新入部員と初対面2

「えんど……」

 ガラリと開いた扉に、一同が顔を明るくしたのもつかの間だった。先んじて部室にいた新入部員の壁山、栗松、宍戸、少林寺は、今しがたやってきたのがまるで見知らぬ顔であることに一様に目を丸めていた。

「……円堂、は?」

 その女子生徒は、室内を見るや否や硬直していたようだったが、なんとか絞り出したようにそう尋ねた。学年は判然としないが、円堂と呼び捨てにしたあたり、彼と同じ二年か三年であることは確実だろう。
 初対面の先輩に対して、しかも慣れない部室で緊張していることもあり、四人はなかなか声を出すことができない。まだ固い新品のジャージが、余計に体を強張らせていた。

「それか、秋ちゃ……木野さんか、染岡か、半田は……」
「せ、先輩たちは……もうすぐ戻ってくるとは、思うんですけど……」
「……また……かよ……」

 恐る恐る答えた弁髪の小柄な少年──少林寺に、女子生徒が背けた面持ちはひきつったような、強張ったような、とにかく負のオーラを纏っていた。一体なにが「また」であるのかは分からなかったが、愕然と悄然を交えた彼女の様子に、一年生たちは身を寄せて緊急会議を開く。

「(どっどうしよう! ボク何か変なこと言っちゃったかな!)」
「(そっそれより一体誰でヤンスかね!? オレたちどうすれば……!)」
「(居たたまれないッス……お腹痛くなってきたッス……!)」
「(ど、どうする……この空気どうする……!?)」

 ひそひそ、こそこそと焦りを滲ませる四人。対する女子生徒のほうも、二の句が継げないように立ち尽くしている。
 彼女は制服姿で、肩には鞄を掛けていた。手に持った紙袋は気になるが、そのまま下校できるスタイルは、彼女がおそらくサッカー部の一員ではないことを示していた。そもそもキャプテンの円堂から現時点での全部員を紹介された時にも、彼女の姿はなかった。
 ちなみに、新入部員を入れてなおサッカーに必要な十一人が揃わないことに、一年生たちはすでに内心不安を募らせているのだが、その話は置いておく。

「……」
「……ええっと、あの……」
「……出直、す、出直します」

 もっとも対人に強い少林寺が再び口火を切ろうとしたところで、彼女は今一度視線を泳がせてからそう告げた。そうして彼女が逃げるように踵を返した瞬間、空気を一変する大声が雷鳴のごとく響いた。

「たっだいまー!」
「円堂……!!」
「キャプテン!!」
「キャプテンお帰りなさい!!」
「待ってましたキャプテン!!」
「キャプテンーーーッ!!」
「いやどうしたんだ!?」

 大きく手を振って帰還した円堂は、早々に泣きつかれるように名を呼ばれてさすがに狼狽を見せる。その彼の後ろから、今度は秋、半田、染岡が顔を出した。

「オイオイどうしたお前ら」
「あら、凪沙ちゃん! 来てくれてたのね」
「よっ華那芽」

 見知った面々が続々と現れ、気安く名を呼ばれたその女子生徒──華那芽凪沙は、どこか肩の力を抜いたように見えた。それだけで彼女が、彼らと仲の良い友人であるのだと一年生らは瞬時に理解した。

「先輩らだけでどこ行ってたの」
「ほら、部員も倍に増えたからよ。もうちっと予算のほうをどうにか〜って、生徒会に」
「ま、本来部長だけでいいんだろうけどよ……円堂に交渉事なんて向いてないだろ?」
「あー……言いくるめられて返されるのがオチだろうね」

 半田と染岡の説明に、凪沙は納得した様子を示している。先輩部員らに当たり前に溶け込む彼女を、ぽかんと眺める一年生たちに気づいた円堂は、ハツラツとした笑顔で「紹介するよ!」と告げた。

「華那芽は俺たちと同じ二年生で、サッカー部じゃないんだけど、一年前からずっとサッカー部のこと応援してくれてて〜、それで」
「や、わざわざそういうのいいから本当。おらこれ差し入れ」
「え! うはぁ〜! ありがとう華那芽!」

 まだまだ語り続けそうだった円堂を、凪沙は手元の紙袋を押し付けるようにして遮った。途端、円堂の瞳がさらに光度を増す。

「華那芽の差し入れ久しぶりだなぁ! って、これ、いつもの倍くらいあるけど……もしかして」
「……後輩入ったって、聞いたから、入部祝い的なの、兼ねて……」
「華那芽〜!!」

 今にも飛びついてきそうな円堂を片手で制しつつ、凪沙はどこか逃げるように秋のもとに近寄った。秋はプリントの入ったクリアファイルを手にしていて、おそらく先ほど生徒会から受け取ってきたものだと察する。その間に円堂は、おいてけぼりを食らっていた一年生たちに、先ほど受け取った紙袋ごと駆け寄った。

「ほら、お前たちの分もあるってよ!」
「あっ……ありがとうございます!」
「わざわざ俺たちのために作ってくれるなんて……!」
「嬉しいッス! 美味そうッス!」
「別に……余ったレモン腐らせたくなかっただけだから」
「あ、す、すみません浮かれちゃって……!」

 どこか低い温度で言い放つ凪沙に、一年生たちは僅かに怯えたように声を潜めた。しかし半田が間髪を入れずに、彼女の肩にがさつに腕を回す。

「おいおい華那芽〜ソレ決め台詞かなんかか?」
「は? ちょっ」
「ププッ不器用の極みだなお前は〜!」
「うっさい離せ離せ」
「こいつ人見知りコミュ障なだけだからよ〜、お前ら気にしなくていいぜ」
「半田ちょっと表出ろ」

 そう言う凪沙は怖い顔をしていたが、半田に弄られる様を見せられたからか、威力も半減だ。その光景を目の当たりにした一年生たちは、再び肩を寄せ合い会議を開く。

「(……ね、華那芽先輩って、思ったより怖い人じゃなさそうだね)」
「(むしろやさしいッス! 美味しい差し入れくれるなんて!)」
「(会ったこともないオレたちのために……)」
「(いい先輩だなぁ……)」

 先ほどまで凪沙に抱いていた印象が、たちまち塗り替えられていく。周りの先輩たちの反応や、わざわざ作ってくれた入部祝いの差し入れからは、彼女の人となりがよく感じられて、新入部員たちは顔を見合わせては嬉しそうにニヤニヤとしていた。
 そんな彼らの様子に、半田もまたニヤニヤと──彼に関しては明確に煽るような表情で、凪沙を窺った。

「いやぁ、コミュ障華那芽くんもいつの間にか、立派な先輩に成長したもんですな〜あだっ!」
「蹴った」
「事後報告!!」


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