神ティーチャー降臨の回 part.2
これはさり気ない優しさで私を気遣ってくれた神ティーチャー≠フエピソードです。
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それは、大学受験のための補講を受けていたときのこと。
「……ゴホッ、ゴッホ……!」
私は風邪気味だったせいもあり、教室もものすごく乾燥していて途端に咳が出始めてしまった。
「ゴホッ!ゴホ、ゴホ……!」
一度で始めた席は、止めようと焦れば焦るほど止まらなくなる始末。
チラチラと他の生徒の視線を感じ始めたとき、教壇の椅子に腰を掛けていた三井先生が私の席を見ながら言った。
「名字、大丈夫か?」
「……、大丈夫、です……」
そう返事はしたものの、咳は一向に止まらず周りに気遣い小さく咳をする私に、斜め前に座る生徒が不意に舌打ちをした。
「なんだよ……風邪ひいてんなら来るなよ」
「集中できないわー」
次いでそんな小言も聞こえてきて、受験前でみんなもピリピリしていたのでこのままでは迷惑になると思った私は、仕方ないが帰ろうと静かに机の上を片付け始めた、そのとき………
― ガタン……。
「おい、名字」
三井先生が椅子から立ち上がり、私の席の前まで来て名前を呼ぶ。
私が三井先生を見上げると先生は、スッとしゃがみ込んだ。
「消しゴム落としてんぞー」
立ち上がった三井先生がそう言って私の机に拳を置いた。
「えっ?あの、消しゴムならここに……」
私は筆箱から消しゴムを取り出そうとゴソゴソと筆箱を探ると、三井先生の拳がそっと開かれて机の上にコツンと消しゴムではない何かが置かれた。
(……え、のど飴だ。)
そう心の中でつぶやいた私の耳元で、三井先生が周りに聞こえないような静かな声で囁いた。
「これで少しは咳、落ち着くだろ」
はっとして言葉も出ないまま三井先生を見上げたときには、私に背を向けて正面に戻って行く三井先生の姿。
「よーし、それじゃあ課題プリントの回答用紙配るぞー」
そのまま何事も無かったように教壇の方へと歩いて行った三井先生の声が教室内に響き渡った。
三井先生の 優しさ で、咳も
止まっちゃいました。