愛しき日々の真ん中で
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��好き�≠ニ��愛してる�≠フ違いは何か。好きは自分を満たすものであり愛は相手を満たすもの。けれど私は思う。愛は完璧である必要はないと。真実であれば、十分なんじゃないのかな、って。
当たり前だった日々の懐かしい未来の詩が君のいない今日も静かに流れている。
消えそうな希望を胸に、残された未来の詩を、君と描いていた明日を、今日も生きている。
人を信じるということは相手への期待ではなく自分への決意。あなた無しでも生きていけるかも知れないけれど、今の私は既に、あなた無しでは生きる意味を見失ってしまいそうだ。それくらいに私はあなたにハマってしまっている。運命でもなんでもない。ただ偶然、二人が出逢っただけ。
それでも私はこの恋を、運命と呼んで死ぬまで忘れないと思う。
*
藤真さんとの温泉旅行(なお藤真さんは仕事)での帰り道、不意に開いたSNSには『結婚しました』『結婚したい!』『リーダーに昇格したい』などなど中学、高校、大学の友人達のキラキラとした投稿が溢れ返っていた。無意識に小さく溜め息を吐く。そんな私の様子を見て見ぬふりをした藤真さんは私の隣で相変わらず難しそうな表情のままノートパソコンを叩いていた。電車の窓から見える景色を眺めて私はぽつり、言葉を漏らす。
「みんな、すごい。」
「……ん?」
「目標があって羨ましい。私は、みんなみたいに何かに必死になったこともない。いつもなんでも中途半端なんですよね」
「そんなことないだろ。まだ見つかってないだけかも。絶対に諦めたくないって、思えるものに」
「どうなんでしょうね、あまり期待しないようにしてるんです、私。」
「なんで?」
なんで……。なんでだろうか。明日になれば、あなたはいなくなるかも知れないから。
今日の私を好きだったとしても明日の私を好きでいてくれる保証はないから。
「傷つきたくないから、ですかねぇ……」
「確かに人に期待しすぎるのは良くない。けど、自分には、期待してもいいんじゃないか?明日の自分は今日よりもいいんじゃないかって」
「……」
「人生はスポーツ観戦じゃないんだ。自分の人生を生きなくちゃな。見てるだけじゃ、せっかくの人生が無駄になるぞ」
「そうですね……。」
人は厄介だ。理解し合いたい、そう思うくせに実際は衝突ばかり。それはきっと心と言うものが目には見えないから。心という手強い相手に悩んで疲れ果てて最後は投げ出す。見えない心というものを相手に、私たちにできることはあるのか?きっと伝えるしかないんだと思う、思いを言葉にして。
今急いで伝えなくてもいい。いつか、心に届く日があれば。そう信じて、言葉にし続ける。そうすればきっと、普段は伝えられない思いも伝えることが、いつかはできるはずだから。
*
藤真さんはとても忙しい人だ。出会ったころは課長であった彼は、私とお付き合いしてから間も無く事業部長に昇格したらしい。だがそれも別に本人から報告されたわけではない。はじめて彼と結ばれた日にテーブルに上がっていた名刺を見て知っただけの話なのだが。勤務中に軽い気持ちで彼の会社を調べたとき彼が約1000人の上に立つ男だと知った。エリート旦那を日々血眼になって探している同僚に聞いたところ——どうやら歴代最年少でその地位に就任したとか、しないとか。
多忙な生活の中で、時間を捻出して私に会いに来てくれている事は馬鹿な私でも分かっていた。だから期待大、平井大(?)なんてことにはならないように日々、努めてきた。
世間様がお休みである週末でさえ、彼は忙しく働いている。平日も休日も関係なく突然送られてくる『今日空いてる?』という簡単なメッセージに『大丈夫です』と即レスするだけ。毎回即レスした後に余裕がなさそうに見えたかな?とか連絡を待っていたように思われなかっただろうか?と不安になるが事実、彼からの連絡を待っているのだから今ではもう自分のこの性格を諦めている。だがしかし、彼はそんな私の思考に反して『○時に迎えに行く』と簡単なメッセージを送ってきてそれに対してこちらも、結局は即レスで『分かりました』と返信をする繰り返しだ。
