「チェックメイトだ」

 そう言った彼の表情はとても憎らしいことに違いない。

 次の会議まで少しだけ時間が空いたからチェスに付き合え、と言われ今に至る。所詮社長だ、と思ったことを後悔している。チェスに誘われた時点で気付くべきだった。自分の方が得意だからと慢心してしまった。

「次は本気でやれよ、そうじゃなきゃ意味がない」

 意味がない…?どういうことだ?疑問に思い、下を向いていた顔を上げると社長と目があった。ふっ…と笑い、言葉を続ける。

「お前に勝てるようにと必死になったこっちの身にもなってみろ。好きな女に…、いやなんでもない」

 最後まで言ってくれなかったが、チェスをやるのは口実だったってことを理解し、動揺する。まさか、社長が…私を。

「もうひと勝負だ。私が勝ったら…、わかるだろう?」

 卑怯なひとだ。本気を出せと言うのに、そうやって人の心をかき乱す。目を閉じゆっくりと深呼吸をし、精神統一する。
 目を開けると既に整列された駒たちと、挑発的な表情をした社長。いろいろ聞きたいことはあるが…。全力でお相手します。私にもプライドがある。この勝負、負けるわけにはいかない。



無記名SS当てっこ 題材―社長「駆け引き」
2020/09/21




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