ずっと大切に、温めていた想いがある。
ずっと真っ直ぐに、貴方を見ていた。
だけど…

いつも、
あと一歩が踏み出せない。

今年中には、
高校生活最後の冬には

必ず自分のこの想いを
君に伝えたい。


「三井くん!」

今日も悪びれもせずに掃除担当をさぼって既に引退したはずの部活に向かおうとする三井くんの背中目掛けて声を掛けた。

「あ?」

肩に担がれたスクールバッグ。
立ち止まり振り返った三井くんの顔だけが私の方に向いた。

「あ?、じゃないよ!また掃除サボる気でしょ!」
「あー俺、当番だったか?」
「もうその手には乗りません!」

私は「はい!」と三井くんの目の前に黒板消しを指し出した。

「雪降りそうだし寒ぃから帰りてぇ…」
「そんな事言ってどうせまたバスケ部行くんでしょー?」
「げっ…」
「いーから、つべこべ言わずにさっさと消す!」

今度はビシッと黒板を指さした。

「名前、黒板届かねーから俺に掃除擦り付けようとしてんだろ」
「違うよ!当番なの!と・う・ば・ん!!」
「へいへい」

サボり間常習犯の三井くんは乱暴に自身のバッグを床に置いた。
ブツブツと文句を言いながらも長身の彼はスイスイと汚れた黒板を消していく。私も彼の隣に並んでもう一つの黒板消しを持ち黒板の下部を消し始めた。

(おおきいなぁ、)

彼を横目にそんなことをぼんやり考えていると黒板に向いていたはずの彼の視線が私の方へ向けられる。

「名前よぉ」
「…はい?」

私の名前を呼んだ三井くん。突如グイッと顔を近づけて来た。

「…!?、な、なに!?」

咄嗟の出来事に身を引いた私の手に持たれ黒板消しを三井くんはするりと奪い取った。

「え?」
「邪魔だ、お掃除の」
「ああ…ご、ごめん」

手持ち無沙汰になった私は取り敢えず両手を後ろに組んで彼の動作を見つめた。
意識を背後に向けると掃除をしている他のクラスメイトの声が聞こえて来たので私は不意に顔を背後に向けた。

「よし、終わった」

その声と同時に三井くんのパンパンッと手を払う音が聞こえたので背けていた自身の顔をまた黒板へと向ける。

「ありがとう、」
「あ?…別に。俺、当番なんだろ?」
「まぁ…そうなんだけど…」

程なくして床に投げられていたバッグを先ほど同様に肩に担ぐ彼に「一緒に帰ろう」と声を掛けられないまま今日も一日が終わる。

「じゃ、じゃあね!三井くん」
「おぅ」

教室の入り口に向かう彼がひらりと片手を上げた。
その背中を見送っていると

「あ、」

と何かを思い出したように三井くんが立ち止まって天井を見上げるその姿。
くるりと振り返った彼の整った顔立ちに胸がキュンと鳴った。

「ど、どしたの?忘れ物?」

いや…と、三井くんが目線を合わせずバッグを逆の肩に持ち替えた。

「もう帰るんだろ?」
「う、うん」
「早く荷物持って来いよ」
「へっ?」

三井くんからの予期せぬ指示になんとも情けない声が出てしまった。
私が頭にクエスチョンを浮かべていると私に目線を合わせながら彼が言った。

「一緒に帰ろうぜ。」





 初雪が降るまでに



(三井くんの事ずっと好きでした)
(奇遇だな)
(奇遇?)
(俺も名前の事好きだったぜ。)


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