会ったら会ったで最近はとりわけなにか特別な事をする訳でも無く、藤真さんが予約してくれたお店で食事をし家に送って貰うという流れ。私の仕事終わりに迎えに来ては家に送って貰うという一時間も満たないデートも多く(これをデートと呼んで良いのか怪しい)そうして私のアパートに着いた瞬間に彼は、忙しなく自身の仕事に戻っていくのだ。
別にエッチをしたくて彼と会っているわけではないけれども……でも、私は彼に抱かれてから、どうも様子がおかしい。久しぶりに「ああ、この人とシたいなぁ」と思える相手と巡り会えた気がしている。欲求不満なのかな……。自分の話とは伝えず同僚にこの事を相談したら「身体の相性がいいんだろうね」と、あっさり結論を出された。幼馴染以外に何人かそういう事をした相手はいるけれども確かに、こんな気持ちは初めてかも知れないのであながち同僚の見解は当たってるかも。
話は戻るが、なのでお洒落なカフェでランチを楽しみ、ウィンドウショッピングをするなんて、夢のまた夢。こんなお付き合いをしている中で、こうしてあっさり始まったものはあっさり終わるのかなぁとか不安になったりもするけれど、でも私はそれはそれで満足していた。
高校時代に起こった大失恋が、未だ私の人生を狂わせていた日々を思えばあの幼馴染以外の誰かとお付き合いを始める前は、恋愛に前向きになれなかったことから比べれば、最低でも週に一回は会えているし私も会いたいと思うし、しっかりと今の彼氏の事が好きだし、大切だし、今が幸せでならない。欲張りになってはいけない……。多くを望んで、期待しないこと。
*
冬が終わりぽかぽかと暖かい日差しが降り注ぐ土曜の昼。買い物がてら近くの公園へと足を踏み入れた。家族連れやカップル達が芝生の上でピクニックやらを楽しんでいる光景が目の前に広がるのをベンチに座って見つめているだけの私の姿は周囲の人から見れば寂しい女に映るのだろうか。
鞄から携帯を取り出し空を見上げて一枚写真を撮ってみる。私、カメラセンスないかも……と、首を傾げて苦笑しながらメッセージ画面を開き、文章は添えることなく今しがた撮った写真をある人物に送った。きっとこのメッセージを彼が見るのは早くても、日付が変わった頃だろう。返信が欲しくて送っている訳では無い、これは、一種の共有である。私の見ている、過ごしている空間を彼と共有したいだけ。
「写真を上手に撮るコツってあるのかなぁ……」
そんな独り言を呟きながら携帯を鞄にしまい、ベンチから腰を上げて歩き出す。カツカツと音を鳴らし始めたヒールはもう、寿命かもしれない。底がすり減り、中の金属が顔を出しかけている。このヒールに代わる靴を見に来たはいいが、気に入るものが無かったので、もう少しだけお世話になろうかな、とも考えたが、あと一店舗だけ靴屋を、覗いてみるのもいいかも。このまま真っ直ぐ家に帰った所で、面白くもないテレビを見つめて時間が過ぎるのを待つだけだし。
手の中で空になった珈琲のカップを、目の前に現れたゴミ箱に捨てた時肩にかけた鞄が震えた。まさかと思い携帯を確認するとメッセージアプリの右上に赤色で���@�≠ニいう表示がされている。
藤真 健司
こんなに青い空を見たのは久しぶりだ
いつからか期待するのをやめるようになった。期待しなければ、失望する事も傷つく事もない。
期待しない人生——の、はずだったのに……。それでも奇跡を信じて現実を生きようと思えた。そんな日々が始まって、数ヶ月。あなたと過ごす日は、どんな日でも、私の大好きな日になるの。
*
公園の入口で手鏡と睨めっこをしては、走った事で乱れてしまった髪の毛が少し恨めしかった。高鳴る胸は、大人気なく走ってしまったせいか、それとも数分前に届いたメッセージを思いだしてなのか。少ししてから、耳に届いたマフラー音の高鳴りは、後者であると物語っている。
「お待たせ」
律儀に車を降りて私の為に助手席の扉を開けてくれる仕草が自然過ぎて、見たことが無いはずの藤真さんの裏の顔が目に浮かぶ。仕事中はもっともっと紳士的なんだろうな、って。
私が無事に乗り込むことが確認出来ると丁度、良い力加減で扉を締めて、素早く自身も乗り込みシートベルトをする様もカッコイイ。大変だ……カッコよすぎる、本当にこの人は。恋は盲目とはよく言ったものだが、藤真健司という存在全てがスマートで、カッコイイのだから困ってしまう。
「わざわざ来て頂けて、ほんと、嬉しいです」
「……」
