「紋土くん私のこと好き?」

 ボファア、と口からラーメンを噴出させた桑田をよそに、蘭は怪訝そうな顔で箸を止める大和田に詰め寄った。

「急に何言ってんだテメー」
「いやそれがちょっとさ、妙にリアルな悪夢をだね……」
「あァ?」
「『長年の付き合いだから今更言うのも気が引けるがよォ……昔っからテメーのその引け腰と臆病面は見ててイライラすんだよ。もう俺の前に現れんなや』ってぇ……!」
「大方合ってんじゃねーか」
「ほぁぁらぁぁぁまたそういうこと言う!」

 焦りと不安で満ちた顔色で、蘭は大和田の肩をぐらぐらと乱暴に揺らす。しかし、その程度の力ではびくともしないのは誰が見たって明白だ。それにしたってこの幼馴染は、たまに人前で驚くほどの距離感を示すものだから、見せつけられた方はたまったものではない、と桑田は口元を備え付けのペーパーナプキンで拭った。無論、当人たちた見せ付けているつもりなど毛頭なく、そもそも『そういう』関係ですらないことは、78期生の中でも自明だが。

「紋土くん私のこと嫌いなの!?」
「あぁ? んなこと誰も言ってねーだろーが」
「じゃ好き?」
「しつけーな、ンなことどうでも良いだろ」
「良くない! 元はと言えばもう現れんなとか紋土くんがほざくのが悪いんでしょおおおがあああ」
「だァーからそれテメーが勝手に見た夢だろーがッ! 俺ァ間違ってもンなこと言わねーよ!」
「じゃあどんなことなら言うの?」
「だァーから好っ……」
「……」
「……」
「……」
「……だァァクソがッ!!」
「ほんごっ!」

 勢いよくその無骨な手で鷲掴みにされた頬。蘭はもごもごと口を動かしつつ抵抗するが、眼前にぐいっと迫った大和田の顔に鬼気迫るものを感じ、思わず動きを止める。怒るときに真っ赤に血が上った顔を相手に近付けるのは、彼の癖だ。頭に乗った彼のリーゼントの存在を感じながら、そんなことを思った。

「おめーが、あンまりにも、しつけーから、言ってやる。一回しか言わねーからよく聞けやゴルァ」
「ほふ……」
「いいか? 夢の中の俺がおめーに何て言ってようがなァ、俺は、」
「……」
「お、おれは……」
「……」
「お前のこたァ……ちゃんと……」
「……」
「好、す、……」
「……」
「……だァァーーーッ!! クソッ!! クソがぁッ!! だいったいそう言うテメーはどうなんだ俺のこと好きなのかア゛ァン!?」
「ホヘァ!?」

 激昂した大和田に、掴まれた顔をぐらぐらと乱暴に揺すられる。ストップ! 死ぬ! そんな意を籠めて彼の顎に渾身の掌底打ちを決めれば、大和田は小さく呻き声を漏らしてようやく蘭から手を離した。

「な、にしやがる!」
「うるせーこっちの台詞だボケーッ! 脳震盪起こすわ! だいたい紋土くんはねェそういう乱暴なところもすぐ怒鳴るところも全然直さないからモテないんだよわかってる!?」
「うるせェ余計な世話だっつーんだよ! つーかンなこたァいいんだよ! うやむやにしたってそうはいかねェからな!?」
「うぐっ……!」
「さぁ観念して言ってもらおうじゃねーか、蘭……!」
「うぐぐ……そ、そりゃ私だってねぇ嫌いだったらこんなに何年もだるだる絡んでないって、」
「そうじゃねぇだろォ? 蘭」
「ングググ……そ、そりゃ私だって、」
「……」
「紋土くんのこと、」
「……」
「……ちゃんと好、す……」
「……」
「す、……す……―――って言えるかァァ!! ブン殴るぞクソゴルァァ!!」
「だろ!? 言えるわきゃねーだろ!?」
「言えねーわ死ぬわ! つーかこれ言われたほうも死ぬわ! 馬鹿か! 愚か者め!」
「だァァろォォォォ!?!?!?」

「……いや他所でやってくんね!?」

 桑田の切実な叫びが、二人に届くことはない。


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