!「サウスノウ」高野さん宅夢主、山田朱里さんと共演させていただいています。
「よーしヨシヨシ、かわいいかわいい。羽月ちゃんは本当にかわいいね〜」
かれこれ数十分。宴会中の大広間にて、羽月は朱里に頭を撫でくり回され続けていた。
「かわいいかわいい」
「あの、朱里さん」
「かわいい、ほんとうにかわいい」
「そろそろご勘弁を……」
「かわいいかわいい」
「朱里さん……さては酔ってますね……?」
ウンウン頷きながら好々爺の如く優しい眼差しを向ける朱里の目元は、薄ら赤く染まりトロンと蕩けていた。
これはダメだな。羽月は心の中で小さくため息をつく。
「お着物もよぉーく似合ってるよぉ。わたしこんな妹が欲しかったんだあ」
「あの、えっと」
「でもぉ、あと数年もしたら羽月ちゃんもお嫁に行っちゃうんだよねぇ」
「それは……大分先のお話では……」
「羽月ちゃんの花嫁姿……うぅ……みんなそうやって私を置いていくんだ……ぐすん、シクシク」
「はわわわわ」
先程まで上機嫌だったのに、急に泣き出した朱里を前に羽月は焦る。どうしよう。
女中として雇われて、しばらく。職場にはすっかり馴染んだけれども、宴会の度に遭遇する酔っ払いという生き物の扱いは、残念ながら未だに慣れない。支離滅裂なことを言われたり、急に笑ったり泣いたりされると、どう対処したらいいのか分からなくなってしまうからだ。
「放っておきなせェ」
困り顔の羽月に声をかけたのは沖田だった。
「どうせ明日には全部忘れてるだろーし」
「でも……」
「今日くらいはテメーも大人しく座ってればいいんでィ」
そんな動きにくそうな格好してんだから、と沖田の言葉はぶっきらぼうに続いた。
元旦。朝、初日の出を拝んでから新年の挨拶をしに大広間へと足を運ぶと、なぜだか目をキラッキラに輝かせた朱里が羽月を待ち構えていた。
問答無用で女子寮へと引きずり込まれ、有無を言わさず着ていた着物を剥ぎ取られる。お正月早々、追い剥ぎだろうか……と不安にかられる羽月の目の前に朱里が取り出して見せたのは、なんと深紅の振袖であった。
朱里は、羽月にこの晴れ着を着せたいという。
見るからに高価そうなこの振袖は、年末の大掃除中に朱里が押し入れの奥から発見したものらしい。朱里と朋子を差し置いて着られない……と恐縮する羽月に、二人は「私たちは何かあったら出動しなきゃならないから」と朗らかに笑った。大人だと思った。羽月はふたりを心から尊敬した。……現在、ひとりは酒に酔って羽月の横でおいおいと泣いているし、それを見たもうひとりは赤い顔でゲラゲラと笑い転げているが。
「ん」
沖田が低い声で呟きながら、羽月に右の手のひらを差出してくる。
「なんですか?」
「ん」
「……?」
「ん」しか言わない沖田に警戒して、羽月はソーッと沖田の手を指でつついた。即座に「違ぇ」と手を払われる。
羽月はムッとして口をへの字に曲げた。
「だからなんですか」
「お年玉」
「は?」
「晴れ着に釣られた隊士達にたくさん貰ってたろ。分け前寄越せよ」
「なん……!」
露骨な言い方を耳にした羽月は、言葉を失い眉を吊り上げる。新年早々この人は…!
「あ、あれは私がいただいたものです!沖田さんにはあげられません!」
「ガキがそんなに金持ってても使い道ねェだろうが。俺が有効活用してやらァ」
「ダメ!です!それに沖田さんだって、たくさん貰ってたくせに!」
「チッ」
短く舌打ちを打つ沖田も、珍しくよそゆきの着物に身を包んでいた。郷里の姉に写真を送るのだと、近藤が無理矢理に着せたらしい。
無表情のままバシャバシャ写真を撮られる沖田をなんとなく眺めていると、羽月も一緒に、と近藤が声をかけてくれた。
丁重にお断りした。せっかくのお正月、せっかくの晴れ着なのに、なぜ沖田とのツーショットなど撮られなければならない。縁起が悪すぎる。
「……見てくれだけ着飾っても、中身が伴わなければ台無しですね」
「テメーにゃ言われたくねーんだよ。猫っかぶりが」
「サボり魔」
「ケチ」
「守銭奴」
「まな板」
「……ッ!いーっだ!」
「ガキかよ」
「ねーねー朱里」
「ん……なに朋子」
「アレ見てあの二人。なんか可愛くない?」
「ん?……ふふっ、ほんとだ」
朋子が指さした方を見て、朱里はクスクスと笑う。
視線の先は晴れ着に身を包みながら、向かい合って何かを言い争っているふたり。
「羽月ちゃんと総悟くん、お雛様みたい」
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