狂ったように、独占したい。
独占。その文字は、まぁよく考えられたもの。
漢字は上手く意味を表す。
『独』り『占』め。
読めばそう、子供の我儘ような言葉。
しかし、それもまた人間の性。
子供であれ大人であれ、
結局は同じホモサピエンス。
ただの人間。
最終的には、そこへ行き着いてしまうのだ。
その時だけは、ゾロの様子がおかしかった。
いつだって素直。自分に上手く嘘がつけない、それが彼だった。
自分が何かしたんだろうか、と私は今日一日の自分の生活を頭に思い浮かべた。
ロロノアゾロの彼女の私は、さっきからずっと隣で口を閉ざしたままの彼氏の横で、頭をひねっていた。
ゾロは焼餅焼きなので、私が少しでも男子(麦わらの一味ですら)と話すだけでいちいち拗ねる奴だった。だからいつも仲間に話し込んだ日には、さんざん宥めまくるものだ。自分だって女子(ナミとかロビン)と話すでしょ、と。
しかし今日は違った。二人とも特にお互いが気に触るようなことはしていない。なのに何故なのか?
島に向かう船の甲板の上、遠くの海を眺めているゾロを見やると、ゾロは瞬きすらしないで、ただ一点を見据えていた。
島に着き、自分たちを乗せてくれたサニー号にしばしの別れを告げ、微妙な距離と、とりまく空気の中、二人で船を降りる。
何の会話もないまま、降りた島を歩く。手も繋がない。奇妙なことだろう、はたから見れば。しかしこの二人は正真正銘のカップルだ。
いつもは手を繋ぎながら歩き、お酒なんかを買い足して、出店で食べ物を買ってつまみ、そうやって島を探索するのが、恒例だった。
しかし今日は、そんないつもの光景が嘘のように過ぎていく。酒屋にも、出店の人にも、声を掛けられても見向きもしない。
こんなゾロは、本当に初めてだった。
「ゾロ……」
私が本日初めて、彼の名前を呼んでみたりする。
呼ばれた彼は無言だった。反応もなく、ただ自分の目の前をいつもみたいに歩くだけだった。今日の彼は、手を繋ぐ気すらもないらしい。
「ゾロ」
もう1回呼んでみた。しかし反応はない。私はだんだんわけがわからなくなってきた。
第一、らしくないときは大抵なにか壁にぶち当たったときだ。ゾロはそういう男だ。
「ゾロ、怒ってるの?」
一抹の疑問を、そっと口に出してみた。すると今日初めて、ゾロはぴくりと反応を示した。
「怒ってねェよ」
今日初めて彼の声を聞いた私は、うれしかったし、そしてすこし安堵した。とりあえず怒ってはいないらしい。
「じゃあ、なんで黙ってんの?私が何かしたの?」
私がそう言うと、ゾロの足はすこし速まった。私はそれに気付くと小走りでついていく。
「やっぱ私がなんかしたんじゃん」
そこでそうなるということは。
ゾロは私の前を歩く。
その背中は私になにかを語っているのかもしれない。しかし私にはそれが何なのかわからない。
「ゾロってば」
名前を呼んでも、振り返ってすらもらえない。立ち止まる術はない。
「ゾロっ」
このまま追いつけなければ…
きっとこんな、不可思議な状態なまま、船に戻ることになるだろう。
「ゾロ!」
私は咄嗟にゾロの腕を掴んでいた。
それ以上前に進めば、きっと戻れない。
「……ゾロは、いいの?」
私はゾロに詰め寄った。
「なにが」
ゾロが前を見たままで返す。
そんなゾロの腕を、自分の方へ引くと、風が吹いた。
「私に、言いたいことあるんでしょ?」
遠くで騒いでいるルフィの声がして、続けざまにサンジくんの声も混じって聞こえた。
「……」
「このまま黙ってたらなにも変わらないよ?それでいいの?ゾロはそれでいいの?」
いつまでたっても私の目を見ない、素直じゃない彼に、私は声を張り上げて叫んだ。
「そんなゾロ、だいっきらい!」
叫んだとき私の目に映ったのは、
横切る島民たちの日常的な会話と、
引かれる自分の腕と、
それを掴むゾロの腕と、
視界に広がるゾロの胸と、
「うっせェよ」
その合間に何かを呟いた、ロロノアゾロだった。
人並が通り過ぎた。
「………」
抱きしめられた格好のまま、動けなかった。
「ゾ、ロ」
名前を呼ぶと、腕の力が増した。
「……俺よ」
顔を彼の胸から離すと、
「今日お前のこと……帰せねぇ」
泣き出しそうなくらい目を滲ませた、
彼だった。
例えば、自分が、
相手の全てを欲しいと、思ってしまった時。
いくら言葉が自分を、好きだと言っても。
どんなに身体を重ねても、
満たされることのない、不安。
渦巻いた感情の、行き場のない不信感。
異性と話すわけでなく、
ましてやありきたりの日常の中に、
同性であるのに、そばに居られてしまう、
自分じゃないほかの誰かが。
「帰せねぇよ……」
「ゾロ?」
「帰したくねぇ」
こっちは好きすぎて、
おかしくなっちまったんだ。
このままさらって、逃げ込んで。
そのままずっと、離さない。
髪も、鼻も、耳も、唇も、
頬も、首も、肩も、腕も、
手も、脚も、瞳も、
指先の最後すらまでも、全部閉じ込めて。
『自分だけのものにしたい。』
人並が去った理性と現実の狭間。
前に進めば、もう戻らない。
『独』り『占』めしたい。
そんな本能が。
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