「ありがとうございます」

 賑々しい蝉の声にもかき消されない、細いけれど凛とした声。彼女は、僕が委員長を務める保健委員会の後輩だった。元々は数代前の保健委員長だった彼女の兄と交流があり、その流れで知り合った女子生徒だ。
 彼女はいつも僕を助けてくれた。委員会活動時はもちろん、時には、グラウンドから飛んできた暴投バレーボールから。時には、先生に頼まれたプリントを運搬途中に何故か落ちていたバナナの皮を踏んづけてこけそうになったところを。昔から妙に不運を寄せやすかった僕を、彼女はいつも、どこからか現れて助けてくれた。まるで忍者みたいに。かっこよくてやさしい、僕の自慢の後輩。
 委員会の仕事を終え、同じ帰り道で買った同じアイスを齧る。もっと高いやつを奢ってあげるつもりだったが、彼女が選んだのは一番安いソーダバーだった。遠慮したのかとも思ったけど、こう暑いとさっぱりしたものが食べたい気持ちも分かる。たった一口咀嚼するだけで、熱気に包まれていた全身にソーダ水を浴びたように、爽やかな涼しさが駆け抜けた。

「おいしいね」
「はい」

 日の入りが遅く、夕方になってもまだまだ暑さは続く。汗がうなじを流れる感覚がした。校内ではいつも涼しげな彼女も汗をかいていて、夢中でアイスをかじっている。それでも、一口の大きさが違う分、僕のほうが食べ進めるのが早かった。溶けて手に流れた雫を気にしていると、木の棒の刻印が見えているのに気がつく。

「ハズレの『ハ』だ。あはは」
「あまり当たりませんよね、こういうアイスとかって」

 ぽつぽつとおしゃべりをしながら、歩幅を合わせて隣を歩く。次の角でバイバイだった。横からふいに「あっ、先輩」と声が上がり、まさかと目を丸める。

「もしかして!」
「……『ハ』です」

 なんて、照れたように目を細めて笑う姿が可愛らしくて、いつも真面目な彼女が冗談を振ってくれた愛おしさに、寸刻息が詰まる。
 食べ損ねていた最後の一口から、ソーダ水がまた手を伝う。

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