれてから机に押し倒された。その際、あまりの勢いに頭を打ち付けてしまったのだ。
「え〜? もしかして爆豪くんのせいで莉緒ちゃんにたんこぶができたの?」
葉隠が問い詰めるように言うと、爆豪のこめかみに青筋が立つ。
「あれは、おめェのせいだろうが!?」
「そうだったとしても、さすがに乱暴だったんじゃない?」
「あぁ!?」
「そもそも、爆豪くんだって自分の優勝に納得してなかったじゃない。私だって納得できないから棄権しただけで、爆豪くんと気持ちは一緒なんだけど?」
体育祭の決勝は爆豪と轟だった。爆豪は轟が炎を使うように誘導した戦い方をしていた。轟も炎を見せたのだが結局はそれを消してしまい、勝負が決まった後も爆豪はそんな勝利に納得がいかず暴れていたのだ。
莉緒が轟との試合で棄権したのも、本気でぶつかり合いたかったから。結末は違えど、同じ気持ちに起因している。
「てめェが棄権しなけりゃ、俺はお前をぶっ潰して気持ちよく優勝してたんだよ!」
「え〜、そう言われても……爆豪くんも氷責めにして汗腺開きにくくして、爆発の限度切れまで反射し続けるかなぁ?」
爆豪の“個性”は暑くて汗腺が開きやすい夏には強いが、冬はスロースターターになるらしい。それに、どうやら爆発の威力にも限度あるようだ。
「みみっちい戦い方すんじゃねえ!」
「え、爆豪くんにそう言われるなんて……」
「あ゛!? どう言う意味だ、てめェ!」
「はいはい、莉緒ちゃんは動かない! 爆豪くんは邪魔しないの!」
葉隠に仲裁され、爆豪は不機嫌そうにそっぽを向いた。もう少しでHRが始まる時間になるため、莉緒も大人しくして葉隠に身を任せる。
「はい、できたよ〜!」
鏡を渡されて確認すると、ロープ編みを混ぜたふんわりルーズなお団子ができていた。
「凄い! ありがとう、透ちゃん!」
「どういたしましてー! たんこぶは痛くなかった?」
「うん、大丈夫だよ」
出来栄えに感激して思わず笑顔が浮かぶ。
もうすぐ相澤が来る時間になるため、葉隠にお礼を言ってから席に戻る。
「望月、その髪……」
近くを通った際、轟が莉緒の髪型に気付いて話しかけてきた。
「透ちゃんがしてくれたの! どうかな?」
くるっと回転して轟に髪の毛を見せる。今の莉緒はお団子のおかげで上機嫌なのだ。
「新鮮で良いな、それ……でも――」
轟の手が、わざと残してある莉緒の横髪に触れた。優しく触れる手とその穏やかな眼差しに、莉緒の体は甘く痺れそうな感覚に襲われる。
「望月の髪に触れないのは、寂しいな」
「――え? そ、そう……?」
何と返したらいいのかわからず、戸惑ってしまう。体中が熱くなり轟の顔を見ることができなくなって俯いてしまったが、飯田の「皆ー! 席に着けー!」の言葉に助けられ、その場を離れることができた。
お昼休み終了後、莉緒が自分の席で次の授業の準備をしていると、机の上に何かが置かれた。顔を上げた目に映ったのは、学校の自動販売機で売られている紙パックジュースと爆豪の姿だった。
「いちいち、おめェに『たんこぶが痛い』って言われるのは癪だからな」
あの時の謝罪のつもりなのだろう。ばつの悪そうな爆豪を見て、莉緒は笑い声を漏らしてしまった。
「笑ってんじゃねえ!」
「ごめん、ごめん。ありがとう、爆豪くん。でも私――」
莉緒は紙パックジュースを手に持って、爆豪の顔を見る。
「野菜ジュース苦手なんだけど……」
紙パックジュースには『野菜100%! これで栄養もバッチリ!』と書かれていた。
なぜこれをチョイスしたのか――一般的には、りんごジュースやオレンジジュースなどの方が好き嫌いがなさそうなものなのだが。
「黙って受けとれや! 空気が読めねえ女だな! そこは『ありがとうございます、爆豪様』だろーが!」
「ふふ。『爆豪様。格別なるご厚情を賜り、誠に恐悦至極に存じます!』、頑張って飲むね!」
「ケッ! 兎は黙って野菜食ってろ!」
