あーあ、
何か心ときめく出来事とか降って来ないかしら。

「おい、名前」
「ふぁん?」
「なに口開けてんだ?鯉みてーだったぞ」
「…鯉って、」

いま私に物凄く失礼…というかデリカシーの欠片も無い発言をしたこの男、三井寿(元ヤン)はバスケ部で何故か最近とても人気上昇中の生意気な…同級生。

「女っ気ねーよな名前って本当」
「うるっさいなぁ…」

窓の外をぼーっと眺めていただけの事、
なのに事もあろうに『鯉』なんて言われたよ。
もっと可愛い例えは無いものかしらね。

「なんかツラも鯉に似てるもんな、お前!」
「ハイハイ鯉ですよー、私は」
「いちいち拗ねんなよー、な?名前ちゃん」

気安く私の髪の毛を触るな元ヤン。
チャラ男、差し歯。

結ばず流したままの私の髪の毛を気安く触るその手をやんわりと払った私に彼は何故か不機嫌な表情を浮かべた。

「なんでアンタが不機嫌なるのよ…」
「なんか最近冷たくねーか?お前、」

シレッと私の頬を抓る寿に「やめて」と言い放った私。
言われてみれば最近こいつに冷たいかも知れない。

「付き合ってるって噂立ちたくないもん、」
「は?」
「私の事だけ下の名前で呼んでるしねぇ〜」
「で?」
「アンタのファンに怖い目で見られんの!」
「なんだよソレ」

窓枠に頬杖を付いたままの私にまだ不思議そうな彼が尋ねて来た。

「てか俺のファンって何だよ?」

はあ、
バカすぎて話にならないよ。
こんなに人気者なのに自覚ないんか、
脳みそ空っぽかよ。

「もういいから行けば?部活、」
「…見に来ねーのかよ?」
「行かないよ」

気がつけば教室には三井と私しか残っていなかった。
「行かないよ」の私の言葉に重い空気を感じ取ったけどめんどくさいから気にしない事にした。

「うぉ!あの飛行機近くね!?」
「!?」

そう言って私を後ろから抱き締めるように窓の外に身を乗り出した三井に驚いた私は「ちょっと…!!」と咄嗟に振り向いてその大きな図体を突き飛ばした。

「キャッ!」
「あぶねっ…!」
「……」
「……」
「ご、ごめん!!!」
「……!?」

勢いよく三井を突き飛ばした事で私は三井に覆い被さる様に床に倒れ込んでしまった。
そんな私たちに今、この瞬間起きた出来事。

私たち…今、
唇と唇が触れましたよね!?

すぐに立ち上がって三井に謝罪をしてから私はまた窓の方に体を向けた。

バクバクする…
私の心臓…バクバクしてる!!

「名前、あのよ…」

三井の声が私の耳に届いた時、彼の方を勢いよく振り向いたら三井は床に胡坐をかいて後頭部に左手を添えていた。
…照れた時の仕草じゃねーかソレ!!
なに照れてんだバカ三井!

「事故だよね!?」
「は?、」
「事故事故事故事故事故!!!!!」

外で大声を出して練習をしている野球部員よりも大きな声を三井に浴びせたら急に座ったままの三井にグイっと手を引かれた。
状況を把握する間もなく私は胡坐を掻いていた三井の上に跨るような体勢になっていた。

「事故…、だってば」
「なにがだよ」
「みつ…お願い、やめ…」
「ああ…事故だな、」

そのまま三井の唇が私の唇に熱を落として
“二度目”の事故をくらった私は静かに瞼を閉じた。





 故だったの、
 唇がぶつかっただけの




(ねえ…部活は?)
(それどころじゃねーだろ)
(…不良か!)


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