(……?)
2限目の授業中、先生の話を頭の半分くらいで適当に聞きつつ今日の昼食に思いを馳せていた時。突如、頭皮の一部分に、違和感を覚えた。言うなれば、髪の毛を一束、くんっと引っ張られているかのような感覚。
私の筆箱には小さな鏡がくっついたストラップが付いている。それを駆使して後ろの光景を確認すると、後ろの席の松野一松くんがなんと私の髪の毛で手遊びをしていた。
彼とは前後同士たまにお喋りするような仲で、大抵は私からしか話し掛けない(いや……嫌がられてたりなんかはしないはず……)のだけれど、彼は元々人付き合いが得意なほうではないらしく、他の女子どころか男子とも、話しているところはとんと見掛けたことがない。ひとつ例外として、彼の兄弟と、そして彼らの幼馴染みらしい弱井さんとは話しているけれど。ああ、でも弱井さん相手だと若干ぎこちなかったような。わかるわかる、弱井さん可愛いもんねいくら幼馴染みと言えど緊張しちゃうよね。
なんて考えながら、されるがままに髪の毛を弄られる。頭から伝わる感覚は、あまりたどたどしい手つきではなくて、少し意外だ。松野くん猫好きだし、もしかして同じくらいの感覚で弄っているのだろうか。なんか、猫よりよっぽど太くて硬い髪だと思うんだけど……ごめん。
心の中で何故か謝罪を入れつつ、考える。もしこれが、他のとくに仲良くもない男子だったら――そもそも、そんな状況に陥るなんてあり得ないわけだけど――なんとなく、いい気分ではなかったかもしれない。でも松野くんなら、最近よく話してるし、いいような気がした。異性に髪を触られるなんて、どこか気恥ずかしさがないでもないが、なんというか、悪い心地では全然なかった。
*
チャイムが鳴り、ようやく午前の時間が終わる。教科書類を鞄の中にしまいこみ、かわりにお昼ごはんのお弁当と水筒を取り出した。ああ、いや、それより先に手洗って……ついでにトイレも行ってこよう。
「なまえー、お昼食べよ」
いつも一緒にお昼ご飯をとっている友人が、購買で買ったパンを片手にこちらへやってくる。私は椅子から腰をあげつつ、トイレ行ってくるから先食べててーと適当に返した。友人の了解の声を聞きながら、彼女の隣を横切ったところて、突然ぶはっ! と盛大に吹き出す音が聞こえる。かと思えばその友人は、女子らしさの欠片もなく、お腹を抱えて笑い出したのだ。
「ちょ、ちょっとなまえそれどうしたの!? 頭!」
「は……?」
何を言っているんだ彼女は。頭、とは、髪型のことか? 何を言う私は今日もいつもと代わり映えのない髪型のはずで、笑われる要素なんて何一つ……。困惑しつつ、私は自分の後頭部に手を伸ばした。しかし指先に触れたのは、圧倒的予想外なことに、いくつものぽこぽことした謎の感触。
嫌な予感がした。私はあわてて鞄から鏡を取り出し、例の鏡つきキーホルダーと合わせ鏡にしてそれを確認すると―――いくつもの三つ編みが垂れ下がっており、オシャレとは程遠いような、ヘンテコな髪型に様変わりしているではないか!
脳内で、たまに松野くんが私に見せる「ヒヒッ」とニタニタした嫌らしい笑みが、ぽん、と浮かんだ。
「あんっ……の野郎ォ!!」
くっそ! やられた! 髪の毛弄られたのは2限! 今は4限を通り越して昼休み! 私はどれだけの間このふざけた頭を周りに晒していたというんだ! ふざけんな! 覚えてろよ松野一松!!
back
topへ |