どうやら爆豪専用のあだ名『兎女』から野菜ジュースになったようだ。もしかしたら、小柄な莉緒の栄養面を気にしてくれたのかもしれない。野菜自体は嫌いなわけではなく普段から摂っているのだが、ありがたく受け取った。
莉緒は、足音を立てながら席に戻ろうとする爆豪の背中に声をかける。
「ありがとう! でも、負けないからね!」
「はっ! これでチャラだ! せいぜい肥えた兎になって、俺に喰われるのを待ってろや!」
野菜ジュース一つでそうなるのは無理だが、回りくどい爆豪の謝罪と戦いの約束に声を上げて笑った。
「望月、どうしたんだ?」
「ううん、何でもないの」
食堂から戻ってきた轟が不思議そうに声をかける。莉緒は笑いすぎて目尻に浮かんだ涙を拭った。
「珍しいな。いつも水筒だろ?」
轟の視線の先には野菜ジュースがある。彼は莉緒が節約のために水筒を持参していることを知っていた。
「うーん、雨降って地固まる? 怪我の功名? 諍い果てての契り……みたいなものかな?」
「なんだそれ」
「ふふ、でも轟くんにも当てはまるんだけどなぁ。負けないからね?」
「おう……?」
昼休みなどの休み時間にされることが多いが、この日は朝のHR前に葉隠の席に座らされ美容院ごっこが始まっていた。
「今日はどんな髪型にする〜?」
「うーん、下ろすよりは結ばれてる方が良いかなぁ」
「はーい。今日はジメジメしてるからアップにしよ〜!」
今日は気温が高く、雨も降っているため髪の毛がまとまりにくい。髪の毛が肌に張り付くのも嫌なため、葉隠の提案に賛成して任せることにした。ちなみに、芦戸はまだ登校しておらず、今日の美容師は葉隠のみだ。
「あれ? 莉緒ちゃん、これ……」
「……イタッ!」
葉隠がくしを使って丁寧に莉緒の髪の毛を集めていたのだが、彼女が“あるもの”に触れた瞬間、痛みが響いた。
「やっぱり、たんこぶだ!」
莉緒もその『たんこぶ』に身に覚えはあったのだが、触らない限り痛みはないのですっかり忘れていた。
「この間、ちょっとぶつけちゃって……」
「じゃあ、ここは触らないようにするね!」
葉隠がそこの箇所に注意をしながら進めてくれていると、後ろの席から「ケッ!」と言う苛立ったような声が聞こえてきた。莉緒が振り返ると、爆豪がこちらを睨んでいる。
「腑抜けて訓練してっから、たんこぶなんぞができんだよ!」
この『たんこぶ』が莉緒の不注意や、爆豪の言う通り訓練でできたものであれば「うん、気を付けるね。ありがとう」などと返していたのかもしれない。しかし、これができた原因はそれではないのだ。
莉緒は爆豪の目をじっと見つめる。
「あ゛!? っんだよ、その目はァ!」
「……体育祭、控え室、机」
告げられた単語に、爆豪がピクッと反応する。どうやら心当たりがあるようだ。
そう、この『たんこぶ』は爆豪によって作られたものなのだ。
体育祭の時、控え室で遭遇した莉緒と爆豪は揉めごとを起こしてしまった。莉緒の棄権と返答が気に入らなかった爆豪により、胸ぐらを掴まれてから机に押し倒された。その際、あまりの勢いに頭を打ち付けてしまったのだ。
「え〜? もしかして爆豪くんのせいで莉緒ちゃんにたんこぶができたの?」
葉隠が問い詰めるように言うと、爆豪のこめかみに青筋が立つ。
「あれは、おめェのせいだろうが!?」
「そうだったとしても、さすがに乱暴だったんじゃない?」
「あぁ!?」
「そもそも、爆豪くんだって自分の優勝に納得してなかったじゃない。私だって納得できないから棄権しただけで、爆豪くんと気持ちは一緒なんだけど?」
体育祭の決勝は爆豪と轟だった。爆豪は轟が炎を使うように誘導した戦い方をしていた。轟も炎を見せたのだが結局はそれを消してしまい、勝負が決まった後も爆豪はそんな勝利に納得がいかず暴れていたのだ。
莉緒が轟との試合で棄権したのも、本気でぶつかり合いたかったから。結末は違えど、同じ気持ちに起因している。
「てめェが棄権しなけりゃ、俺はお前をぶっ潰して気持ちよく優勝してたんだよ!」
