※都合上夢主の容姿描写があります



「そういやろしょんち来るまでの間でな、なまえちゃんとメッチャ久々に会うてん」
「へえ、そうなんか」

 ローテーブルを挟んだ向かい側に腰を下ろす簓は、楽しそうに缶ビールを空けた。プシュッ、と空気の抜ける音がして、ぐびりと一口。細い喉が上下した。盧笙も合わせるように缶を呷り、小気味良い簓の語りに耳を傾ける。

「相変わらずクリームヘアにサクランボちゃんみたいなヘアゴムしとったわ」
「ほぉ、そら簓と並んだらお前の大好きなクリームソーダ出来上がりやん」
「せやろー!? 俺も見た時ビビッと来てん! こらもうショートコントクリームソーダぁつって……アッちゃうで今のは! 浮気やないて! 俺が組みたいんはお前しかおらんのや盧笙!」
「ああもう早速うるさいうるさい……」
「捨てんといてやぁ〜!」
「どんだけ神経質や思われとんねん、束縛キッツい恋人か俺は」

 ぐいぐいと迫り寄る簓の、少し癖のついた緑髪を押し退ける。自分とは違うわさわさとしたこの感触が、盧笙は存外好きだった。しかしベタベタとまとわりつかれるのはやはり御免だ、なんで男と身体的イチャイチャせなアカンねんお前離れろや! そんな意を込めて強く押し返せば「あぁんつれないわぁ」と身をくねらせながらも座布団の上に戻っていった。

「そんでなぁ、なまえちゃんメッチャ元気になっとったんよ。いやーそら何年ぶりに会うたかもわからんさかい、色々変わっとるんも当たり前やけど」
「ほぉん、そら良かったなぁ」
「言うても、俺は一目見てなまえちゃんやて気付いたんやけどね。なまえちゃんのほうも、俺髪も染めとんのに一発で気付いてくれよってな」
「簓はむしろ髪色以外はなんにも変わってへんのとちゃう? つかお前一応帽子くらい被っとけや。あんま売れてへんとはいえ、んなスーモみたいな頭部むき出しで外うろうろすな、目立つ」
「そらぁスーモせ〜ん! ぷぷっ」
「ホンッマ沸点狂っとんな自分」

 簓の薄ら寒いギャグに、しかもそれで細かく肩を震わせる彼に、盧笙の声のトーンが著しく下落した。依然として楽しげな様子の簓は、相方の氷のような視線を気にも留めずに言葉を繋ぐ。

「んでなまえちゃんがな、これ。コンビ結成記念〜言うてくれたんよ」

 簓が指差したのは、机上に置かれていたケーキ箱だった。持ち手がついており、貼られたシールに書かれた消費期限は明日まで。箱に刻まれたロゴは、高級なスイーツ店のものであったと記憶している。確か、プリンが目玉商品の。
 てっきり簓が奮発して手土産に買ってきたものかと思っていた盧笙は、丸眼鏡の奥のつり目を見張った。と同時に、なまえから簓へのプレゼントということは、自分が食べられるものではないのだと悟り、密かに肩を落とす。

「なまえちゃん自分のために買ったやろに……盧笙の分までくれて、ホンマにやさしいわぁ」
「エッなんやこれ俺のもあんのか!?」

 と、下がった怒り肩が即座に元に通った。甘いもの好きの身としては、美味しいスイーツタイムが確約されれば喜びを禁じ得ない。それにしても気ィ利きすぎやろ……と小さく独り言ちたが、大方簓がこれから相方の家に行くとでも漏らし、気を遣ってくれたに違いない。なまえに対する申し訳なさと感謝を籠め、両手を合わせてから簓が開く箱を覗き込んだ。

「おっプリンやん! つーか四つもくれたんか!? ほなら、きっと誰かとシェアするつもりだったろうに……なんや申し訳ないわぁ……」
「や、自分用言うてたで」
「今日明日で四つ食べるつもりやったんか……」
「や、中から二つほど自分のために取っとったわ」
「今日明日で六つ食べるつもりやったんか!?」
「なまえちゃんホンマ、よう食べるようになったわ〜! エエことやなぁ!」

 よう食べるの範疇越えてんで……と、うっかりひきつりそうになった口元を手で覆い隠す。簓がニコニコと喜んでいるのだから、水を差すのは野暮だ。とくに、なまえが昔はあまり元気ではなかったというなら尚更。
 それにしても簓、楽しそうやな。
 簓が楽しそうなのはだいたいいつものことだが、それでも彼がこれほど上機嫌に他人の話をすることもなかなか珍しいように思えた。とくに、「面白い」より「楽しい」の色を強く感じられるのだから、尚更。話し相手が盧笙であるから、と言われれば勿論それまでだが(これは自惚れではなく、簓は盧笙と話すのが一番楽しいと本人に言い放ったことがあった)。
 そして、なまえちゃんもまだまだ駆け出しの自分たちを知ってくれているとは。大変ありがたい限りだ。なまえちゃん、ありがとうな応援してくれて。顔も名字も知らんなまえちゃん。──そう。まったくもって、見たことも会ったこともないなまえちゃん。
 付属のプラスチックスプーンを取り出していた簓に、盧笙はレンズ越しにス、と視線を向けた。

「さてさて、なまえちゃんが俺らのためにくれたプリン、お味のほうは〜っと、」
「ところでな簓」
「ん? なんや盧笙」
「なまえちゃんて誰や」
「俺の小学校んときの同級生や」
「……知らんわ!!!!」


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