04
「ねえトキ、今度パフェ食べに行こうよ」
「パフェ?」
「そ、女の子たちが話してて……あ、これこれ。カップル限定で頼めるハッピーラブラブパフェ。美味しそうだしすっごい可愛くない?」
「何その世界一頭悪いネーミング」
「僕一人だと頼めないんだよ〜! ね、お願い! 食べたいんだよう!」
「私そんなに甘いの得意じゃないんだけど……」
「行ってくれなきゃ、こないだ僕につられておそ松兄さんのこと兄さんって呼び間違えたの、本人にバラすよ」
「げっ……性格悪い」
「ふふ、じゃあ今週の日曜日あけておいてね!」

ひそひそ、ひそひそと。わざわざ聞きとれる音量で囁かれるのは気分良いものではない。むしろ、唾を吐き捨てたいほどに糞食らえだと思っている。でも、そんなのにはもう慣れていた。
──最近まったく一緒にいないよね。この間も無言ですれ違ってたし。嫌われたんじゃないの。ほらあの子愛想無いし、つまんないし。一人だけ女だしねえ。分かる分かるー! 男同士の付き合いに割り入ってる感あったよねー。邪魔者感否めないっていうの? ねー!
キャハハ、と甲高い笑い声が人気の少ない放課後の教室に静かに染みる。そんなものは全部右耳から左耳だ。そのまま窓を通り抜けて鳩糞にでも当たってしまえ。心の中でよくわからない悪態をついた。
人間、とりわけ女子は、本当にこういうのが好きだと思う。こういうネタがあれば、すぐに飛び付いてくるのだから。きっと私は男に生まれていれば、もう少しこの空間で生きやすかったのかもしれない。私が本当に仲良くできた女の子なんて、十数年生きててもトト子ちゃんだけだった。向こうがこちらをどう思っているかは、本人ではないからわからないけれど。
言わせるだけ言わせておけばいい。余計な波風立てるほうが面倒なことになる。
ただ、それでも。お前たちに何がわかるのだと。そばまで寄ってその愛らしくチークが薄く塗られた頬に、魂込めて平手をお見舞いしてやりたかった。お前たちなんかに理解されてたまるかと。外野がごちゃごちゃ煩いんだよと。
幸いなのは、自分が人より、感情が顔に出にくいことだった。
ざわざわ、どろり、腹の奥底で嫌なものが蓄積していく。毒のようだった。容赦なく心身を害う。さらにそれは吐き所がどこにもなくて、どんどん体を圧迫していくのだ。このまま膨張して、いっそ破裂して死んでしまえたら楽なのかもしれなかった。
「まあ、つまらなくても無愛想でも、そうやって陰でこそこそしてるよりはよっぽどマシなんじゃないかなぁ」
心臓が、止まった気がした。
「────はぁ!? なにっ……何!? 松野サイッテー!!」
「あー、最悪! もう萎えた、いいよ行こ!」
後方の扉近くの席で話していた二人は、なにかぐちぐちと吐き捨てながら、荒く足音を立てて教室を出ていった。残された私は、扉のそばで作り笑いを浮かべたままそのイレギュラーに、視線を向ける。
「……アンタ、馬鹿じゃないの……」
なんで。人一倍体裁を気にするアンタが。可愛い女の子には、とくに人当たり良く接するアンタが。メールも返さないで、私との縁を切ろうとしてるアンタが。
「ねえ、トド松」
「……」
きっとその、桃色のパーカーを脱いでいれば、彼女たちにはアンタがアンタだってわからなかっただろう。そう考え付くくらいにはずる賢いはずなのに。そうする余裕もなかったの? そうまでして、私を庇ったの? なんで? 私とはもう関わらないんじゃないの?
トド松は、いつもの少しあざとい笑顔から一転。まるで「やってしまった」「本当はそんなつもりじゃなかった」とでも言いたげに、冷や汗を流して私から顔を背けている。本人も動揺しているらしかった。本当に、無意識だったのだろう。なんの算段もなく、ただその一時の感情に突き動かされて、私を庇ったのだろう。それを、簡単に受け流すことなんてできるわけがなかった。
「トド松」
「……触らないでください」
近付いて、その肩を掴もうとして拒まれる。わざとらしいほどの他人行儀が、私を酷く意識していることを示していた。彼は私と目が合わないように、足元に視線を落とす。そのまま、少しの間沈黙が続いた。
もう一度、トド松の名前を呼ぶ。彼は小さく肩を震わせたかと思えば、ぱっと身を翻し、そのまま廊下を走り去ってしまった。一人教室に残された私は、しばらくその場所から動くことができなかった。
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