『私立 希望ヶ峰学園』
今私の目の前にそびえたつ巨大な建物が、まさにそれである。
あらゆる分野の超一流高校生を集め、育て上げることを目的とした政府公認の超特権的な学園。卒業すれば人生において成功したも同然……とまで言われている。
入試や推薦は存在せず、ある2つの入学資格を満たしている人のみ学園側からスカウトされるという仕組みになっている。その資格とは「現役の高校生であること」と、そして「各分野において超一流であること」だ。
希望ヶ峰に通う生徒は、通称"超高校級のホニャララ"と呼ばれ、ホニャララには才能名が入る。例を上げると超高校級パティシエとか超高校級のサッカー選手とか、多分そういう感じ。ネットの掲示板では希望ヶ峰の新入生専用のスレなんかも立っていて、とにかく普通という言葉から地球一周分くらいかけ離れている。
ちなみに私の幼馴染みにも、そんな超一流高校生として希望ヶ峰学園への入学を許可されたすごい奴……いや、人物がいる。自分のことではないが、とても誇らしい。ぶっちゃけあんな肩書きでいいのかと疑問には思うが、実際に学園から通知が届いたんだからいいのだろう。
そして私は、そんな彼の背中を見送る役目、と、
……なるはずだったのだが。
「……なぁーんでだろうなぁ」
今私の左手に握られている、手汗でぐしゃぐしゃになった無残な紙。
ある日突然ポストに入れられていたそれは、無論ただの広告の紙などではなく。恐らく全国の高校生たちが、喉から手どころか肘通り越して肩まで出るほど欲しいであろう、とてつもなく価値の高い紙である。そう、重量的にはめちゃくちゃ軽いくせに、私の精神に重く重くのしかかる、紙なのである。
もうお気づきだろう……この紙はあの、希望ヶ峰学園からの入学通知だ。私は今日、この学園に入学するためにここにいるのだ。胃が痛い。
隣の家のポストと間違えたのではないか、なんて考えは、封筒に記載されている私の住所と名前により即刻立ち消えた。つまるところ、私もある分野において超一流であるとされたわけなのだが……。
何を隠そう私は、つい最近まで本当に普通の……それこそ、どこにでもいるような平々凡々な人間だったのだ。確かに、人にちょっと自慢できるような、珍しい特技はあったけど、だからといってそれが「超高校級の才能」とされたなんて信じがたい話である。
なぜなら、あくまでそれは特技という枠から出ないもので、才能なんて言葉で評価されるようなすごい事だと思っていなかったからだ。実際に、私にはそれに関しての実績も大してない。さらに言えば、テレビでも雑誌でも新聞でも、私の──希望ヶ峰学園曰く──超高校級の才能を扱われたことなど一度もない。そんなズタボロの知名度だから、もちろん、さっき言ったネット掲示板のスレに私のものなどない。
そんな私が、こんなにも凄い学園に入学とか、そんな恐れ多いこと……あっていいのか? 駄目だろ。いや、駄目じゃないのは左手の紙が証明してくれるんだけど。……というか、学園側はどうやって無名な私の存在を知ったんだ? 希望ヶ峰学園の情報網凄くない? というかもはや怖くない?
ああ、もう、今すぐ家に帰りたい。ただでさえ入学とか、そういう環境が変わることは昔から大嫌いで大の苦手だというのに、加えてエリート集団に放り込まれるわけなのだから、すでに私の胃はフルボッコだ。酷い緊張で手足は震え、汗が滲み、吐き気さえ覚えている。
そんなに嫌なら、辞退すれば良いのに……何度も何度も自身に問いかけた言葉だ。それでも私は、入学を選んでしまった。いや、だって、卒業すれば人生成功したも同然なんだよ? そんな甘言に釣られない人間がいるだろうか? いや、いるだろうけれど、少なくとも私には無理だった。
けれど、やっぱりヘタレを拗らせている私のことだ。もし幼馴染の彼がいなければ、なんだかんだ言いつつ入学を蹴っていたかもしれない。もしくは──彼がいたからこそ、私は入学を決意したのかもしれないけれど。それは自分でも、よくわかっていない。
(……にしても、)
極度の不安と緊張のあまり、やっぱり彼と一緒に登校すれば良かった、と、今更ながら後悔の念が襲ってきた。いや、だって、入学早々男女が一緒に登校してたら、周りの視線が集まってしまう。しかも、あんなクレイジーヘアーの男だ。最初の一日目が肝心だというのに、もしかしたら他の同級生の女の子たちに彼と一緒くたにされ遠巻きにされたらもう死ぬしかない。少しでも不安の芽は取り除いておきたかったのだ。
……うん、大丈夫、私の判断は正しかった。むしろ私は最初くらい彼離れすべきだ。彼がいたら絶対に頼ってしまうし話しに行ってしまう。せっかく目の前に他の子と喋るチャンスが転がっていても、彼の後ろに隠れてしまうに違いない。うん、そうだ、彼がいないのなら一人でやるしかないのだ。やらざるを得なければならない状況なら、さすがの私も頑張れるはずだ。大丈夫私ならやれる頑張れファイトだポジティブにいこう。気持ちを明るく持つんだ私。
私は気合いを入れるため、ぐっと拳を握りしめた。入学通知がもう見るも無惨だが、決して気にしてはいけない。
「うし……行こう!」
これから最高の学園での、きらびやかな生活が私を待っているんだ。そして卒業すれば、出世街道まっしぐらだ。きっと。そう考えると先ほどまでの不安が半分ほど一気に希望にすりかわる。ああ、なんかちょっと、本当にちょっとだけだけど楽しみになってきたかもしれない。友達、ちゃんとできるかな。いやできるだろう。そもそも入学資格がアレだし、生徒数もそんなに多くないはず。アレだ、できることなら大勢と積極的に関わって、青春を謳歌しまくろう。大丈夫大丈夫私ならできるやればできるきっとできる。
そんな思いを胸に秘めながら、私は新たな学園生活への一歩
を踏
み
出
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