!「サウスノウ」高野さん宅夢主、夜野月さんと共演させていただいています。




@文化祭(一年時)


「「「きゃーーーー!!!!」」」

クラス中に鈴のような甲高い叫び声が響き渡った。
予想はしてたけどすげぇな。半田は自分の鼓膜を守るために両耳を塞ぎながら、心の中で半分呆れ、そして半分感心していた。

「月〜! 似合うよ〜!」
「おー、ありがと」
「みょうじさんもカッコイイ!」
「どうも」

一年の内に行われる大きな学校行事のひとつ――文化祭。多くの生徒が楽しみにしており、体育祭に並んで盛り上がる行事。今年入学したばかりの半田達のクラスは、模擬店として『執事喫茶』を行うこととなった。
所詮は中学生クオリティだ。けれども肝心のウェイターの衣装は、家庭科部の生徒達が率先してがんばってくれたおかげで、それなりのものができあがった。
女子の希望と偏見によって選ばれたウェイターの男子達は見た目のいいヤツばかりで、燕尾服効果も相まっていつもより五割り増しで輝いてみえる。風丸なんて廊下にでるや否や女子に囲まれてしまうので、怯えて今は教室の隅で小さくなっているくらいだ。あれではトイレにも行きにくいだろう。かわいそうに。
でもそれよりもっとスゴイのは。

「ねぇふたりとも一緒に写真撮って!」
「ずるい! 私も一緒に撮りたい!」
「ハイハイ、順番に撮るからケンカすんなって」
「…………」
「あコラ待てなまえ逃げんな」

教室に女子のかたまりができている。中心にいるのは半田のクラスメイトである月となまえだ。
ウェイターに選ばれるのは男子だけの予定だったのに、係決めのクラス投票時、なぜか女子の中でこの二人だけがウェイターとして名前が挙がった。
女子なのに。でも女子なのに、他の男子の誰よりも似合っている、と半田は思う。
ふたりとも黙っていれば顔は綺麗だし、身体つきもほっそりとしている。今日の服装に合わせて髪を束ねて後ろで結んでいるところも、中性的な雰囲気を醸し出していた。月は髪が短いので初対面の相手には男子に間違われがちだが、なまえも今日だけは美少年だと説明されても全く違和感がない。
男子の俺、立つ瀬なし。イケメンなのは中身だけにしておいてほしいと、フツメン代表の半田は思わず言いこぼした。

「アイツら生まれてくる性別間違えてんだよな〜」
「誰がなんだって?」
「うわっ!」

突然横から話しかけられ、半田は飛び上がった。

「みょうじ……! さ、撮影会してたんじゃなかったのかよ!」
「そろそろ開店準備しなきゃだから後でってことになった。それよりなに?」
「え?」
「さっきからこっち見てブッブツ言ってたでしょ。なんか悪いもんでも食べた?」
「う、うるさいなぁ……」

半田はバツの悪そうな顔でそっぽ向く。言えるわけがない。お前たちが俺よりカッコイイから落ち込んでました、なんて。

「そ、それよかみょうじさぁ」
「なに」
「あれだけ嫌がってたくせに、ちゃっかり着こなしちゃってるじゃん。燕尾服」
「は?」

ちょっとした仕返しのつもりだった。係決めの時、なまえはウェイター役に推されていたが、本人はかなり渋っていた。その件を持ち出すと、なまえは露骨に不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。

「嫌に決まってんじゃん。こんな窮屈な服」
「でも結局着ちゃってるあたり、実はノリ気だったりして」
「はあ? ほぼクラス全員から指名されて断れるわけないでしょ。ただの空気読めないヤツじゃん」
「そう言いつつも引き受けるなんて、みょうじさんやっさし〜!」
「アンタねぇ……」
「ひっ! すみません言い過ぎました!」
「なにじゃれ合ってんの?」

なまえの拳が半田の肩へ炸裂しそうになる寸前、月がひょこりと顔を出した。助かった! 半田は慌てて月の後ろへと隠れた。月も今日は短い髪を、後ろでちょこんと縛っている。