返事はない。何なら横目で流し見されて小さく鼻から息を吐いたようにも聞こえた。呆れてるのか、必死な感じが伝わってしまったのだろうかと私も視線を泳がせて結果、窓の外を見ているふりを決め込んだ。
『こんなに青い空を見たのは久しぶりだ』
と、送られて来たメッセージには続きがあり、『帰宅時は送るから言って』と——。予想もしていなかった事態から冷静さを失い『もう帰る所です!』と自身の現在地を即レスしてしまった事はやっぱり今でも失敗したと思う。
車内は、藤真さんの匂いが強い。彼の愛用する香水の匂いだけではなく、煙草なのか何なのか、彼自身の香りが混じったそれは、初めて抱かれたあとに百貨店に並ぶメンズ香水をひたすら嗅いで見つけ出した物とはやはり別物だった。我ながらあの時の自分は、気持ち悪かったと思う。
真っ直ぐに前を見つめている藤真さんの横顔を盗み見ると本当に私はこの人とお付き合いをしているのだろうかとふわふわとした気分になるが。
「——なにか、俺の顔に付いてるか?」
赤信号で止まった際にこちらを向いて、微かに上がる口角がドキリと胸をときめかせ離さない。初めて出会った頃、タクシーを奪われたときは、くすりとも笑うことのなかった彼だが、付き合うようになって藤真さんはこうやって笑ってくれるようになった気がする。
「えっと。あの、これ……良かったら」
差し出したのは——藤真さんを待っている間に公園の自販機で購入した缶コーヒー。ありがとうと受け取る彼の指先が私の指先に触れた時は息が止まった。お付き合いを始めて、さほど経ってはいないが、未だに慣れぬ接触は息を止めてしまうほどに緊張してしまう。
信号が青に変わり、走り出す車。熱い顔が彼にバレぬ様に外を見るふりをして顔を横に向けた。見慣れぬ風景が次第に見慣れた風景に変化して、藤真さんとの時間の終わりが近いことが残念だと心底思った。けれども何を思ったのか藤真さんは私のアパートとは反対の方向へ指示器を出し曲がっていく。
「まだ、時間はある?」
「——え?」
「時間が許すなら、ちょっと付き合って」
「は、はい……」
どんどん離れていくアパートに私が思うのは、藤真さんの時間は大丈夫なのだろうかということだった。そんな事を私が考えているということを分かっているかのように「大丈夫だ」と、言った彼に、なんだか、いたたまれなくなってしまう。
「お前は、いつもそうだよな」
「え?」
「欲がない——というべきか、欲を上手く隠してるつもりで、すごく分かりやすい」
「……」
真っ直ぐ前を向く藤真さんの表情はよく分からなかったが、なんだか笑っているように見えて。
「今日は——なんでわざわざ、あの公園まで来たんだ?」
「……」
私が居た公園は藤真さんが働くオフィスの最寄りの公園だった。そんなの答えなくたって、彼は分かっているんだろう。少しでも藤真さんの近くに居たいと思ったから、と私に言わせようなんてまったく、意地悪な王子様だ。
「素直に、少しでも会えないか、って聞けばいいのにな」
「……」
「回りくどい写真を送って来て、俺からの連絡を健気に待ってる」
「……」
「まぁ俺は、そんなお前だから好きになったんだろうけど」
「——、」
聞き間違いかと思ってしまうほどに藤真さんの横顔には、なんら変化は見られない。
「でも次からは、名前からも誘って。」
仕事なんてどうにでもなる、と藤真さんが車を停めたのは、私が藤真さんに迎えに来てもらった公園だった。
「少し、散歩にでも付き合ってくれ。」
と、自らのシートベルトを外して車外へと出ていった藤真さんは助手席の扉を開けて覆い被さるように、私のシートベルトを器用に外した。突然近づいた顔に、体に、香りに硬直していると手を引かれ車から降ろされた私の体はバランスを崩し藤真さんの腕の中に収められる。
「——っ!!??」
え!?い、いま、そんな、抱きしめられる流れでした!!?……死ぬ。心臓が口から飛び出て、死んでしまう……。
背も高く細身のスラックスを着こなしてしまうスタイルの持ち主だとは知っているが改めて触れてみると鍛え上げられた逞しい体つきが手に取るように分かってしまった。やっぱり私……、欲求不満なのかも。私はもう息も止まり何故か反射的に出た「ごめんなさい」と謝る声は心の中だけで響いている。慌てて離れようとすると、ヒールが空気も読めず、カツカツと音を鳴らした。
ああ、あのときやはり冷静さを失い「もう帰る所です!」と自身の現在地を即レスしてしまったことを改めて再度、失敗したと思った。
