繋いだ手が離れないのならば

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  •  忘れていた。こんなにも心は温かくなるんだっって事を。君に触れたり名前を呼ばれたりそんなことが嬉しいなんてさ。忘れていれば良かった、こんなに心が苦しくなるのなら。君にあいたい、だけど伝えられない。今日も不安で胸が痛いよ。
     早くあって話したい。大したことじゃないけど今日もね、いろいろあったんだよ?
     

     彼が高三の冬——私は大学生でなかなか一緒にいれる時間を作るのが難しかったから今年くらい高三の冬ぶりにできた彼氏と初詣に行きたいな、って。これから私はずっと新年とかクリスマスはお父さんと過ごすのかなって、ぼんやりだけど、そんなことを思っていたから今年は……彼氏の、水戸くんと神社に初詣に行こうって決めていた。
     今までにあまり選んだことの無い色のマニキュアを買って、少しだけの不安と緊張を抱えながら塗ったその優しげな青色。水戸くん……笑わないかな「爪先、鬱血してるぞ」とか言って。いや、言わないか。そんなことを言うのは後にも先にも私の幼馴染くらいだ。水戸くんは、絶対にそんなこと言わない。

     そんなこんなで、流川くんのバースデーらしい元旦、一月一日の午後一時——。珍しく初詣客で賑わう家の近くにある小さな神社。いいって言ったのに彼はわざわざ現地まで来てくれるらしい。私は湘北で待ち合わせでいいよって言ったのに。本当に彼はきっとバファリンみたいな人間なのだろう。体の半分が、優しさで出来てるみたいな。
     白い息を吐きながら神社に向かうと鳥居に寄り掛かって煙草をふかすオールバックとリーゼントの中間みたいな黒髪を見つけた。私は、くすくす笑いながら駆け寄る。大勢の人混みの中、何故か際立つ水戸くん。オーラかなぁ、やっぱり……。

    「遅れてごめんね」
    「おっ、あけおめ。いや俺も今来たとこだから」

     嘘ばっかり。そんな赤い鼻して言われたって。こういうささやかな優しさが好きだなって思う。
     自分だって疲れてるだろうに、君はいつも私のことを心配してくれる。中距離恋愛って不安だらけだったけど君からいつも連絡してくれて心が落ち着いてそんな特別が日常になっていくんだね。
     ねぇもうこれ以上大切な人になったら困るからお願い、ならないでよ。心が我が儘に騒いでる。お互いの吐く息は水蒸気になって、私たちの間を取り巻く。

    「新年早々ばっちりだね、髪型」
    「別に、新年だからってわけでもないけどな」

     と、呟いて彼は吸い終わった煙草を携帯灰皿に入れて火を消した。それ、私が買ってあげたやつだ。ちゃんと使ってくれているんだ。嬉しいな。

    「あら、甘酒配ってる。貰う?」

     彼は不意に立ち止まり、鳥居の先を指差した。私が首を横に振り「ごめん私飲めない。水戸くん貰っていいよ」と言えば彼は「じゃあ俺もいいやあ、みかんも貰えるみたいだな」と今度はみかんを配っている方を指差す。

    「あ、みかんは欲しい!」

     そう言った私に眉を下げた彼を一瞥して私達はまた歩き出す。いつもは人の少ない神社に、近所から詰めかける家族達でもう敷地内は定員オーバーという感じだった。みかんをゲットした私達はそのまま流れに乗って参拝列へ向かう。途中はぐれそうになって彼が私の手をとってくれた。すぐ離すのかと思ったら、列に並んでも手は繋がれたままだった。今更だけど、何だかすごく照れる。

    「わ、名前さん、手つめてーの」
    「うん、今日手袋してないからね」
    「そういやいつもしてんのに。なんで?」

     彼が繋いだままの手を今日の私の爪の色と同じ色をしたブルゾンのポケットに突っ込んだ。なので私は一人でさらに照れてしまう。そもそも今日手袋をしていない理由が、君にこのネイルを見てもらいたかったからなんて、とても言えない。

    「な、なんでかなぁ。気分、かな?」

     吃りながら返すと「そう?」と彼は特に気にしている様子も見せず前を見た。私は寒さと恥ずかしさで赤くなっていく頬を隠すために彼がいる方とは逆向きに顔を少しだけ背けた。数秒の沈黙のあと「きゃっ」と、変な声が出てしまった。すぐ傍にタバコの匂いとムスクの香り——私は首筋に手を当ててばっと彼の方を振り向く。今、この人首筋に、ちゅーしたんですけど……!!?

