!「碧落に星」浅月さん宅夢主、五月雨天くんと共演させて頂いてます



「ミカン」

その単語を真剣極まりない表情で紡いだのは艶やかな金髪の少女だ。彼女と同じテーブルに着いていた蒼い髪の少年は、真剣な表情から一転、カラリとした笑みを浮かべる。

「おお!さすがみょうじさんわかってるねえ!ところで僕はアイスもイケると思うんだけど」

「アイスもオツですな。さすが五月雨氏、目の付け所が違う」

2人の会話に、周囲の人間達は呆れたような、怪訝そうな、はたまた脱力した笑みを浮かべながら彼らにチラチラと視線を送っている。

ここは雷門中のサッカー部専用施設、サッカー棟の一室。部屋にはいくつかのテーブルに椅子、それから選手達用のロッカーが備え付けられている。

選手達が自分達の荷物を整え、それぞれがそれぞれのペースで帰り支度を進める中、周囲からの視線など微塵も気にせずに会話に花を咲かせているのはみょうじ なまえと五月雨 天。2人はサッカー部の部外者だが全く関係がないわけでもない。

みょうじ なまえ。雷門中在学の1年生で、長い金髪と切り揃えられた前髪にややつり上がった目、細いフレームの眼鏡が特徴の彼女は、サッカー部に所属する1年生ながらにエースストライカーを努める剣城 京介の幼馴染みだ。

彼女と向かい合って座っているのは五月雨 天。ホーリーロード全国大会出場経験もあるサッカー名門校、月山国光中学のサッカー部に所属する1年生であり、雷門中サッカー部に所属する舞風 空の双子の弟である。

彼らは雷門中サッカー部には所属しないものの、支配されていた少年サッカーの自由を取り戻そうと立ち上がった雷門中サッカー部を応援し、時に励まし、時におちょくったりと、影ながらにサッカー部を支えてきた。
しかしそれらは結果論であり、なまえは幼馴染みの剣城を、天は姉である空の力になりたかっただけで、サッカー部の運命や、サッカーそのものの未来云々にはさして興味もなかったようなのだが。

そんな2人は出会ってすぐに意気投合し、今ではこのように取留めのない話をしたり、結託して共に剣城をからかう仲になった。
2人はたまにサッカー棟を訪れるが今日は偶然にも入り口で鉢合わせしたらしい。そのまま天は空を、なまえは剣城の支度が終わるのを待っているのだ。

因みに今彼らが繰り広げている議題は「コタツで食べるのに相応しい物はなにか」である。

「あいつらはまたくだらない話をしてるのか…」

ため息混じりにそう呟いたのは剣城だ。隣では天馬と信助が「僕は鍋とかいいなあ」「俺おでんが好き!」などと天となまえの話題に乗じている。

「はあ〜、京ちゃんにはこの議題の重大さがわからんのか…残念」

「剣城くんにはまだ早い話だったかもねえ〜」

「地獄耳共が…!」

剣城の呟きも2人はしっかりと拾い上げ、わざとらしい会話を始める。剣城は顔を顰め舌を打った。この2人が揃うと剣城の心労が増すのだ。

「剣城くんにああ言われちゃったし、もっと色気のある話でもする?」

「おお、恋バナってやつでござるな」

にやにやと笑う天に、なまえは台詞に似合わない顔とテンションで頷いた。
しかし剣城をはじめとしたその場にいるサッカ一部員ー同は、この2人で恋バナなんて成立するのか?という疑問を抱く。

「じゃあ五月雨氏の求めるタイプは?」

「僕の?僕のは簡単だよ」

なまえの言葉に、天はにこやかに笑いながら短的に、自分の中で譲れない異性に求める要素を答えた。

「空と同等かそれ以上」

「さすが五月雨氏、ぶれない」

スパッと迷う素振りも見せずに答えた天に、なまえはやや語気を強めて称賛の拍手を贈る。天は頭の後ろに手をやりながら笑ってそれを受け止めた。
因みに空は現在席を外しており、この場にはいない。

「次はみょうじさんね、理想のタイプは?」

「運動神経抜群、頭脳明晰、容姿端麗のボンボン」

「みょうじさんもぶれないね!」

真顔で即答したなまえに、天はカラカラと笑いながら頷く。その少し離れた場所で、サッカー部員達はこいつらなんつう会話をしてるんだと顔を青くさせていた。

何も知らない人間が傍目に見れば、あの2人は理想の恋人を語る美少女2人に見えるだろう。しかし実際その会話の内容には可愛らしさの欠片など一片もない。

「んじゃ次ね、五月雨氏が舞風さんのお相手に求める条件は?」

なまえの言葉に、数人の男がピクリと反応した。それに気付いているのかいないのか、天は横目で彼らの背中を見ながら不敵に笑い、頬杖をつく。

「そうだねえ〜、まず僕らを見分けられるのが最低条件かな」

「おお、私ワンチャンあるぜ」

なまえのマジなのかおとぼけなのかわからない発言を天は「ほんとだね〜」と笑って軽く流し、ふうと息を吐くとどこか遠くを見るような目でポツポツと話し出した。

「ほんとさあ…まあ僕ら双子だから間違えるのはまあ仕方ないかなって思うよ?中には双子だって事知らない人もいるし?まあ僕が空と間違えられて告られたら勝手に断るけど、一番最悪なのは僕と間違えてヤローが空に告る事だよね。それってもう双子どうこうじゃないからね、僕男だからね!!」

最後には頬杖をしていた手で拳を握り、ダンと力強くテーブルに叩き付けた。天馬達がびくりと肩を揺らす中、なまえだけがいつも通りに「落ち着け五月雨氏、どーどー」と声を掛ける。天はハッとするといつもの様子に戻った。

「大変でござるなあ」

そうは言いつつも、なまえは内心でわからなくもないと思っていた。
空とそっくりな、中性的な顔立ちの天は、パッと見れば可愛らしい少女に見える。蒼い髪は動く度にさらさらと揺れるし、睫毛も長いし肌も白い。ついでに近付くといい匂いなんかもする。自分の幼馴染みと違って愛想もよく、にこやかに笑いかけられれば何も知らない男共は一瞬でノックアウトだろう。

しかし、それを差し引いても

「五月雨氏かっこいいのにね」

何の含みも他意もなく、思ったことをそのままさらりと、何でもないことのようになまえは口にした。
実際なまえにとってはなんでもないことなのだろう。しかし彼女の発言は室内中に広がり浸透した。

話を聞いていた面々はピタリと動きを止め、シンと静まり返る空間。
なまえは音の止んだこの微妙な空気を不思議に思い首を傾げる。天は固まった表情で暫し呆然としていたが、なまえが動くとそれにつられるかのようにピクリと反応し、特に何も示さないような固まった表情のままで、ぎこちなく頭を下げた。

「…それは…どうも、ありがとう…」
「こりゃご丁寧に」

なまえも天の真似をして頭を下げる。下げたまま、チラリと天を見れば、天は頭を下げたまま、唇をきつく結び、じんわりと頬を赤く染めていた。

天が普段見せないその表情に、なまえはパチリと瞬きをして、

なるほど、これはモテるなと思った。






(やっぱ五月雨氏可愛いわ)
(一瞬で真逆の意見に!!)


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