剣城と出られない部屋

【相手の嫌いな所を五つ言わないと出られない部屋】


「あんれま〜」
「なんだこの狂った部屋は」

 まったく動じる様子のない日和と剣城。二人はそっと顔を見合わせると、ロックの掛かった扉に向かいノブをガンガンと揺すったり、戸に蹴りを入れたり間髪入れず破壊行動に移った。しかし扉はびくともせず、二人の手や足に疲労と痛みを残すだけだ。

「チッ……開きそうもねェな……」
「ボールがあったら京ちゃんの死の(つるぎ)で木っ端微塵にできるのになぁ」
「デスソードって言え」
「京ちゃんボールなしでデスソれない?」
「略してんじゃねぇ」

 ガチャガチャとノブをいじっていた日和は、諦めたように離した手を顎に添える。少し考える素振りを見せてから、部屋のなかに掲げられたお題に今一度目を向けた。

「じゃあやはりこの提示をこなさないといけないかねぇ」
「ったく、何なんだこのふざけた部屋は……」
「京ちゃんがフフッセクターに反旗を翻したからかしらん?」
「俺のせいにすんな」
「私のせいでもないぜ。やーいやーい出てこい犯人〜排水口のヌメりのように陰湿な奴め〜」
「俺かお前のせいだとしたらお前な気がしてならねえけどな……」

 両手でメガホンを作り、天に向かって野次を飛ばす日和に剣城はそっと呟く。それから日和はいくつか頭の悪い悪態を吐くと満足したらしく、手を下ろし改めてお題に向き合った。

「さあてだがしかしbut困ったなぁ。京ちゃんは私に嫌いなところなんて無いし……」
「何決めつけてんだ自信過剰が」
「え? 京ちゃんってばこのパーフェクトヒューマンに対して嫌いなポイントがあるの?」
「そういうところとかな」
「美人過ぎて眩しいところ?」
「人の話を聞かねェところもな」

 剣城のこめかみにうっすら血管が浮かび上がる。しかし日和はおそらく故意であろう、反省するどころかどんどんヒートアップしていく。

「大丈夫だよ京ちゃんは私と並んでもまったく見劣りしないイケメンでっせ。美男美女カポーに見えてること請け合いだよ」
「……三つめ。その鬱陶しいところ」
「とか言って〜私がまったく構ってこなくなったらめちゃくちゃ調子狂うくせに〜」
「四つめ。そうやって人をすぐおちょくりやがるところ」
「お〜っと図星か〜? 京ちゃんてば照れ屋さん〜カ〜ワ〜ウィ〜」
「あとはこの減らず口だな」
「ウィィイイいいはいいはいいはい」

 両頬を容赦なくむぎりとつねられ、日和は奇声をあげる。剣城はすぐにぱっと手を放したが、その白い頬には赤みが残っていた。「京ちゃんてば私以外の女の子には絶対手あげないくせに〜」日和は間延びした文句を垂らすが威力はまるでない。剣城はハァ、と面倒くさそうに息をついた。

「これで五つだ。次お前の番だぞ、日和」
「え〜?」

 そう振られた日和は、腕を組み目を伏せると、むむ……と器用に口だけ曲げて見せた。

「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜む」
「長ェよ」
「いよいよ困ったなぁ。拙者も京ちゃんの嫌いなところなんてないからなぁ」
「……なことねーだろ。というか『も』ってなんだよ一緒にすんな」
「いやいやホントホントに無いんだよねいや〜困った」
「あんだろ五つくらい。適当に出せよ、一生ここから出られねぇぞ」
「と言われましてもワンコはニャンと鳴けないし〜」

 そこまで不可能なものなのかよ、そう相槌を打ち掛けてやめる。余計なことを、これ以上話させるのも回避したかった。

「ン〜〜〜〜〜〜〜〜……」

 長いマナーモードのように唸る日和。しばらくして顔を上げると、彼女は度の入っていないレンズ越しに、まっすぐ剣城を見据えた。

「確かに京ちゃん駄目なところもいっぱいあるけど」
「あ?」
「駄目なところもひっくるめて吾輩京ちゃんのこと超好きだからな〜」
「……」
「いたっ、痛たたたたアア〜〜そういうすぐ手が出るところはそんなに好きじゃないかも〜〜〜」
「おら、その調子でさっさと残り四つ出せ」


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