豪炎寺と出られない部屋

【巨大パフェを完食しないと出られない部屋】

「ウッ」
「大丈夫か華那芽……ウッ」
「あんたが大丈夫か豪炎寺……」
「……夕香によく、甘いパンケーキを作ってやったことがある。俺も一緒に食べた。だからこの程度問題ないと思っていたが……」

 豪炎寺は憎々しげにその大きなスイーツを見つめた。規格外の巨大なグラスの底を埋める大量のコーンフレーク。バニラアイスクリーム。カットバナナ。スポンジの層。プリンの層。生クリーム。マシュマロ。カットイチゴ。またバニラアイスクリーム。またカットイチゴ。突き刺さるチョコレートポッキーとウエハース。生クリームのデコレーション。そして惜しみ無く掛けられたチョコレートソース。
 最初こそ二人の調子は良かった。何せこのパフェ、普通に美味しい。ふんだんに使われたイチゴがさっぱりとしていて食べやすい。生クリームはかなり良いものを使っているらしく、ずっしりと濃厚で、舌触りもなめらかだ。対してバニラアイスは淡白であっさりとした味わいだが、鼻に抜けるミルクの風味が味を引き立てていた。

 しかし如何せん、量が狂っている。明らかに二人で食べきれるような代物ではなかった。というか、五人居てもまだ足りないくらいだ。
 多量摂取した糖と脂肪が、まるで毒素のように体に充満していく。本来スイーツなんて食後に頂くものであって、間違っても空きっ腹をそれだけで埋めるようなものではないのだ。健康に悪いどころの騒ぎではない。このパフェ、角砂糖何個分だ? 三千個くらい入っているのではないだろうか? 一生分の糖分だ。なんなら来世の分まで先取りしている気さえする。ウッ吐きそう。凪沙は口を押さえた。

「まずいな……アイスが溶け始めている」
「まずいじゃん……」
「このままでは俺たち二人、ただでさえ飽和状態だというのに溶けた甘い液体を飲み干さなければならなくなる」
「死ぬじゃん……」
「とりあえず俺がペースを上げよう。華那芽、お前は命が惜しかったら少し休んでいろ」
「命懸けじゃん……」

 しかし実際、胸焼けで死にそうになっているのも事実だった。凪沙は彼の言葉に甘え、一旦スプーンを置いた。

(にしても、男子って本当よく食べるな……)

 改めて見ると、ようやく全体の半分ほど食べ進んだというところだろうか。つまりこれまでの過程で、凪沙と豪炎寺は半分を手分けして食べていったことになるが、実際のところ量を減らしていたのはほとんど豪炎寺のほうだった。凪沙が特別少食というわけではなかったが、まず一口のサイズの差が大きく、食べる早さも違っている。男女の差の違いを改めて思い知らされた。しかも気遣いができる上、純粋に顔が良い。世の女子たちが騒ぎ立てたり、豪炎寺ファンクラブなるものが雷門に存在する理由もなんとなくわからないでもなかった。……いや、それにしたって彼の人気は恐ろしく高いが。

 それにしてもだ。スポーツ選手にとってこれはどうなんだ? せっかく料理長兼任の析谷のもと、バランスの良い食事を用意しているというのに。こんなに糖分と脂肪分とカロリーの暴力を受ければ、明らかに今後に支障を来すのではないか? 今までの努力が水泡に帰すのではないか? やはりこれはオリオンの卑劣な手口か? ならば、こうして指示されるがままにお題にチャレンジしているのは、あまりにも愚かなのではないか?
 凪沙は黙ったまま、ゆらりと立ち上がる。

「華那芽? どこに行く?」
「腹ごなしも兼ねて扉壊せないか試してくる」
「ああ、頼むぞ。お前ならきっとできる」
「いや信頼寄せすぎじゃん……」


back
topへ