    「な、なななっ」
    「俺のために、お洒落してきてくれたんでしょ?ありがと」
    「へっ!?」
    「爪、綺麗だよ」
    「わ、わかってたなら手袋のこととかさぁ……!聞かないでよ……っ」

     彼はニンマリと微笑みながら、繋がれたままの手をずぼっとポケットから出した。もう一度彼の方を向くと彼はじっと私の指先を見つめていた。すると彼はいたって真面目な顔のまま私の反応に構わず私の指先——爪に、ひとつひとつ唇を落としていく。

    「ち、ちょっと、水戸くん——!?」

     私の声に前の人や道行く人数人がこっちを見たので私は咄嗟に俯いた。ちびちびと進む列の速度がいじらしい。もっと、早く進めばいいのに。
     そうして最後に彼は私の額にキスをして、私と目線を合わせた。

    「なんで隠してたの?」
    「だ、だってなんか……恥ずかしかったからっ」
    「すごいかわいいと思うけどな」

     彼は笑った。ほんと?と、私が首を傾げると、「うん、色。すげー似合ってる。てか、めっちゃ爪キレイなんだな」と感心したように彼は言う。

    「今はそう見えるかもだけどさ、これ取ったら、そんなことないよ、きっと……」

     私はそう謙遜して苦笑する。しかし彼は「そんな事ないって。それに俺が言ってんの形だから」なんて飄々と返してくるのだ。顔が熱い。もう、やばいんじゃないかな、私。え……死ぬのかな?

    「……ありがとう、水戸くん。」


     ——あのね、私が爪の先まで気にするのはね、水戸くん、あなたがこうしてちゃんと見てくれるからだよ?いつも、どんな小さな変化にだって、気付いてくれるから。
     たとえば君を失って、私はまたあの頃みたいに壊れちゃって。願いもない世界じゃ、なにも祈れない。君を愛したい、でも同じくらい怖い。それでももしこれが愛≠ネらいいなって心の奥ではいつも、思ってるんだよ?

     いつしか私たちの番になって財布から10円玉を出して、二人で賽銭箱に投げ入れる。でっかい鈴みたいなのを鳴らして二礼二拍一礼。柏手合掌の最中不謹慎だけど彼の方をちらっと見てみた。すごく真剣にお願いしてたから何だろうって気になった。あれかな、赤点が減りますようにとか?それともやっぱり、桜木くんのこと、かな……。

    「何、お願いしたの?」

     私がそんなことを考えているうちに同じ疑問を彼に訊ねられた。私の願いは一つしかない——。

    「何だと思う?」

     彼はふんと鼻で笑ってから「なんだろなー痩せますようにーとかおこづかい増えますようにーとか?」なんて完全に今思いつきました、みたいな適当な予想を、当てずっぽうに投げて寄越す。

    「それも思ったけどぉ、それだけじゃないよ?」

     思ったのかいっ、と軽いノリ突っ込みみたいに笑われながら鳥居までを歩く途中でまたみかんをひとつ貰えた、ラッキー。
     ねえ、水戸くん。わかってるんでしょ?本当はわかってるくせに……。

    「今年も水戸くんと一緒にいられますようにってお願いした」

     ぽつり、私がそう呟くと、少し先を歩いていた彼がゆっくりと足を止め、くるりと振り返った。

    「ふうん」
    「……なに?水戸くん、その顔は」
    「甘いな。」
    「ん?」
    「俺なんかずーっと一緒にいられますように≠チてお願いした」
    「……」
    「はは、なに照れてんの?」

     照れてないよ、とは言えず。私は押し黙るしかなかった。あーあ、またこうやってしてやられるんだ。いつも、いつだって彼は、私の先を行く。それでも、私のことを、ちゃんと想ってくれてるんだよね。わかってるよ、伝わってるよ。
     私はちょっと疲れていたからもう大切な人なんていらないって思ってた。もういらないよ、悲しみは、もういらない。だけど悪夢を見ていた私の手を君が握ってくれたから、離したくなかった。

    「水戸くん」
    「んー?」
    「好きだよ」

     彼がまた目の前で立ち止まって振り返る。私は今度こそ目をそらさないでちゃんと彼を真っ直ぐに見た。ちょっと見開かれた彼の瞳の中に自分がいる。それがとてつもなく痛くて、嬉しかった。

    「……だから、甘いって」
    「え?」
    「俺なんか、超大好き」
    「!!……もぅ。」

     彼の顔が近付いて、目の前が暗くなる。私は、目を瞑った。それじゃあ、改めまして——。


    「今年も、よろしく。」
    「今年も、よろしくね。」


     散らばった気持ちの中、しまっていた想い達が信じてみようと言ってくるんだよ。君がただそこにいて私はまた愛を知っていく。大丈夫≠チて君が私を抱きしめたあの日から、君を愛したい、同じくらい怖い。でも……信じてみたい、って。

     いつだって君が私を見ていてくれるから。私は今日からまた強くいられるよ——ねえ、もしこれが愛≠ネら、いいね。






     *


     遠くから聞こえてくる聞き慣れた声。父親ではない、はたまた元婚約者でもない。これは確実に私の幼馴染にして、同居人——寿の声だ。
     私はガバッと起き上がりベッドの上で放心状態になる。そうして未だ止まぬ動悸を抑えるように心臓を服の上から鷲掴みにした。それと同時に聞こえてきた足音。ゆっくりとドアの方に顔を向けた瞬間にバン!と勢いよく寝室のドアが開いた。幼馴染の彼が耳に携帯電話を当てたままで言う。

