prologue


脇をもっと締めなさい、背筋が曲がっている、お辞儀が汚らしい、お前はうちの跡取りなんだからもう少し自覚を持ちなさい。……全く、これだから女はだめなんだ、あの子がいれば今頃立派な当主として成長していたろうにどうしてこの娘が。同じ血筋とは思えんな、いや全くで御座います。あの小娘が次期当主とは、ああ、嘆かわしいことだ。忌々しい……あの男にそっくりだ____









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何が駄目なんだろう、言われた通りにしている。ばあやにも手伝ってもらって作法はバッチリなはずなのに。あの人たちは私が嫌いだ。出来の悪い娘だ。ああ、あの子がいれば、あの子が。お前はあの男にそっくりだ、忌々しい。顔を合わせる度に心無く浴びせられる言葉にもう辟易としている。
もう記憶も薄れつつある、疎まれながらも重責を抱えず、家の女達と暮らしていた幼い頃。あの頃の幸せな生活が、続いていたら良かったのに。

















____あの子なら。
顔も歳も、名前すらも知らない、消えた兄を思う。
あの子が、あの子が。重役たちが揃って口にする正式後継者である兄は、それはそれは立派なお人だったらしい。
幼いながらも作法やら勉学やらに優れ、一を尋ねれば十を答える、まさに神童であったと、お前とは比べ物にもならない素晴らしい子供だったと。
そんな兄さんも、この重圧から逃げたかったのだろうか。西原家次期当主という重圧から。大人達の期待から。















兄さんは、いつか。


この家に戻ってくるのだろうか、それとも、もう____

カランコエ



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