「なに? ケンカ?」
「違う違う! 係り決めの時の話してたんだよ。みょうじウェイターやるの嫌がってたなって」
「確かに」

月がカラカラと明るく笑う。月はウェイターに指名された時、二つ返事で引き受けていた。なまえと違って目立つことに抵抗がないらしい。
女の子にキャーキャーいわれるのって気持ちいいじゃん。いつだったか、女子に囲まれ疲弊する風丸に、慰めとも助言とも言えない言葉を月が投げかけていたことを半田はふと思い出した。あの時半田は確信した。月がもし本当に男だったら、とんでもねぇタラシが誕生していたに違いない、と。

「なまえすげー似合ってるから大丈夫だって。世界一カッコイイよ!」
「それ聞き飽きた」
「聞き飽きた?」
「……夜野さん、試着の段階からずっと褒めてくんの」
「だってマジでそう思うもん。なぁ半田」
「みょうじくんカッコイー(裏声)」
「なんなの? 半田はさっきから私のことバカにしてんの?」
「ひぃ! グーパンはヤメテ!」
「……夜野さんはともかく、私はこういうのガラじゃないんだって。コスプレ紛いの格好なんてしたくなかったし、そもそもこんな愛想ないやつに接客なんてさせるなっつうの」
「でもなんだかんだなまえは付き合ってくれるんだよなー」

ニシシと月が歯を見せた笑った。するとなまえが「それは……」と小さく言い淀む。

「それは?」
「いや……なんでもない」
「なんだよ気になるじゃん。言ってよ」
「…………」

なまえが気まずそうに顔を逸らす。けれども結局観念して、小さな声で呟くように言った。

「だから……ウェイターなんてガラじゃないし本当はやりたくもないけど……」
「うん」
「夜野さんが一緒なら……まあ、少しは楽しいかと思って……」
「「…………」」
「……そんな感じ」

珍しいなまえのデレに半田が動揺していると、月にぐいっと腕を引かれた。

「どうしよ半田! アタシ今めっちゃトキめいたかも!」
「知らねぇよ……」

本当にコイツらといると、俺(男子)って必要ないな。半田が遠い目をして、窓の外の景色を眺める。
見事な秋晴れ。祭りはまだ始まったばかりだった。







A服装検査(一年時)


「みょうじと夜野、後で職員室に来るように」

帰りのホームルーム終わり。担任の教室についでのように言われた言葉に、約二名がゲッと顔をしかめた。

「おいおい二人とも何やらかしたんだよ」

教師が去り、放課後らしい騒がしさになった教室で、自然とサッカー部の面々が集まり出す。中心にいるのは帰宅部であるはずの月となまえだった。

「夜野はともかく、みょうじまで呼び出されるなんて珍しいな」
「アタシはともかくってなんだよ」

ロ元をニヤけさせながらわざとらしく呟いた染岡を月が小突く。円堂と半田がアハハと声をそろえて笑った。

「そりゃ日頃の行いの結果だろ」
「なあ月、今度はどこの窓割ったんだ?」
「割ってねぇつの! なあなまえ!」
「私に聞かれても困る」

男子達はお気楽に笑っている。そんな中、秋だけが「でも本当に何の用事なんだろう」と心配そうに眉を下げた。

「あー……心配しないで秋ちゃん。なんとなく理由は分かってるから」
「そうなの?」
「だよね、夜野さん」
「まーね」

頷きながら月は授業で固まった身体を解すように、んーっと伸びをした。全員の視線が集まる中、なんてことないように月が答える。

「朝、校門で抜き打ちの服装検査やってたじゃん? 多分その件だと思う」

世間がブラック校則だなんだと騒がれる昨今だが、雷門中は私立中学だけあって、それほど校則に厳しくはない。とはいっても、服装の乱れは心の乱れだと信じている教師はゼロではなく、時々だが服装検査は行われるし、風紀委員だって存在する。
今朝、珍しく抜き打ちで風紀委員達により服装検査が行われた。なまえと月は、それに引っかかってしまった。