    「起きたか?宮城たちとアウトレット行かね?」
    「——はい」

     思わず敬語で小さく返した私に怪訝そうな顔をしながらも、こちらに背を向け扉を閉めていった彼の足音と電話をしている声を聞き捨てながら、さっきのは夢だったのか、と私は溜め息を吐く。
     ——夢、だった。私は、なんと言うハレンチな夢を見てるんだろう。まさか私と水戸くんが——付き合っている夢を見るなんて。しかも、やけにリアル。そうか、押し倒されたことばかり考えていたからきっとこんな夢を……。ほとほと愛想がつきてしまう、もちろん自分自身に。
     藤真さんとの事が寿にバレて、色々あったけどとりあえずはこうしていつも通りの生活を送っている。でも、しっかり話し合わなければな、とは思っているので、それをいつ切り出そうかと思っていた矢先……こんな夢を見てしまった。確かに水戸くんに押し倒されたあの日以降、水戸くんのお店にも、行けていないけれども。
     あの夢の感じ……私、水戸くんとはすでに体の関係を持っているのだろうか。無理——、死ぬ。これ以上、さっきの夢の内容を思い出したら私は今日、リョータくんたちと合流する前に、確実に死んでしまう気がする……。


     ようやく寝室を出てリビングのソファーに腰を下ろし、ぼうっと窓の外を見やる。お風呂場から音が聞こえていたのでどうやら同居人はシャワーを浴びているらしい。そうしてその音がピタッと止み間も無くしてたくさんの湯気と共にその同居人が、リビングへとやって来た気配を背後に感じ取る。

    「……なんだ、インフルエンザ初日みてーなツラしてよ」

     へ?と、顔だけ振り返ればそこには上半身裸で肩にバスタオルを掛け、腰に両手を当てて小首を傾げている、同居人の姿。「具合悪ィのか?」と問われ小さく首を横に振り私はコーヒーでも飲もうと立ち上がりキッチンへと向かった。マグカップを手にして最近ちょっと調子の悪いバリスタにセットしボタンを押す。ガガガ……と言う耳障りな音を聞き捨て音が止んだらマグを取りキッチンテーブルの椅子を引きマグを置いて、一息つく。そんな私の動向を、ずっと目で追っていたらしい彼もキッチンの方へと歩み寄ってきて私の向かい側の椅子を引き腰を下ろす。そうして両腕をテーブルに伸ばして顔もテーブルにべたっと付けるとまるで犬のような上目遣いで下から私を見上げてきた。そんな彼を私はそっと見下ろす。

    「……なに?」
    「白湯、飲むのか?」
    「え?」

     言われて私が両手で抱えていたマグの中を見れば、確かにそれは茶色ではなく、透明な色をした液体から静かに湯気が立ち込めていたのだった。

    「コーヒーの詰め替え買い忘れたって昨日言ってなかったか?」
    「……そうだっけ?」
    「おぅ……大丈夫かよ、まじで」

     寝そべっていた上体を起こした彼は片腕を椅子の背に投げて体も横を向く。お願い——今、どうした?なんて聞かないで、との願いも虚しく一つ息を吐いた彼が「どうした、なんかあったか?」と問う。彼に——水戸くんに押し倒されたことは言えない。ただ……夢の話なら大丈夫だろうかと考えあぐねた結果、後で知れてまた大ごとになるよりかは今言ってしまった方が良いのではと判断し、私はゆっくりとその口を開いた。

    「——夢、見てさ」
    「夢?」
    「うん。水戸くん……出てきて」
    「ほぅ、で?」

     ——よし、意外と落ち着いている……!そこで私はさっき見た夢の内容を説明する前に、こんな提案を持ちかけてみることにした。

    「ねえ、ごっこしない?」
    「あン……?ごっこォ?」
    「そう。もしも恋人同士で初詣に行ったら何をお願いするでしょうごっこ=v

     私からの突然の提案に案の定彼は、眉間に皺を作って「はぁ?」と言う。しかし私の真剣そうな顔を見てか「……まあ、いーけど」と、後頭部をかきながらも、しぶしぶ了承してくれた。

    「——何、お願いしたの?」
    「は?」
    「もう始まってるから、ごっこ。」
    「なんだよ、もう始まってんのかよ。あーっと、うーん……名前は?何お願いしたんだ?」
    「おお!いいねいいね!えっとねー、うーん……いや、だめ。寿から教えて?」
    「あ?あー、っと……待て、これって設定はいつなんだよ。高校?大学?それとも、今か?」

     私はその言葉にハァとため息を漏らして、白湯に口をつけた。そんな私を見ながら彼は「だって設定ねぇとわかんねーだろが!」とムキになって声を張っている。しかし珍しくすぐ静かになった彼を不思議に思いマグカップを口に付けたままでチラッと彼を窺い見れば何故か彼は、私を冷めた視線で見下ろしていた。

