ロナルドと出られない部屋
「ゼエ……ハア……」
「駄目そうですね……」
堅固な扉の前にて、肩で息をするロナルドさん。彼のゴリラもかくやというパワーを以てしても開けられない以上、やはりそこに示されたお題をクリアするしか、この部屋から出る術はないのだろう。いやしかし……
【一分間ハグしないと出られない部屋】
ちらりと文面を見て、私はまた小さく肩を落とした。
吸血鬼出られない部屋とかいう珍妙な吸血鬼の出現により、諸々のアレで詳細は省くが、気づけば私はロナルドさんと共に、四方八方塞がれたこの小さな白い部屋に閉じ込められていた。練度の高い結界術により、出ることも叶わないし外の様子を窺うことすらできない。今、外からはどう見えているんだろう。助けを期待できるかも分からなかった。
「ロナルドさん、どうしますか。もう腹くくります?」
「いやっ……ちょ……ゼエ……もっかい!」
私の提案を振り切るように、ロナルドさんは再び扉に体当たりをしたが、当たり前のようにびくともしない。ロナルドさんだけが頑張って、ザコの私はじっと待機しているだけというこの構図、さすがに申し訳なくてやってられなかった。
実はこのお題、私からしたら絶対拒否というようなものではない。ここから出るためだし、ハグ程度なら何かを失うレベルでもないし、第一相手はロナルドさんだ。身近な人の中でもトップクラスに好意的に思ってる人だし、色んな面で信頼できる。多分例の吸血鬼に娯楽として監視されているだろうということは看過しがたいが、脱出したらロナルドさんに成敗されるだろうから今だけ目を瞑ればいい。
だけど先ほどから、ロナルドさんのほうがひたすら渋っていた。吸血鬼の言いなりになるのが癪なのか、それとも私という異性に対して紳士性を発揮してくれているのか、はたまた私との接触を断固拒否しているのかはわからないけれど、とにかく意地でもお題クリア以外の方法を取ろうとしていた。
だけどいくら挑戦しようとも扉は壊れもしない。ロナルドさんの拳銃も効かないみたいだし、ここまでくるともうお手上げだ。
閉じ込められてからどれほど経っただろう。これほど長い時間結界を維持していられるなんて、余程能力の強い吸血鬼に違いない。このまま待っていても埒が明かないことは、多分ロナルドさんだって分かっているはずだ。だから私が強行策を取ることも、そろそろ許されたい。
「……ロナルドさん、ちょっと失礼」
「なん……ヘアッ!?」
さんざん暴れ倒してげっそりしていたロナルドさんの正面に回って、私は有無を言わさず抱きついた。鍛えられた胴に腕を回せば、彼が長身なこともあって、必然的に頭が彼の胸元に触れる。窒息しないように横を向くと、耳に直接心臓の音が刻まれた。体の前面が他者と触れ合って熱がこもる。緊張して妙な気持ちになる。いや、心を殺そう。変に下心があると誤解されたくない。これは木。そう、発熱した大木だ。
「ちょっ、待、エンサン、ちょっ、マッ」
「一分だけですから。我慢してください」
「あ、う、あ、ヒィ、」
喃語を繰り返すロナルドさんは、完全にテンパっているようだった。鼓動が心配になるくらい、とても速い。体温が高いのは元からだろうか。筋肉のついた体は硬いが、さらに強張っているような気がした。
こっそり視線をずらして上を窺うと、彼はその外套に負けないくらい顔を真っ赤にして硬直していた。汗も酷くかいていて、これじゃ私がセクハラしてるみたいだ。いや、あながち間違いでもないのかもしれない。私が年下の女で本当に良かった。性別か年齢どちらかが逆だったら捕まっていたかも分からない。すみませんねロナルドさん、嫌かもしれないけど少しだけ我慢してくれ。
扉が開いて吸血鬼出られない部屋がボコボコにされるまで、あと四十秒。