私の彼氏は背が高いです。
男らしいです。
かっこいいです。大好きです。

そして
そんな自慢の彼の職業は
『消防士』です。




「大丈夫ですかっ!!」
「あっ…消防隊員の方…」
「立てますか!?」
「…はい」

1年前、私の住むアパートが火事になった。
仕事の疲れで夜ぐっすりと寝入ってしまっていた私はその事態に気づくのが遅れて迫りくる炎と煙の中、部屋の片隅で茫然と座り込んでいた。
そんな私を救ってくれたのが今、隣を歩いている彼、三井寿だった。

「ひさしカッコよかったなあ〜」
「あ?なんだよ分かり切ってる事を今さら」
「いや、あの助けてもらった日の話!」
「ああ…またその話か」

かっこよかった、本当にかっこよかった!
ヘルメットから滴る汗も、熱さで少し赤くなった頬も。
なにより長身のひさしが着る消防服は何度思い出しても惚れ惚れしてしまう。

「大丈夫ですか!?って言ってさ!…あれ?」

気が付いたら私の隣を歩いていたはずの彼の姿がなく辺りをキョロキョロと見渡した私の目にふと飛び込んで来た光景。

「持ちますか?」
「あら…優しいお兄さんだねぇ〜」
「いえ、どこまで運びますか?」
「じゃあ、あそこのバス停までお願いしようかねぇ」
「分かりました!」

彼は重い荷物を持つおばあちゃんに手を貸していた。

「…完璧!私の彼氏!」

そう呟いて私もひさしとおばあちゃんの元へ駆け寄った。
おばあちゃんと別れたその後も私はどれだけ自分の彼氏がかっこいいのかと熱弁を続ける。

「ねぇねぇひさしって完璧だよね!」
「あ?そーでもねーよ」
「自信過剰だけど実際は謙虚な所がたまんないよねっ!」
「あげすぎだ、名前」
「え〜、だって〜」

身体をくねくねとねじらせて彼の腕をブンブンと振り回す私のゾッコンぶりはもう、ひさしにバレバレなのだろう。

はあ、完璧…!


― ウー!ウー!ウー! ―


「あっ…火事かなぁ?」
「えっ!?」


― カン!カン!カン! ―


「ひさし!近くだよコレ!」
「よっしゃ!!」

キャー!!かっこいい!!!
非番の時も正義を貫く男・三井寿!!

「名前!」
「はいっ!!」
「見に行こうぜ!」
「…はっ?」
「結構デケーぜ!この火事!!」
「……」

そう言って尻尾を振った犬のように消防車を猛ダッシュで追っていった私の彼。

「…え。完璧彼氏はどこへ…?」

私の彼氏は消防士です。
しかし…





 非番の日には
   野次馬と化すようです。




(見えねーって!お前らどけよクソが!)
(…別れましょう三井さん)
(へっ?)


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