ミスラとシュガー


「聞きましたよ。あなた、色んな魔法使いからシュガーをもらっては犬のように尻尾を振って喜んでいるそうですね」
「ちょっと誰ですかそんなまとめ方したの」

 確かに近頃、長命の魔法使いを中心に「さあお食べ」と言わんばかりにやたらとシュガーをもらっていた自覚はある。孫に対する可愛がりのようなものを突っぱねる理由も特になく、星々のように煌めくそれに甘やかされていた。
 魔法使いのシュガーは、作り手の個性が表れる。形だったり、密度だったり、それから付与された効果や祝福も、全てが同じものはない。絵と少し似ていた。同じようなものを描いても、それは同じではない。同じ色を寸分の狂いもなく再現するのは不可能に近い。まあ、人の目で見たら同じ色は同じだけど。
 シュガー越しに、相手のことをまた少しだけ知った気持ちになれる。そんなのは気のせいだとしても、私はちょっと嬉しい気分でシュガーを食べていた。だけど、そんなふうに皮肉っぽく表現されるのは心外だ。ミスラさんをじとりと見つめていると、意外な言葉が降ってきた。

「俺の作ったシュガーも欲しいんですか?」
「え、くれるんですか? 欲しいです」
「……そう言われると、あげたくなくなるな」
「何で聞いたんですか……」

 天邪鬼なのか、意地悪なのか、両方か。急に気が逸れたように腕を組んだミスラさんは、相変わらず気分で生きているようだ。もらえたら嬉しいけど、別にもらえなくても死ぬわけではないので、執着することもない。

「じゃあ、いつか気が向いたらください」
「は? ちょっと、どこに行くんですか。そんな簡単に諦めたら俺のシュガーの価値が低いみたいでしょう。もっと粘ってくださいよ」
「ええ……」

 また面倒なことを言い出した。まあでも、これでもミスラさんのことは少しずつ分かってきたつもりだ。彼には彼の矜持があって、小娘に乞われるがままに力を振るいたくはないのだろう。だけど、欲しがられたい。彼は素直なんだか偏屈なんだか、不思議な人だ。

「ミスラさんのシュガー、欲しいです。作ってください」
「うーん……もう少し」
「よっミスラさんのシュガー最高峰。世界が震える高尚さ。喉から肩まで出るほど欲しいです」
「ふふん、そりゃあ俺の作ったシュガーですからね……気分が良くなってきました。今後もその調子でお願いしますよ。それじゃ」
「くれないんかーい」

 ここまで言わせておいて踵を返すとはこれいかに。そっけないどころの騒ぎではない。
 彼のシュガーに特別執着はしていなかったはずだけど、口に出していたらだんだん欲しくなってきた。強くて、のびのびとしていて、でもたまに素直じゃなくて、孤高と自由を愛するこの人は、どんなシュガーを作るのだろう。
 長い脚で廊下を進む彼の後ろを、小走りでちょろちょろ着いていく。ミスラさんは一瞬だけちらりと目線を寄越したが、気にせず歩き続ける。

「あーあ、欲しかったなぁミスラさんの最高のシュガー」
「……」
「強くてかっこいいミスラさんが作ったシュガー、きっとめちゃくちゃ強くてかっこいいんだろうなぁ」

 強くてかっこいいシュガーって何だろう。自分で言っておきながらわけ分からなくなっていると、ミスラさんはぴたりと歩みを止めた。振り返った彼が得意げに宙で手をかざすと、光の粒を閉じ込めて固めたように小さなシュガーが数粒生まれる。それはどこか幻想的で、美しい色合いをしていた。

「ふふん、そこまで言うならくれてやります。強くてかっこいい俺が作った、強くてかっこいいシュガーです。ありがたがってください」
「わあい、ありがとうございま……んぐ」

 何の準備もなしに口に押し込まれた。相変わらず遠慮ねーなと思いつつ、舌の上で溶かす。ミスラさん製の強くてかっこいいシュガーは、普通に甘くて、やさしい味がした。