    「……ん?」
    「……で?」
    「えっ?」
    「なんて言ったんだ?水戸はよ……」
    「——!!」
    「だろうな……ンなことだろうとは思ったぜ」

     やれやれ、と言いたげにバカでか溜め息をつき肩からかけていたタオルで彼は、ガシガシとまだ少し濡れていた髪を擦っていた。そうしてタオルで拭き終わりこちらに体を向けた彼はテーブルの上に両肘を付き指を絡め合わせて「さぁじゃあ聞くとするか」みたいなオーラ全開でじっと私を見据えた。私はマグを置いてぽつぽつと話し出す。

    「私が先に……今年も水戸くんと、一緒にいられますようにってお願いしたって言った」
    「……オイオイ、付き合ってんのかよ?お前ら」
    「で、水戸くんが——甘いな。……って」
    「普通に俺の質問スルーすんなよな……ったく」
    「俺なんかずーっと一緒にいられますようにってお願いした、って」
    「……」

     当たり前に流れる沈黙。チラッと彼を見てみれば私を見ていた視線を解いた彼が「うわっ」と、不意に斜め上を顰めっツラで見やる。そうして、ぽつりと言った。「言いそう、アイツ……」と。

    「で——私が。水戸くん、好き……って。」
    「オイっ、」
    「だから甘いって、俺なんか超大好き……って」
    「うわ、言いそう……じゃねェ。だからっ!待てって、ちょ、ストップ!」
    「へ?」
    「もう、いーだろが。腹いっぱいだっつの……」

     何故か私は反射的に「ごめん」と謝っていた。すると彼は、私をチラッと見てまたすぐに視線を反らし「どーせ夢だろ?」と、まるで自分に言い聞かせるかのように呟いた。そうして私の手からマグを奪い取り、それを一口飲んでから言った。

    「水戸と——なんかあったのか?最近行ってねーだろ、水戸の店」
    「あー、そう、ね。いや怒られちゃったから何か行きづらくてね……」
    「へえ。まあ俺も皿割ったりしてしっかり謝罪もできてねぇんだけどよ。よっしゃ、今日宮城達と買い物終わったら顔出してみっか」
    「そう言えば……リョータくんとはもう仲直り、したの?」

     そんな私からの問いかけにあからさまに気まずそうな顔をした彼が椅子を立ち上がり、着替えるためか脱衣所に向かおうとしたので「ねえ?」ともう一度声を掛ければ彼は私に背を向けたままで立ち止まり、ぼそっと言った。

    「今日すんの。」

     ちっ、と小さく舌を打ち鳴らして脱衣所に向かって行った彼の顔は見ていなかったけれどきっと唇を尖らせていたんだろうと思えばなんだかおかしいやら、可愛いやらで私は、くすっと笑った。
     準備を終えて車に乗り込んだとき「やっぱ今日はみんなで神社行かね?」と、提案してきた彼に「どーせ夢だろ?って言ってなかった?」と聞き返せば無言でアクセルをやや強く踏み込んだ寿。それもまた何だか可愛いなと思っちゃった。やっぱり、凄く気にしてるじゃんって。まあ言わないけどさ。


     *


     話を聞けばどうやら彩子がアウトレットに行きたいと言い出したらしくそれでリョータくんから寿へ連絡が入ったのだそう。明らかにアッシーに使われているのに、彼はまったくそれに気付いていないようで笑えた。でも、とは言っても、どうやら彼もあの日以降リョータくんとは連絡を取っていないらしかったので突然きた連絡がたとえ、アッシーだったとしても、彼は嬉しかったのだろうと思う。聞かないし、あえては言わないけど。
     それでも結局は目的についたって目的地で二人きりになったってリョータくんも寿も真剣な話をする素振りはなかったし、いつも通り普通に過ごしていた。ただ心なしか二人ともちょっと口数は少ないように見えたけれど。
     帰り際、先に彩子を降ろして、つぎにリョータくんを降ろそうとハザードランプを付けて停車した際、車を降りる間際にリョータくんが思い出したように「あ、三井サン」と言ったとき何となく車内に緊張感が走ったのは私にも感じ取ることができた。

    「あ?」
    「あの。その……こないだ、すんませんでした」
    「あー、俺も。悪かったな」

     気まずそうに、目を反らして言った寿の言葉を聞いたリョータくんはその視線を後部座席に座っていた私に向けて「ごめんね」というようにその目を伏せた。私が大丈夫と返すように小さく頷いたのを彼が見ていたかまでは分からないけど車のドアを閉めようとした彼に向かって、私は思わず声を張った。

