紋土くんは単純だ。直情的と言うのか、とにかく感情がすぐ顔や態度に表れる。怒ると顔が真っ赤になって、頭に血がのぼってるのだと見てとれるし、楽しければ目尻や口角がすぐにつり上がる。悲しいときは急に静かになったり、端から見れば機嫌が悪いのかと間違えてしまうほどだ。それから照れた時や緊張した時は、怒鳴り散らしてまうそうな。
 つまり、朝彼の顔を見てやたらとソワソワしていれば、今日気になってる女の子に告白するつもりなんだろうなぁとわかるし、高校から帰ってきて、彼の家に寄ったときに眉間にシワを刻み込んで口を歪めていれば、フラれてしまったのたろうと察することができるのだ。

「……ブハッ!」
「テメゴルァ……馬鹿にすんのも大概にしろよ蘭」

 ――だからインターフォンを鳴らし、仏頂面が私を迎え入れた瞬間に、私は毎度のことながら吹き出してしまった。

「ぶっ……ンフッ……! だ、だってぇ、紋土くんまぁたフラれたんでしょ? なに、これで十連敗じゃん記録更新じゃん! とうとう二桁じゃん! も、もうドンマイとしか言えないって!」
「余計な事ばっかり言いまくってんだろーがよォッ! っつーか何テメー数えてんだブン殴られてーのか!」
「まったまたぁ、そんなこと言って女を殴るなんて情けない真似はしないって言ってるくせに!」
「テメーは女じゃねェからな……歯ァ食いしばれ」
「あちょ待ごめんごめんごめんって! タンマ! ストップ! ごめんなさい!」

 慌てて謝りつつ、途中のコンビニで買ってきたお菓子を献上するように突き出せば、小さな舌打ちとともに回収され、その背中が遠退いていく。漸く部屋への立ち入りを許された私は、慣れた手つきで鍵を閉めつつかかと同士を擦り上げるようにして靴を脱いだ。

「にしてもさー、紋土くんは確かにその怒鳴り癖が悪いのもあるけど、正直それだけがフラれる理由じゃないと思うんだよね」
「あ? だったら何がいけねェってんだ」

 私の先を歩くその背中がくるりを向きを変えて停止する。その人相の悪いこと。洗面所に立ち寄り手洗いうがいを終えてから、私は彼の横をするりと通り過ぎ、家主より先にリビングに入り早々に腰を下ろした。

「いや、私だったらまず不良の時点で無理無理怖すぎ……紋土くんじゃなかったら対面しただけでちびるって……しかも粗暴で人相も悪いし加えてこんな立派なリーゼント」
「テメーやっぱりおちょくってんだろ」
「アッ待ってごめんてだからその拳おさめて!」
「ったく……」

 机を挟んだ向かい側の座蒲団に、紋土くんはどしりと座り込む。頭部に携えた立派なトウモロコシが少し揺れた。私はしばし考えてから、机に手をつき身を乗り出すと、その長い長いリーゼントで影になっている顔を下から覗き込んだ。怪訝そうな薄紫の瞳と視線がかち合う。

「……でも、紋土くん、髪はさておき見た目はカッコイイと思うんだけどなあ」
「…………は?」

 紋土くんが間抜けなを声をあげてピタリと停止してしまったことに、私は気が付かない。

「顔立ちは整ってるし、ガタイ良くて背高いし」
「おい、」
「それに、義理人情に厚いし女の子には何だかんだ紳士的だし……私以外にはね!」
「蘭、」
「やっぱりまず見た目からじゃない? 前々から言ってるけどさー髪の毛下ろしてみようよー! まあ私はリーゼントでも全然好きだけどさ〜やっぱり一般的な感覚だと、」
「聞けやァァ!」

 至近距離、腹からの怒声に驚いた私は思わず強く目を瞑った。再び目を開ければそこには、眉間に幾重のシワを刻んだ、鋭いつり目とつり眉。紋土くんは相手を威圧する時に、こうやって般若の如き顔付きをぐっと近付ける癖があった。これでビビらないとは、流石私の胆力――但し、対大和田紋土用ではあるが――は素晴らしい。

「ほらまた怒鳴ったぁ、やっぱり駄目だね紋土くんは髪型変えても生涯モテそうにない」
「てめさっきっから聞いてりゃ勝手なことばっかり言いやがって……! やっぱりブン殴る!」
「顔赤っ! なんでそんなに怒ってんの!?」
「それにテメーだってモテた試しがねーじゃねーかッ! 人のことばっかり偉そうに言いやがって!」
「そ、そんなことないし! どこかしらに一人ぐらいは私の隠れファンだっていたらいいのになー!」
「だからそれ願望だろーが!」


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