杜中学校と杜第二中学校。
隣り合う学区にあるこの二つの中学校は部活動に於いては合同練習や練習試合、定期演奏会、展示会。学校行事では交流会をするなど親密な関係を築いていた。
赤葦京治は杜中学校のバレーボール部に所属していたが、彼の所属している部活も例外なく杜第二中学校と交流を行っていた。
中学二年生の冬。
乾燥する空気、吐く息が白くなるほどの寒さの中、杜第二中学校の体育館で練習試合が行われた。
赤葦はセッターとして出場しており、両校は一進一退の攻防を繰り広げている。
――バチン!!
赤葦がブロックで飛んだ手にボールが当たる。
ピリッとした痛さが指に走るのを我慢し、味方が上げたボールをスパイカーにセットする。
「ナイスキー!」
「赤葦もナイスワンチ!!」
得点を決めたスパイカーに声をかけると、彼は赤葦のワンタッチを褒める。ハイタッチを求めてきたので返そうとすると、彼の手が赤葦の手に触れる前に止まった。
「って、赤葦おまえ!」
「...…なに?」
「手、切れてんじゃん!」
チームメイトに言われて赤葦が自分の手を確認すると右手の人差し指と中指から血が出ていた。冬場は乾燥して手がカサカサになるため念入りに手のケアをしているが、バレーボールの柔らかい人口皮革が手の油分を吸ってしまうため、あかぎれになりやすい。赤葦の手は先ほどのブロックで乾燥した手にボールが当たり切れてしまったのだ。
「ああ、どうりで痛いと思った」
「赤葦、大丈夫か?」
「この時期は仕方ないよな〜」
状況に気付いた監督が赤葦をベンチに下げる。監督からも声を掛けられたが、「大丈夫です」とだけ返す。
「羽柴!!」
監督が聞きなれない名字を呼ぶと、「はい」と男だらけのこの体育館には似つかわしくない可愛らしい声が響いた。
「赤葦を頼めるか?」
「分かりました。……赤葦くん、こっちに来てもらっていい?」
自分で怪我の処置をするつもりだった赤葦は少し驚いた表情をしたが、「杜第二」と書かれたジャージを着ている彼女の方に向かう。マネージャーということは知っていたが、話したこともなければ名前すら知らない。赤葦にとってはその程度の認識だった。
体育館の隅に椅子を置いた彼女は赤葦にそこに座るように促す。冷えるからとウインドブレーカーを肩にかけ、タオルを渡された。礼を言って受け取った赤葦は先ほどまでの試合で掻いた汗を拭う。動いていないとすぐに寒さが襲ってくるので彼女の気遣いがありがたかった。
「初めて話すよね、羽柴凛です。杜第二中のマネージャーです」
「……赤葦京治です」
「杜中とはいつも練習や試合してるのに、話したことなかった何て不思議だよね」
凛はにこやかに笑いながら赤葦の正面に座る。「触るね」と一声かけてから赤葦の右手に触れ、救急箱から軟膏を取り出し血が出ていた人差し指と中指に丁寧に塗るとガーゼをあててテーピングで巻き始めた。
「赤葦くんはセッターだからテーピングは巻きたくないと思うけど、早く治すためにも我慢してね」
慣れた手つきでテーピングを巻き終わった凛は別の軟膏を取り出して、血が出ていない指にも塗っていく。
「練習終わったらテーピングは外してね、蒸れちゃうといけないし」
「分かった。羽柴さん、ありがとう」
「どういたしまして。今日、血が出たところは軟膏塗って、他の指はハンドクリームをこまめに塗ってね」
処置が終わった指を動かしてみると、びっくりするほど違和感がない。
赤葦はテーピングは好きではなかった。トスを上げる時の指先の感覚が変わるからだ。
いつまでも指を動かしている赤葦に不安に思ったのか凛が「テーピング変な感じする?」と控えめに聞いてきた。
「いや、びっくりするくらい平気」
赤葦がそう本音を漏らすと、凛は驚いた表情を見せた後に笑った。
「ふふ、それなら良かった。戻って大丈夫だけど無理はしないでね」
赤葦はもう一度、お礼を言ってから戻った。監督と何回か会話のやり取りをし、しばらく待っていると選手交代でコートへ立つ。チームメイトから声を掛けられると、テーピングを見せて「大丈夫」アピールをする。