「なまえちゃんはリボン?」
「そう。今日に限って鞄に入ってなかったんだよね」
「夜野は……どこがってレベルじゃねェな。校則の意味分かってんのか?」
「アタシだって服装検査あるって知ってたら制服着てきたっての」
「抜き打ちの意味ねーじゃん……」

半田のツッコミに対して、かもな〜とゆるく笑う月は自分の格好に全く頓着していない。校則ガン無視のジャージ姿は、すっかり彼女のトレードマークになっている。

「ま、でも今日はなまえも一緒だからいいや。おかげでお説教短くてすみそう」
「私こういうの呼ばれるの初めてなんだけど、具体的に何するわけ?」
「生徒指導の先生のありがた〜いお話を長時間聞かされる」
「うわ……」
「大丈夫だって。寝てればすぐだから」
「寝てるからお説教が長引いてるんじゃないのそれ……」

円堂達に見送られながら、月となまえは教室を出た。怒られることが決定しているだけあって、自然と足取りは重くなる。

「あーめんど。今日は先生の話短いといいな」
「夜野さんの態度次第だと思うけど」

話しながらなまえは開けていたシャツのボタンを閉めていく。なまえの指が器用にボタンを穴に通す様子を、月は横目で眺めた。校則通りの着こなしをしていれば、そこにあるはずの学年ごとに色の違う装飾品。月達の学年はグリーンだった。なまえがそれを付けている姿を、月はあまり見かけない。

「なまえって、なんでいつもリボンしてないの?」
「かったるくない? 嫌なんだよね、窮屈なの」

分かる、と月は笑った。月も窮屈なことは嫌いだ。制服も、校則も、その他に関しても。

「制服なんてなくてもいいのに」
「気持ちは分かる。でも」
「でも?」
「今しか着られないものだと思うと、それはそれで貴重かもとは思うよ」

何気ない口調で返ってきた答えに、月は目をぱちくりと瞬かせた。

「なまえがそんなこと言うなんて意外」
「一般論を言っただけ」
「まあ確かに、今だけしか着られないもんなんだろうけどさぁ……」
「着たくなきゃいいんじゃない? 別に死ぬわけでもないし」
「あはは。なまえのそういうサッパリしたとこ、アタシ好きだよ」

月は制服を着ない。スカートを履きたくないから。制服も、校則も、自分を縛るものは全て嫌いだ。
でもそれに付随する特別感まで嫌いになったわけじゃない。

「こうやって先生に怒られる時間も、今だけのもんだったりすんのかな。貴重な青春のひととき? 的な」
「勘弁してよ」

職員室前の扉は、いつだって緊張感のある空気が漂っている。

「ま、がんばろうぜ」

ふたりは顔を見合わせると、肩を落として互いの拳をぶつけ合った。







B親善パーティ(イギリス戦前)


こんな一面もあったのか。なまえは正直意外な気持ちで、月の目の前へと立った。

「いい加減観念したら?」
「嫌だ……絶対に無理。マジで無理」

合宿所内にある控え室にふたりはいた。いつもは倉庫として使われている部屋なのだが、今日だけは無味乾燥で雑多な光景は姿を変え、きらびやかな世界が広がっていた。色とりどりのドレス、靴、その他装飾品。
イギリスチームから『善意』で運ばれたパーティー用の服飾品達は、マネージャー達四人と選手である月の分を合わせても有り余る量だった。好みのものを選べるようにと気を遣われた結果だろう。けれどもその善意が人によっては迷惑となる場合もある。月にとってはまさしくそうだったのだろうと、同情する気持ちでなまえは小さく息を吐いた。

「気持ちは分からなくもないけど、そんなに嫌がらなくてもいいんじゃない?」
「いや無理だろコレ。どう考えても似合ってないし……」
「そんなに嫌なら全力で逃げ出せば良かったのに」
「だって秋も冬花も春奈も雰囲気がこえーんだもん! 目ェギラギラさせてさぁ! なんで助けてくんなかったんだよなまえ!」

