松野カラ松を愛していました。

誰に対しても分け隔てなく優しさを与えてくれるところが大好きでした。
ちょっとのことじゃ怒らない、海のように広い心を尊敬していました。
他人を傷つけているのではと悩む姿に、慈悲深さを感じました。
言葉を額面通りに受け取ってしまう素直ささえ愛おしく思いました。
クールさを装いつつも、見え隠れする涙もろさや情熱さに魅了されていました。
好きなものを好きだと言える毅然さに憧れていました。
常に自信に溢れているその顔に惹かれていました。
しゃんと背筋を伸ばし、堂々と胸を張る姿に焦がれていました。
自分を愛し、他人を愛せる強さが羨ましくありました。
いつでも強くあろうとする彼に、背中を押されていました。
信じてくれているということに、救われていました。

彼の悲しそうな顔を見ると、心臓が潰れそうなほど痛みました。
彼の嬉しそうな顔を見ると、苦しいくらいの幸福さを感じました。
彼の寂しそうな顔を見ると、そばに駆け寄って抱きしめたくなりました。
彼にはいつでも笑っていてほしいと、心から想いました。

彼への愛しさが溢れ、苦しくて苦しくてたまりませんでした。
彼がどうしようもなく、好きで好きでたまりませんでした。
私のすべてを差し出しても幸せになってほしいくらい、深く深く彼を愛していました。

「から、まつ、」

だからこそ、今、つらくてつらくて、私の心臓は酷く痛みを訴えました。さいごまで私が、カラ松を護りたかったのだと。そんなどうしようもないことを、切望しました。

「からまつ……」

ああ、泣かないで。あなたの青は、涙の色じゃない。海のような、空のような、やさしさとつよさの象徴だから。

「なまえ、」

泣かないでくれ、と、カラ松が震える指先で私の目元を拭った。なんだ、私も、泣いていたのか。泣き虫なカラ松が、少しでも悲しくないようにと、耐えていたつもりだったんだけど。
できることなら、貴方といきたかったなぁ。そう口にすれば、できることなら、お前といきたかった、とカラ松は返した。ごめん、ごめんね、カラ松。そう言うと、オウム返しのように、ごめん、ごめんな、なまえと。彼も謝った。

彼の指がまた、そっと私の涙を掬う。それに答えるように、彼の頭に、慈しむように手をのせた。頬を撫でる彼の手が愛しくて愛しくて、喉から嗚咽が漏れた。

「――どうか、しあわせに」

消え入りそうなほど掠れ、震えた声が、二人の鼓膜を揺らす。
力の入らない頬をゆるませるようにして笑った。それを見て、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔が呆けて、それからまたくしゃりと笑った。

あなたの体温を、感じなくなっていく。同時に、世界が急速に閉じていくような感覚。恐ろしくて、怖くて、たまらなくて。それでもわたしは、さいごまで笑っていられたと思う。彼といられて幸せだったと、伝えることができたと思う。そう信じたい。

願わくば優しすぎるあなたが、この先もどうか少しでも傷つきませんように。心から笑っていられますように。これから見る景色が、たくさんの色に溢れていますように。

どうぞお元気で。
さようなら、最愛のひと。


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