台本が欲しい次男
私の友人は、取り繕わない言葉がなかなか言えない奴だった。
「ねートキちゃんはさー、僕のこと好き?」
「え」
黄色いパーカーを纏った彼は、ぱかっと大きく口を開いて、無邪気に小首をかしげながら出し抜けにそんなことを聞いてきた。これまた大きく開いた目が、じっとこちらを見つめてくる。例えばおそ松に言われたら、また調子に乗るだろうから答えてなんかやれない。だけど、まあ、こいつならと、その涙ぐましい努力に免じて素直に口を開いた。
「……好きだよ」
「わはー! 僕もトキちゃん好きー!」
そう言えば彼は私の首元に袖の伸び切った腕を伸ばし、抱き着いてくる。暑苦しいことこの上ないが、筋肉質な彼の腕を振りほどける自信などあるわけもなく、すぐさま諦め、されるがままに。これを、いくら幼馴染とは言え、成人している男女の距離感としてはあまりにも可笑しいと言われることもあったが、当人たちが気にしていないのだからさして問題はないだろう。と、私は思っている。
「好き」の言葉に嘘偽りなどはなかった。わざわざ訊いて確かめて、返ってきた友人からの「好き」で、こんなにも笑顔を見せる彼は、本当にアホで可愛い奴で。昔からどうにも放っておけなくて、人一倍優しいくせに妙にズレているから、目が離せなかった。他の五人の松よりも、気に掛けることが多かったようにも思う。同時に、何度も助けられてもきたわけだけど。
「あとねぇ、」
でも、それと同時に酷く馬鹿な奴だとも思っている。いや、本当に、馬鹿。頭が馬鹿。
「他人の姿偽って訊いても、意味ないでしょうに」
「……え、」
「何をテンパってんのか知らないけど、十四松は、私のことトキって呼ぶんだよ、カラ松」
別に、気付いてないふりをしてもよかった。妙に恰好つけで言葉を飾る癖がある彼は、俺のこと好きか? なんて、素直で少し弱気にもとれる言葉を口にすることができないくらい、分かっていたから。だから、それを一番、何の気なしに容易く口に出せるであろう五番目の弟を選んだに違いない。しかも、ここまで寄せれば、さすがに騙されてくれるだろうと信じて。
だけどそれは、十数年の付き合いになる私には通用しなかった。そして、「それ」じゃああまりに空しい気がして。空回りばっかりの彼が、もしからっぽの心を満たしたくてこんなことをしたのであったら、私が黄色に対して言っても、黄色に化けて返事しても、全く意味のないことだから。
ここまでくれば、死なばもろともだ。わりととんでもないことを言う自覚はある──十四松相手の場合だけは、例外だ──が、それは私だけではないし、何より、彼はちゃんと言わないと伝わらない奴だとわかっていたから。
赤や緑に、お前は妙に彼に甘くないかと不満を漏らされたことがあるが、それはどうやらほとんど間違えていなかったらしい。
「好きだよカラ松」
「……はえ、」
ワンテンポ遅れて情けない高い声がして、かと思えば、その顔が面白いほど朱に染まっていく。こんな顔の彼を見るのも随分と久しぶりだった。いや、むしろ初めてじゃないか? いつも自分の世界に浸っている、自分のペースを乱さない彼が、ここまで赤面して狼狽えるのは。
彼は私に抱き着いたまま完全に硬直してしまった。密着した腕から、心臓がせわしなく動いているのが伝わってきた。口がぶるぶると震え、ぶわりと冷や汗が吹き出し、ワックスか何かで固めていたと思われる2本目のアホ毛が、みょん、と立った。
「で、あんたは」
「……かんべんしてくらさい……」
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