なんでと言われたらそれは。
机の下に潜り込んだっきり、いっこうに動く気配の無さそうな月に向かってなまえは微笑む。

「一度そういう格好した夜野さんを見てみたかったから」
「お前さぁ……」

恨みがましそうな視線が飛んでくる。でもいつもより迫力を感じないどころか、なんだか微笑ましく思ってしまうのは、月がいつもとかなり違う雰囲気でいるからだろうか。外見の印象というのは、思った以上に人の感じ方に影響を及ぼすようだ。

普段はジャージやユニフォームを着て、汗や埃にまみれて動き回っている彼女達だが、今日はきらびやかなドレスに身を包んでいた。FFI本戦の初戦であるイギリスとの試合を目前とした時に、向こう側から親善パーティを申し込まれた。そのパーティに参加するためだ。
イギリス側から送られてきたドレスを前に、目を輝かせたのは秋と冬花と春奈だった。鏡を見ながら、ああでもないこうでもないと言い合う彼女達は、贔屓目もあるかもしれないが女の子らしくて可愛らしかった。
なまえも仕方なしに自分の好みの色のものを着用したが、その他の装飾品は秋達が率先して選んでくれた。ヘアアレンジやメイクといった、なまえが自ら積極的にはしないようなことをしてくれたのも彼女達だ。おかげで鏡に映る自分の姿は、いつもよりかなり雰囲気が違って見える。
そしてそれは月も同様だった。ただ月の場合、なまえとは少し事情が違う。パーティ用に華奢なドレスに身を包み、ハイヒールを履き、エクステでロングヘアへと変身を遂げた月だったが、これは当然彼女の意志で選んだものではない。なまえ以外の三人に拘束され、あれよあれよという間に脱がされたり着せられたりする月は、側で見ていてもかわいそうなくらいの怯えっぷりだった。同情した。それでもなまえがストップをかけなかったのは、同情心より好奇心が勝ってしまったからだ。
変身を遂げた月は見違えるようだった。普段とのギャップが大きいせいもあるかもしれないが。
なまえは顔を上げて、壁時計の時刻を確認する。そろそろタイムアップだ。月をこの部屋から引きずり出す。それがなまえの仕事だった。

「ほら行くよ。みんな下で待ってるって」
「なまえは行けばいいよ。アタシは行かない。ここに残る」
「代表選手のひとりがなに言ってんの」
「だ、だって、みんなってことは男子達もいるってことだろ? 鬼道とか不動とか綱海とか……う、絶対に馬鹿にされる。嫌だ。やっぱりアタシ行かない」
「ガキじゃないんだから、さすがに空気読むでしょ」

とは言いつつ、自分の従兄弟は裏表のない性格故に余計なことを口走りそうだなぁとなまえは思った。まあその時は腹パンでもして沈めればいい。それよりも、この岩のように動かない月を動かすことが先決だ。

「誰も笑ったりしないって」
「嘘だ。確実に笑われる。馬鹿にされる」
「なんで?」
「だ、だってこんな服ガラじゃないし、絶対に似合ってないし……」

しょぼくれたように月が折り曲げた膝と膝の間に顔を埋める。羞恥と戸惑いと自信の無さ。様々なネガティブな感情が伝わってくる。陽気の塊みたいな彼女にしては、本当に珍しい姿だ。
でも気持ちは分からなくはない。自分らしくない行いをするとき、人は少し不安になるものだ。だったら、ほんの少し背中を押してあげればいい。
なまえはスカートが床につかないよう気をつけて屈んだ。急に伸びた月の髪を一房指で取る。こちらの様子を窺うように顔を上げた月の情けない表情を見ていると、自然と口元がゆるむ。

「大丈夫。可愛いよ」

月はじっとなまえをにらみながら、キュッと唇を小さく噛んだ。

「……口説いたって無駄だからな!」
「ハイハイ、馬鹿なこと言ってないで行くよ。マジで時間ないから」
「あ、ちょ……」
「はい、実力行使〜」
「なまえの鬼ー!」

結局は腕力で引きずり出すこととなった。
男子達の反応は、まあ、概ね予想通りだったかな。







C駅前の居酒屋にて(呑み放題3980円)


