「とーるおにーさん、アイス食べない?」
落ち葉の季節でなくとも、ポイ捨てが気になって外を掃くことがある。けれど秋よりは短い滞在時間に、彼女はちょうどやってきた。わけを聞くと、見知らぬおばあさんの買い物袋が目の前で破けて、代わりに持っていたレジ袋をあげたところお礼に貰ったという。
「一人じゃ溶けちゃうから」
この暑さだ。彼女のお誘いは魅力的に思えたし、貰ったほうが彼女もほうが助かるだろうけれど今は勤務中。そんなことを悩んでいると、真面目だなぁ、と不意に記憶が空耳を作り出した気がした。──どうやら暑さで脳がやられたらしい。一度、冷やすべき理由ができた。
「……ありがとう。それじゃあ頂こうかな。梓さんには内緒にしてね」
「うん」
灼熱の炎天下、周りに通行人がいないことも確認してから、チューブ型のアイスの片割れを受け取った。彼女と同じタイミングで蓋をねじ切って咥えれば、シャク、とした氷菓の食感と爽やかなカルピス味が口内に広がる。少し火照った顔が、心地よく冷えていく感覚がした。
「おいしい。久しぶりに食べたよ」
「私これ好き。食べやすいし、溶けても手汚れないし」
「はは、味じゃないんだ。そういえば、僕の昔の友人もそう言ってたなぁ」
余計な空耳を聞いたからか、余計なことを口走った。それもこれも、暑さのせいだ。
中身はすでに溶け始めていて、じゅうと吸い込めば簡単に減っていく。自分の体は今、思っていたよりも冷たいものに飢えていたらしい。澄んだ甘さを僕に残して、容器はすぐに空になった。
一覧へ戻る
back
topへ |