二人、肩を並べて歩く。出来るだけ、ヒールの音が鳴らないように足元に気を配って。
手を繋げる距離——それでも、その手を取っていいのか分からず私は手持ち無沙汰になった手を肩からかけていた鞄の紐に持っていった。
「……あ、あの。」
「……?」
「私たちってその、付き合ってるんですよね?」
「……」
はっ!私ったら、会話に困ったからってなんて面倒くさい質問をしているんだ!でも、ちゃんと確かめたい。
足元ばかり見て歩いていた私の耳に金属の擦れる音が聞こえた。その音に釣られて、横目で彼の表情を確認するとどうやらポケットに手を入れたときに、鍵に触れた事で鳴った音のようだった。
「うん」
「……誰に聞かれても��私が彼女�≠セって��藤真さんが彼氏�≠セって答えますし藤真さんもそう、答えてくれますか?」
「うん」
「……」
——顔色ひとつとして変わらないのだが!?と目をぱちくりさせていると彼はやや目を細めて、「誰に聞かれるんだ、そんな事」と溜め息混じりに怪訝な顔つきで言った。
初めて抱かれた事もそうだし、こうして忙しい合間を縫って会いに来てくれていることもすごく嬉しいことなのに、なんだろう、これ……。なんだか、さぁ?ねえ、なんだかなぁ……。
「——これからのことだけど」
「……はい」
「��毎日連絡が必須�≠ヘ無しにしよう。お互いのタイミングでいい」
「……」
「飲み歩いたり、人と会うのも自由にしていい。もちろん性別は関係なく。必ず報告も、しなくていいから」
「……、」
「お互い、束縛はやめよう」
「……わかりました。」
束縛しないから、するなってことだよね?そういうルールが疲れるということは私もわかるけどなんか、本当に大人すぎやしないだろうか……。と、いうか——それってなんか、寂しくない!?
子供過ぎたのかも、高校時代のあの大恋愛が。正解が分からない。��大人の恋愛�≠チて難しい。
「——合鍵。」
「へ?」
「ちゃんと持ってる?」
「あ、は……はい。持って、ますよ?」
「いつでも好きな時に使っていいから」
「……え?」
「連絡もルールを設けないってだけで好きな時にくれていいよ」
「……」
「言っただろ?次からは——名前からも誘って、って」
「——っ、」
やだ。何それ。そんな太陽みたいにキラキラと爽やかな笑顔を向けられたら——。
藤真さん、甘いんだか……
辛
(
から
)
いんだか、分かんないよ、やっぱり。でもそういうところ、私は、とっても好きなんだよなぁ、実は。
「……何、ニヤけてるんだ?」
「え!?ニヤけてませんよ!」
「じゃあ、元々だらしなく口元が緩いのか」
「ちょ、言い方!!」
「ははっ。嘘だよ」
「——もうっ!!」
夏本番間近、まったくデレない合理主義彼氏ができました。そんな私の彼氏。基本ベースは素っ気ない人だけれど、ただ感情表現がそうなだけで会えば、いつだって優しいのだ。だって、ほら、気づいたら私の手を取って大きな手のひらで強く離れないように、握ってくれている。
10年前——ずっと好きだった幼馴染に精一杯の勇気を出したことがある。今思えばあのクリスマスイブの日、私は引き止めて欲しかったのではないのだろうかと思う。
でも結果、彼を失って、それから失恋するのが怖くなって、勇気を出しても断られるのではと、臆病になって、失恋もせず終わった恋がいくつかあった。ただもしも二度目の勇気を出すチャンスが来たら?
ああ、もっと自分に自信があれば。腹の底の勇気を引っ張り上げて奮い立てるのに。自信を吸い取るものを取り払えば、相手にぶつかれる——?
自分らしく生きるためには、失うものもある。自分らしさは他の誰にも真似できないもの。自分が自分らしくあるために手放さなくてはならない恋もあるだろう。
小指の赤い糸は、やがて現れる誰かと繋がっているはず。自分らしさを活かせる人といつかきっと出会える。だからもう、失恋を恐れるのは止めよう。未来に向けて、ゆっくり立ちあがろう。
私の
声
で、伝えたい——。
(——藤真さん。)
(……なに?)
(藤真さんと、二人きりに……なりたいです。)
(……)
(……)
(わかった。じゃあ二人きりになれる所に行こう)
※『 愛しき日々の真ん中で/平井大 』を題材に
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