    「このまま水戸くんのお店に行くの!」
    「へっ?」
    「一緒に、行かない?リョータくんも……」
    「……あー、じゃあ行く。」

     と、いうことで……私たち三人はそのまま水戸くんのお店に向かうことにした。近くの駐車場に寿が車を停めて外に出れば時刻は間も無く七時を回ろうとしていた。三人で並んで水戸くんのお店の前に辿りつきガラガラッと寿が入り口のドアを開け放てば日曜日だったから、二、三組がすでに飲食をしていた。水戸くんのおじさんがカウンターを仕切っていたらしく、もしかして今日は水戸くんお休みなのかな?って思ったら、少しホッとした自分がいた。

    「お、久しぶりだね」

     中に入ってカウンターにこれまた仲良く三人で並んで腰をおろせばカウンターを挟んで目の前に立っていた水戸くんのおじさんにそう声を掛けられ私たちはバラバラに「はい」とか「どうも」と返事をする。

    「洋平いま買い出し行ったから間も無く来るよ」

     その言葉を残しておじさんはビールジョッキを持って座敷席へと向かう。やっぱり水戸くん居るんだと思って、何となく気まずい空気がその場に立ち込める。その空気を察した私はきっと二人も水戸くんに対して多少の後ろめたい気持ちがあるのだろうと思った。そのとき——ガラガラ……と入り口の扉が開き三人揃って見やれば買い物袋を持った水戸くんが目を見開く。一番先に「よぅ」と手を軽く上げて挨拶をした寿にならって、私とリョータくんも、ぎこちなく軽く手をあげる。
     水戸くんは「どしたんだ?三人揃って」と言いながら後ろ手で扉を閉めてそのままカウンターの中に入っていく。

    「なに飲むの?」
    「あ、俺はぁ……ビール」
    「あ、えっと、じゃ俺も同じで。名前ちゃんは?」
    「あっ、じゃあ……私も、ビールで……」

     尻すぼみして言った私の言葉を聞く前に、水戸くんは三人分のビールをサーバーから、手際よく入れて私たちの目の前に置いていく。全てが揃って、きっと誰かが乾杯の合図を出した方がいいと三人全員が思っていたらしく、バラバラに言った「カンパイ」という全く揃わない三人の声が逆にもっと気まずさを生み出してしまって三人で面を食らう。そんな私たちの様子を、ただただじっと見ていた水戸くんはきょとんとして、ぷっと吹き出して笑った。「チームプレイなってないねえ」なんて言いながら。
     そんなこんなで緩く始まった宴は、お酒の力も借りてものの一時間もすればいつもの楽しい飲み会に変貌を遂げて、水戸くんも手が開けば私たちの方に来て会話に参加してくれた。今もなお多少の気まずさがあるのはきっと私だけなのだろう。それにしっかり気付いていたのは、やっぱり水戸くんだけで彼も私の様子を見てあえて私には声を掛けてこなかった。だって、気まずいに決まっている。今朝見た夢だけなら私が勝手に気まずいという事で済ませられるが、なんせ私は夢ではなく現実で彼にすぐ真後ろの座敷席で押し倒されたのだから……なんて一人で考えていると不意に水戸くんと目が合って、私はぎくっと肩をすくめる。と、そのとき——。

    「ミッチー、宮城さん……」

     後ろから突然そう声を掛けられて反射的に三人で振り返れば若い男性が二人、恥ずかしそうに、後頭部を掻きながら立っていた。

    「ミッチー、覚えてる?俺たちのこと」
    「……おお!お前ら、久しぶりだな!宮城、ほら湘北の元バスケ部!」
    「ん?あーっ!えっ!?待って、いま何歳っ?」
    「こないだハタチ迎えたっす」

     どうやら、寿の元教え子らしい。寿は興奮して立ち上がり自分のビールジョッキを持って彼らが座っていた席へと、一緒に戻って行った。それを見ていたリョータくんが私に「ちょっと、行って来ていい?」と了承を求めて来たので「どうぞ」と笑顔で返せば、リョータくんも嬉しそうにして自分の杯を持ち、彼らの席へと向かって行った。私はその後ろ姿を何となく見つめていた。

    「……これまた上手く出来たシナリオだねぇ」

     密やかにそっと聞こえたその声に私が勢いよく体を正面に向ければ、カウンターに右肘で頬杖をついて、ニンマリと笑っている水戸くんの姿。

    「二人きりに、なっちまったな」
    「……」
    「そんな、レイプされたみたいな目、しないの」
    「だっ、だって……!」
    「はい」

     その言葉と同時にお皿に乗った一つのドーナツが私の目の前に置かれた。私は「ん?」と小首を傾げて頭の上にクエスチョンマークを浮かべる。

    「腹減ったから食べようと思って買ってたんだ」
    「……」
    「忘れてて。そのまま冷蔵庫にあったの、それ。食べて?……まあ、一応?お詫びってことでさ」
    「……っ」

     ……嘘、ばっかり。そんな困ったように笑って言われたって。水戸くんが甘い物苦手なこと知ってるんだよ?こういうささやかな優しさが、好きだなって思う。恋愛感情は抜きにしても。でも、水戸くんのその優しさのおかげで、お互いの間を取り巻いていた不穏な空気は一気になくなった。やっぱりすごいなって思う、水戸くんって……。