淡い電球色の光の下に、ガヤガヤと賑わしい声が満ちている。

「うわ、それめっちゃ懐かしい!」
「だよね」
「え、それってその後どうなったんだっけ?」
「結局二人して全く話きいてなかったから、生徒指導の先生マジ切れ」
「あー! そうだった! 今全部思い出したわ。あはは、ヤバイなアタシ達」
「後FFIの時も……」

同じユニフォームを着て、グラウンドを駆け回っていた日々から十年近く経った。青い春の真っ只中にいた子供達は、すっかり大人の顔でアルコールの入ったグラスを傾けている。
飲み会やろうぜ! の円堂の一言で飲み会が開催されるのは、今日で数回目だ。参加メンバーはその時々にとって様々だが、参加率自体は悪くはない。
飲み会も終盤になると、酔っ払って寝てしまっている奴、それを介抱する役、早々に二次会の場所を探し出す者など様々だ。騒がしい座敷の片隅で、なまえと月は顔をつき合わせていた。久々の再会だった。互いに仕事をしているし、月にいたってはつい最近まで日本にいなかったからだ。
当然のように昔話に花が咲く。さっきまで半田も一緒になって話していたのだが、酔っ払ったマックスに連行され、今は男子達が固まっている輪の中にいた。

「あーヤバイ、めっちゃウケる」

笑いすぎて目尻に浮かんだ涙を、月が指で拭った。当事者の時は何も感じなかったが、昔の自分達の滅茶苦茶な行いは、思い返してみれば笑いのタネでしかない。

「思い出話を月とするのって新鮮かも」

すっきりとした味のカクテルに口をつけながらなまえが言った。それなりに飲んではいるが、顔色はあまり変わらない。時々水やお茶などを挟むことによって、なまえは自分の酔いを上手く調節していた。

「卒業してからあんま顔合わせる機会なかったもんな」

対して月は下戸なので、一切アルコールを口にしていない。にも関わらず、誰よりも笑い声が大きかった。
飲み会の雰囲気に当てられたのか、久々の級友達との再会が嬉しかったのか。オレンジジュースをストローで啜りながら、すっかり冷めたピザにかぶりつく。

「なまえはあんま変わんないな」
「さすがに中学生の時と比べたら成長したと信じたいんだけど」
「いやなんていうか雰囲気が? 昔から落ち着いてたもんなぁ」
「月も変わってないよ。相変わらず……」
「相変わらず?」
「うるさい」
「それ悪口!」
「違うって、褒めてる」
「本当に?」
「そういえばこの間の試合見たよ」
「話逸らしたな……」

二次会行く人一! カラオケだけど! 半田の声がけに何人かがちらほら手を挙げた。月も「はーい!」と意気揚々と手を挙げ、なまえは……。

「ほらなまえも!」
「はいはい……」

ほぼ強制的に月に挙げさせられた。

「カラオケって気分じゃないんだけど」
「いーじゃん、たまには」

二人揃って立ち上がる。ハンガーにかけていた上着をなまえが取って月に手渡した時、月がおもむろに言った。

「なまえってさ、今でも私服はパンツスタイルなんだね。スカート履かないの?」
「あんまり。仕事の時くらいかも。制服だけど」
「あ、そっか。婦警さんだもんな。アタシは普段からほぼジャージ」
「今日はスキニー履いてるじゃん」
「こういう時くらいはちゃんとするって」

互いに顔を見合せ笑い合う。教室も制服も校則も、彼女達を縛るものはもうない。スカートだって履かない。
それなのに時々恋しくなる。窮屈だった燕尾服も、着たくなかったドレスも、規定通りに着てこなかった制服も。

「二次会半田の奢りだって」
「マジ? なんで?」
「ジャンケンで負けたらしい」
「よっしゃ、ラッキー」

あの頃と変わらない笑顔を浮かべながら、ふたりは互いの拳を軽くぶつけ合った。


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