「あっなまえ何それ可愛いー!」

朝。机に頬杖をつきながら携帯をいじっていたら、やって来た前の席の友人がおはようも無しに、私が頭に付けているものに飛びついた。

「でっしょ!昨日お店で一目惚れしちゃってさぁー…」

言いつつ、その新しいカチューシャに触れる。薄い水色で、端の方にちょこんとワンポイントがあるそれは私の好みに見事ドストライクだった。一瞬も迷うことなくレジへ直行したほどだ。そのことを熱心に説明すれば、友人の口からふは、と笑い声が漏れた。

「でもさー、カチューシャって耳の後ろ痛くなんない?」
「なるなる!それさえなければ最高なんだけどねぇー」
「そう思うとさ、東堂てすごくない?四六時中カチューシャ付けてんじゃん彼」
「あ、確かにね!東堂君すごっ」
「男のくせに美肌だしね」
「あと美髪だし」
「それに生え際の形超綺麗」
「ぶふぉ!」

友人のマニアックすぎる褒め言葉に思わず吹き出す。いや確かに東堂君生え際綺麗だけども!
やめてよーと友人の肩辺りをぺしりとはたいていると、廊下が急にざわつき出した。そのほとんどが女の子特有の高い声で構成されており、その中心にちょっと独特な、しかしながらハコガク女子なら皆口を揃えてかっこいいと称すだろうイケボ。
噂をすれば何とやら。クラスの、いや学園の人気者、東堂尽八のご登場である。

「やあやあ皆、おはよう!!」

東堂君が"いつもの指差すやつ"をしながら挨拶すれば、教室の女子がきゃあきゃあ騒ぎ出す。おはようだけでこれである。東堂君イケメンだもんなぁ。それに天真爛漫だしなんか部活でもすごいらしいし。なんだっけ、あれ…トークも登れてなんちゃらみたいな…。

「あっ、東堂君カチューシャ新しいねー!」
「ふふふ、これはショップで見た瞬間一目惚れしてしまってね!どうだ、俺の美しさを最大限に引き出しているだろう!!」
「めっちゃ似合ってるよー!このワンポイントの模様とかさ、すごい良いね!」
「だろう!?」

へー、東堂君新しいカチューシャ買ったんだー。私と同じようなこと言ってるし…へーワンポイントねー…………。
友人につんつんと肩をつつかれる。何か言っているようだったが、今の私の耳にはまったくもって入ってこなかった。
ふいに東堂君がこちらを向き、ぱちっと目が合う。
東堂君の頭には、薄い水色の、端の方にワンポイントが付いている、カチューシャが…。

私は椅子から飛びあがり、左手を背もたれ、右手を机の手前に置き、頭を机の下につっこんだ。その際角に思い切り頭頂部をぶつけるがそんなことを気にしている場合じゃない。

「…あんたいきなりどうしたの」
「いやそのアレ、床にテントウ虫がアレ」
「季節違うけど」

適当すぎる言い訳を述べ、すかさず頭からカチューシャを取り外す。ボサボサに乱れた髪を手ぐしで整えつつ机から頭を出せば、怪訝そうな二つの瞳がこちらを見ていた。当り前である。
焦った。非常に焦った。まさか東堂君と被るなんて。びびった。マジありえん。
机の横に掛けている鞄のチャックを開ける。そこに外したカチューシャをしまおうと伸ばした手が、途中で止まった。止められたのだ。
東堂君に。

「とっ……」
「何故だ!!」

どういう訳かわなわなと震えている東堂君が、声を張り上げた。何故、と言われたことも、手を掴まれていることも、何も理解できなくて脳内でハテナが増えていく。気付いたら東堂君が間近にいたという驚きと、男子(しかもイケメン)に手首を掴まれているという緊張で心臓が過剰に脈を打った。

「何故!外したのだ!!」
「え!?」
「そんなに俺と同じが嫌だったのか!?」
「や、そういう訳じゃ…」
「じゃ、じゃあ何故なのだ!!まさかみょうじさんは俺が嫌いなのか!?」

クラスの視線が集まる。なんだ、やめてくれ、私は注目されるのが苦手なんだチキンなんだ。嫌いって、いやそんな訳がないだろう!別に好きって訳じゃないけど目の保養だし、話は普通に面白いし、なんだ、どうして私がこんな目に…!!

「えっ…と、その…」

言葉が詰まる。確かに、よく考えたらさっきの私すごい感じ悪いじゃん。そりゃ東堂君怒るわけだ。いやでも仕方なくない?あの東堂君とお揃いとかそんなん無理無理無理死ぬしかない。ってそんなことは置いといてどうする私。とりあえずあれか、なるべく刺激しないように当たり障りのない、しかし相手を持ち上げるような言葉のチョイスを…。

「ホラあれ、私なんかが東堂君と同じもの付けてるとか、おこがましいというか…ね!!」

笑顔を取りつくろい顔を上げる。しかしそこにあった東堂君の顔は眉間に皺が寄せられていて、どっからどう見ても不機嫌顔だった。しかしイケメンというのは怒っていてもイケメンなんだな。なんて場違いな感想が出てくるあたり、私はもうどうにかしているんだろう。

「そんなくだらない理由とは…!」
「えっ…サーセン…?」
「せっかく可愛いのだから、もったいないだろう!!!」

は、と思考が一時停止する。その隙に手からカチューシャを奪い取られ、それの両端を持った東堂君の手が私の頭の上へ移動した。頭皮にカチューシャの先が当たり、そのまま下へと下げられる。耳に一瞬だけ手が触れて、顔に熱が集まった。

可愛い、とは、カチューシャの事だろうか。それとも、いやいやいやいや、まさか、そんな、いやいやいや自惚れてんじゃねーよ私死ね!!!!

「お揃いだな!!」
「…そ、うデスネ」

にかっと笑う東堂君が眩しくて、思わずカタコトになる。東堂君に触れられた耳は、ただひたすら熱かった。


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