     *


     それからしばらく私は一人でゆっくりとお酒を堪能していた。途中盛り上がっている寿から私も来いと声を掛けられたが今日はワイワイ騒ぐ気分ではなかったため、場の空気を壊すといけないと思い断りを入れた。そうして、ようやくひと段落したらしい水戸くんがカウンターに戻ってきて、自身の飲み物を作り始めた姿を見つめながら、私から先に声をかける。

    「おつかれさま」
    「ん?……ああ、どーも」

     自分のお酒を作ってそのグラスを手にした水戸くんが私の目の前に立つ。そして、グラスを差し出されたので私は急いで自分のグラスを持ち軽く彼のグラスにぶつける。そんな私の様子を見て、フッと笑った彼がグラスに口をつけた。一口飲んだあと、慣れた手つきでタバコに火をつける彼を私は自身のグラスに口を付けたままでじっと眺めていた。

    「……穴開きます」
    「へっ!?」
    「はは、見過ぎね」
    「あっ、ご、ごめん……」

     彼が口の端からふーっと煙を吐けばそれがふわっと頭上に舞い上がる。その光景を見ていてふと思い出した記憶——市役所が鳴らす四時半の放送が流れた、煩いエコーの轟きが脳に響いた、私が高校三年生だったあの日の、放課後のこと……。

    「……ねえ、水戸くん」
    「はい」
    「結局さ、高三になって、タバコ……やめた?」
    「え?」
    「言ってたじゃん、やめてみようかなって」
    「……」

     水戸くんは珍しく少しだけ眉間を寄せて当時の記憶を思い出そうとしているみたいだった。そして思い出せたのか「ああ」と言って浅く笑った。

    「いや?ダメだったねぇ」
    「……そっか」
    「好きな人が吸ってるとな、吸いたくなっちゃうんだよなー、タバコ。」
    「……え?」
    「くちびる——思い浮かべちゃって、さ?」
    「……」

     まばたきをするのも忘れて、そのまま固まっている私の顔の前で「おーい」と手をヒラヒラ振る水戸くんにハッとして私は我に返る。「冗談」と眉を下げて笑う水戸くんのさっきの言い方、全然冗談に聞こえなかった。そのとき私は、あの教室でのことを思い出し、聞こうかどうしようか考えあぐねて結局、口を開いていた。だって……その唇を浮かべた相手が、あの時の人じゃないのかなって、気になってしまったから……そろそろこの辺で、決着をつけても良いんじゃないか、と。

    「——私のさ、卒業式のとき。教室来たでしょ?三年三組の、教室……」
    「ん?そうだっけ?」
    「来たよー。あのときさ、誰と電話してたのかなって。私を見て、電話切ったように見えたから」
    「……」

     水戸くんは私の問いに対して考えてるんだか、思い出しているんだか、それとも何も考えていないのか、よくわからない表情をして斜め上を見やった。でも、そんな事よりも「そうだっけ?」と言われたことがなんだか少し、ショックだった。

    「いや、いい……とか言って、手短に済ませてたよね?もしかしてさ、あれって……彼女?」
    「……」
    「……なーんて!あのときほら、ちょっと感傷に浸ってたから、そんなこと思ったの……だよね、覚えてないよね!ごめんごめん」
    「……」

     途端に気まずくなって私は残りの杯を一気飲みしてグラスをぐっと差し出し「おかわりっ!」と声を張る。水戸くんはそんな私に目を細めてまたフッと笑いそのグラスを受け取った。すぐに新たなお酒が私の目の前に置かれてそれを両手で持ったと同時に「それ——」と呟いた声が鼓膜に震えて……水戸くんの声が、しっかりと聞こえた。

    「お母さんじゃねーかなぁ」
    「へ?」
    「ほら、晩飯どうすんだーとか、ね?」
    「……」
    「だから『いや、いい』って。ほら、ピッタリ」
    「いや、確かにピッタリ会話は繋がるけど……」

     やっぱり、やんわり流されてしまった。だって水戸くんが「お母さん」なんて、呼ぶわけない。だからきっと、誤魔化したんだろうなって思う。ずるいな……やっぱ水戸くんってずるいよ。別にいいけど。彼女でもなんでもいいけど。でも——あの日の教室での事を忘れられているのが、どうしても知らんぷり出来なかった。だけど、きっと水戸くんにとっては、それ程度のことだったのだろうと思う。私だけがこうして今でもずっと……

    「——綺麗だよ、それ」

     しょぼんと、やや唇を尖らせて目を伏せた私の頭上から何の前触れもなく、柔らかい、彼の声が降って来た。「え?」と、私は顔を上げる。

    「爪、いいね。桜色か……可愛いと思う」
    「……」

     待って……それは、本当に……ずるいじゃん。ダメだよ、そんなの。だってそんな言い方されたら、ピンク色じゃなくて桜色≠ネんて言われたら、わたし——。


    「ちゃんと覚えてる」


     水戸くんが突然、ぐっと腕を伸ばした。驚いて目を見開いている私の目の前に、その腕を持って来て、もはやぽかんと口まで開けている私を無視して彼は……拳を握っていた手のひらをゆっくり開いて見せたのだ。あの日の情景が、蘇る——。