「え〜、そう言われても……爆豪くんも氷責めにして汗腺開きにくくして、爆発の限度切れまで反射し続けるかなぁ?」
爆豪の“個性”は暑くて汗腺が開きやすい夏には強いが、冬はスロースターターになるらしい。それに、どうやら爆発の威力にも限度あるようだ。
「みみっちい戦い方すんじゃねえ!」
「え、爆豪くんにそう言われるなんて……」
「あ゛!? どう言う意味だ、てめェ!」
「はいはい、莉緒ちゃんは動かない! 爆豪くんは邪魔しないの!」
葉隠に仲裁され、爆豪は不機嫌そうにそっぽを向いた。もう少しでHRが始まる時間になるため、莉緒も大人しくして葉隠に身を任せる。
「はい、できたよ〜!」
鏡を渡されて確認すると、ロープ編みを混ぜたふんわりルーズなお団子ができていた。
「凄い! ありがとう、透ちゃん!」
「どういたしましてー! たんこぶは痛くなかった?」
「うん、大丈夫だよ」
出来栄えに感激して思わず笑顔が浮かぶ。
もうすぐ相澤が来る時間になるため、葉隠にお礼を言ってから席に戻る。
「望月、その髪……」
近くを通った際、轟が莉緒の髪型に気付いて話しかけてきた。
「透ちゃんがしてくれたの! どうかな?」
くるっと回転して轟に髪の毛を見せる。今の莉緒はお団子のおかげで上機嫌なのだ。
「新鮮で良いな、それ……でも――」
轟の手が、わざと残してある莉緒の横髪に触れた。優しく触れる手とその穏やかな眼差しに、莉緒の体は甘く痺れそうな感覚に襲われる。
「望月の髪に触れないのは、寂しいな」
「――え? そ、そう……?」
何と返したらいいのかわからず、戸惑ってしまう。体中が熱くなり轟の顔を見ることができなくなって俯いてしまったが、飯田の「皆ー! 席に着けー!」の言葉に助けられ、その場を離れることができた。
お昼休み終了後、莉緒が自分の席で次の授業の準備をしていると、机の上に何かが置かれた。顔を上げた目に映ったのは、学校の自動販売機で売られている紙パックジュースと爆豪の姿だった。
「いちいち、おめェに『たんこぶが痛い』って言われるのは癪だからな」
あの時の謝罪のつもりなのだろう。ばつの悪そうな爆豪を見て、莉緒は笑い声を漏らしてしまった。
「笑ってんじゃねえ!」
「ごめん、ごめん。ありがとう、爆豪くん。でも私――」
莉緒は紙パックジュースを手に持って、爆豪の顔を見る。
「野菜ジュース苦手なんだけど……」
紙パックジュースには『野菜100%! これで栄養もバッチリ!』と書かれていた。
なぜこれをチョイスしたのか――一般的には、りんごジュースやオレンジジュースなどの方が好き嫌いがなさそうなものなのだが。
「黙って受けとれや! 空気が読めねえ女だな! そこは『ありがとうございます、爆豪様』だろーが!」
「ふふ。『爆豪様。格別なるご厚情を賜り、誠に恐悦至極に存じます!』、頑張って飲むね!」
「ケッ! 兎は黙って野菜食ってろ!」
どうやら爆豪専用のあだ名『兎女』から野菜ジュースになったようだ。もしかしたら、小柄な莉緒の栄養面を気にしてくれたのかもしれない。野菜自体は嫌いなわけではなく普段から摂っているのだが、ありがたく受け取った。
莉緒は、足音を立てながら席に戻ろうとする爆豪の背中に声をかける。
「ありがとう! でも、負けないからね!」
「はっ! これでチャラだ! せいぜい肥えた兎になって、俺に喰われるのを待ってろや!」
野菜ジュース一つでそうなるのは無理だが、回りくどい爆豪の謝罪と戦いの約束に声を上げて笑った。
「望月、どうしたんだ?」
「ううん、何でもないの」
食堂から戻ってきた轟が不思議そうに声をかける。莉緒は笑いすぎて目尻に浮かんだ涙を拭った。
「珍しいな。いつも水筒だろ?」
轟の視線の先には野菜ジュースがある。彼は莉緒が節約のために水筒を持参していることを知っていた。
「うーん、雨降って地固まる? 怪我の功名? 諍い果てての契り……みたいなものかな?」
「なんだそれ」
「ふふ、でも轟くんにも当てはまるんだけどなぁ。負けないからね?」
「おう……?」