「なるほどなあ」と言う声に、なまえは顔を上げた。隣には従兄弟が立っている。ほとんど毎日海に入っているせいか、毛先が少々痛んでいる燻んだ珊瑚色の髪に、強い日差しと、海の照り返しにあたり続けた褐色の肌、トレードマークのゴーグル、会うのは久し振りだが、そこそこの頻度で連絡を取り合っていたおかげか、急な再会にも気まずく思うことがない。
「なに、なにがなるほど?」
海パンに、サーフボードがよく似合う男だと、つくづく思いながら、なまえは隣に立つ綱海を見上げた。綱海はいつもの快活な笑顔ではなく、妹に向けるような笑顔でいた。
「お前が変わったのは、あいつらのおかげかってな」
「……はあ?」
急に何を言いだすんだと、なまえは顔を顰める。綱海は白い歯を大きく見せて得意げに笑った。
あいつら、と言って綱海が見た先にはなまえの通う学校の━━……雷門中サッカー部の部員と、この旅で出会った仲間がいる。沖縄の、透明度の高い海と白い砂浜に浮かれてわいわいと騒ぐ姿は、ここ最近の戦いを忘れさせるほど明るく穏やかな光景だ。それを見ながら、綱海が口を開いた。
「中学上がってからか?電話越しの声も前よりうんと明るくと言うか柔らかくなったしよお」
「ぐっ……」
「いやあお前が自分が入ってもねえ部活に差し入れしてるって聞いた時にはすげえ驚いたぜ!」
「ぐぅっ……」
「学校のことなんてぜんっぜん話さなかったのに、サッカー部が試合で勝ったとか、新しい必殺技ができたとかポツポツ話すようになってきたときは俺も海で大技をキメたもんよ!」
「……」
あいつらと、円堂や秋と出会ってから変わったと言われれば、きっと自分は変わったのだろうと思う。けれどそれを第三者からこうも指摘されてしまうと気恥かしさでむず痒い。なまえは眉間にしわを寄せてその擽ったさを誤魔化そうとした。
「安心したんだぜ?俺はな。お前にちゃあんとダチができたことによ」
「……ん」
小さく頷けば、綱海は大きく笑う。いたずらが成功したような、小さな頃から変わらない笑顔だ。その顔を見て、また少し擽ったくなる。
「あ!それによ!」
「もういいから、勘弁して」
次から次にと話を広げようとする従兄弟に待ったをかける。これ以上自分の変化点など聞きたくないし、もしそれをうっかり海ではしゃいでいるメンバーの誰かに聞かれでもしてみろ、面倒くさくなることが目に見えている。
なまえの待ったに不満そうな顔をする綱海に、なまえは苦い顔をしながら口を開いた。
「否定はしないけど、そんなの海の広さに比べたらちっぽけなことでしょ」
「そりゃあそうだけどよ」
ひらひらと手を泳がせて、終えようとする。綱海はほんの少しだけ声のトーンを変えて、もう一度「そうだけど」と繰り返した。
「海の広さに比べたらちっぽけなことでも、なまえにとっては大きなことだったんだろ」
言葉に、目を見開く。そうかもしれないと、心のどこかで思ったし、同時に胸の奥で凪いでいた部分に緩やかで暖かい波が押し寄せる。
円堂と、秋と、みんなと出会ってここにいることを、この綱海条介という男に、彼なりの言葉で肯定されたことが何よりも嬉しくて、なまえは「そうかもね」と漣に掻き消されてしまうような声量で、けれど確かにそう紡いだ。
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