    「……だろ?」

     眉を下げて困ったように笑って言う彼に私は一気に顔を赤くする。ルール違反だ、こんなのは。
     動揺して「あ、あれ、まだ持ってるしね!」とか「もうさ、あんなの急に何!?って思ったんだからね!」と矢継ぎ早に話す私を彼はハハと笑って、流していた。それでも「まだ持っている」という単語が引っかかったのか私が落ち着きを取り戻してグラスに口を付けた頃、ぽつりと彼が口を開いた。

    「まだ——持ってるって、どうやって?」

     そう言って彼はまたタバコを取り出し火を付ける。私はグラスを置いて「あ、そうそう」とその問いかけに対して嘘偽りなく答えた。

    「しおりにしたの、あれ。前の会社でラミネートする機械を借りてさ……自作!」
    「へえ、そっか」
    「手帳に挟んでるよ?今はないけど今後見せる」
    「……いや、遠慮しときます」

     水戸くんは私にかからないよう配慮して肺から思い切りふーっとケムリを吐いた。そうしてそのタバコのケムリがほわ〜っと舞い上がっていく。

    「それ見ちゃったらさぁ、俺の中で何かが死んでしまいそう……なので?」
    「……え?」
    「恥ずかしすぎて。馬鹿みたいだなって、な?」
    「ええ!?そっちぃ〜?何かもっとこう、さぁ」

     水戸くんが「いったい何を期待してたんだ?」とか言っている。その言葉に私はまた顔を赤らめさせて、思わずそばにあったおしぼりを水戸くんめがけて投げれば、それをしっかりキャッチした彼がハハっと笑っていた。そんなコントまがいのことを繰り広げていると「楽しそうだな、オイ」とやや不機嫌そうな声が背後から追ってきて振り返る間も無く隣の椅子に誰かが座った。言わずもがな相手は私の同居人、寿だった。リョータくんはまだ向こうの席で寿の元教え子たちと楽しげにお酒を交わしているようだ。

    「お、みっちー。おかわりは?」
    「ビール」

     水戸くんは「了解」と短く言い置き新しいビールジョッキを取り行くためその場を離れてしまった。未だ止まぬ興奮を悟られまいと私はグラスに口をつけて赤くなった顔を見られないよう努めたが、すぐにグラスの底をぐっと寿に押された事で「うぐっ」と喉を詰まらせ、私は咄嗟にグラスを口から離した。

    「ちょっと!危なかった!何してくれてんの!」
    「顔が赤けぇ。ンなに飲んだのか、酒」
    「その前に謝ってよね!あー、喉に詰まるとこだった。ほんと乱暴なんだから……」
    「……」

     少しこぼれてしまったお酒をリョータくん側にあったおしぼりを拝借して拭いていると、ずっと寿がこちらを見ている視線に気づき、目は合わせずに「なに?」と問う。

    「別に」

     そのやけに冷めた声に横に座る彼の方を見れば今度は彼がカウンターの奥にいる水戸くんの事をじっと見つめていた。そうこうしているうちに水戸くんが戻ってきて新しいお酒を寿の前に置く。

    「……あ、そうだ、水戸。」

     思い出したように足元に置いていた紙袋を手に取った寿が座ったままぐっと水戸くんに差し出した。水戸くんがそれを受け取り紙袋の中身を覗き込む。

    「色々と迷惑かけたからな。珍しい日本酒らしいから、お前が飲むなり客に出すなりしろよ」
    「ああ……悪いね。いただきます」

     水戸くんが紙袋を持ち上げて眉をハの字に下げそう言ってカウンターの下にそれを置いた。ちょうどそのときリョータくんもこちらに戻ってきてめざとく「今日買った酒渡した?」と寿に問う。それに対して寿は「渡した」と言いたげに、顎をくいっと上げて見せた。

    「え、それ今開けちゃおうぜ〜!」

     席に座り目を輝かせて水戸くんに言ったリョータくんを一瞥した水戸くんは首を横に振り「いやもうあんたらは当分、日本酒禁止」なんて言う。あんたら≠ニはきっとリョータくんと私のことだろう。案の定リョータくんと私は面を食らって押し黙ってしまった。そのまま水戸くんが、お客さんのお会計に行ったのを見計らったように寿が私に問う。

    「お前、言ったのかよ?水戸に。今朝の話」
    「あ、ううん。言ってないよ」

     すかさず「ナニナニ?」と、会話に入って来たリョータくんを横目に睨んだ寿が「なんでもねーよ」と言って杯を煽る。ちょうど水戸くんが戻ってきたタイミングで、今度は私が口を開いた。

    「ねえ、水戸くん」
    「はい、水戸です」
    「水戸くんってさぁ、好きだよ、って言われたら何て言い返すの?」

     リョータくんの分のおかわりを、そっと置いて目を見開かせる水戸くんと隣でブッホ!と飲んでいたビールを吹き出した寿。それを見た私とリョータくんが「汚っ!」「汚ねえ!」と声を上げるそうして「てめえ、なに聞いてやがんだ!」と、私に唾をかける勢いで怒鳴り散らかしてくる寿にやれやれという顔で水戸くんが、寿におしぼりを渡しながらぽつり「甘いな」と言ったその声に、私含む三人は反射的に水戸くんの方を見やった。


    「俺なんか、超大好き——とか?」


     途端にシンと静かになるカウンター席。なぜか私に意見を求めるように顔を覗き込んでくるリョータくんと「やめだ!やめ!もうこの話は終わりだ!」と、大袈裟に手をブンブン振っている寿に挟まれるように座っていた私の顔が、じわじわと熱を持ち始める。

    「……うお!名前テメぇ、何赤くなってんだ!」
    「だ、だって!!今のは完全ルール違反!!」
    「バカやろうが!間に受けてんじゃねーよ!」
    「まったく……騒々しいねぇいつもに増して」
    「宮城!だいたい、お前が最初にだなぁ!?」
    「あーはいはい。すんませんでしたーって!」
    「……っ!!宮城、こンの野郎……!」

     水戸くんは、そんな忙しない私達をカウンターの中から、楽しそうにハハハと笑いながら眺めていた。このとき私は、きっと湘北高校で最強なのは彼なのではないかと。誰も彼には敵わないのだろうな、と……もう、白旗を振るほかなかった。


     *


     その日、水戸くんのお店を出た私たちは、寿の車を置かせてもらうこととし、三人仲良く終電で帰った。途中でリョータくんと別れて、同居人と二人きりになった空間で彼がぽつりと話し出す。

    「まあ……水戸とも宮城とも、とりあえずは和解できてよかったぜ」
    「ええ?今日ので和解したことになるの?」
    「あ?男同士なんてあんなもんだろ」
    「そうかな?みんな寿より大人なんだよきっと」

     電車が私達の降りる駅へと到着した。先に彼が降りて、その後を追うように私も電車を降りる。そうしてじっと前を歩く彼の背中を眺める。高校の頃と同じ身長なはずのその背中は、更に随分と男らしく、そして逞しくなったなと感じられた。それでも彼の背中を追い掛ける事には慣れていたけれど、慣れたからといって飽きるということは決してない。今だってそうだ、少し前を歩く彼に私は触れたくて触れたくて、仕方がなかった。

    「ねえ?結局さぁ、私たちはちゃんと和解できたのかな?」

     その背中にそっと問いかけてみれば彼はこちらを振り返りもせずに「さぁな、どーだろうな」と言った。しかし彼の後ろを歩いていたはずの私と彼の距離が離れないことに気がつき、彼が歩みを遅くしてくれた事をこのとき知る。私はにんまりと口元を緩めた。

    「俺は、こうして今お前が俺の隣にいるっつー事だけでいーの」
    「そう?」

     見上げた私に彼は小さく笑って、一方的に手を掴まれた。その手を、お互いの指を絡めるようにして恋人繋ぎで握り直した彼に私も笑みを返してお互い自然と正面を向き直った。


    「——名前、さっさと帰ろうぜ」


     きっと、高校時代から変わらずに、私の考えていることなんて、絶対に解ってないのだと思う。いつも彼は自分のしたいようにしてるだけ。そのくせ私がしてほしいことはこうしてさらっとしてくれるんだもんなぁ昔から。やっぱ敵わないよ。
     あれ?水戸くんにも敵わないし寿にも敵わない私って……なんだか、情けないやら悲しいやら。でも確かに。この暖かい手でずっと守ってもらえるなら今はそれだけで充分かも知れないななんて思った。近くなっていくほど素直にはなれなくて傷つけてばかりいたけど喧嘩ばかりでも私はもうあなたと、離れたくないの。
     まるでミスマッチにも見えるけど、この二人の凸凹がベストマッチなんじゃないかなって……。

     いつだってあなたが、私を見ていてくれるから私は今日からまた強くいられるよ。大丈夫なフリをしているあなたも大丈夫じゃないあなたも全部好きだよ。ねえ、きっとこれが愛≠セよね?










     爪先を飾ったのいろ。



    (うお、名前、手つめてーのな)
    (え——)
    (あ?)
    (……ううん、なんでもないっ)
    (あン?……なに笑ってんだよ)
    (いや?気にしないで。甘酒飲みたいね)
    (はぁ?甘酒ぇ?あれ美味しくなくね?)
    (ふふふ、私も苦手)
    (は……?怖っわ、意味わかんね)


    ※『a love story(with SEAMO)/BENNIE K』と
    『 I WILL/加藤ミリヤ 』を題材に
    ※ Lyric by『 I knew/ロザリーナ 』

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