どうしたものか…と、オレは頭を悩ます。目の前には毛を逆立てた真っ白な猫。右前脚は怪我をしていて血で染まっている。
偶然通りかかったスラム街の裏道で遭遇したこいつ。オレが手を近づけると威嚇をして一定の距離を保つため、まったく距離が縮まらない。怪我をして痛々しい前足に負担をかけないように器用に後ずさりする。あー、こういう時相棒がいてくれれば…と鳥と仲良くするルードの姿が脳裏をかすめる。どうしたらいいか…と手を顎に当てて考えたときに目に入ってきたマテリア。そういや、今日は珍しく回復マテリアを填めていたな。これでどうにかなるんじゃねえか、とケアルを猫にかける。
「ほら、オレは怖くないぞ、と」
ケアルをかけながら少しずつ近づく。怪我を治してくれるということで警戒を弱めてくれたらしく、すぐそばまで近寄れた。猫相手にオレは何をやっているのだろうか。でも、目に入ってしまったから仕方ない。それに何故かこの猫のこと放っておけないと感じた。ケアルをかけつつ、そーっと手を差し伸べると勢いよく人差し指に噛みつかれた。
「くっ…痛てぇぞ、と。まあ、噛む元気があるみたいで安心だな」
中指と薬指で顎の下を優しく撫で続けていると、噛む力が弱まってきた。
ゆっくりと口を開け、刺さっていた歯が指から離れる。歯の痕がついているところをぺろぺろと舐め始めて少しくすぐったい。
「くすぐってえぞ、と」
「…にゃあ」
ひと鳴きすると手にすり寄ってきた。警戒心が解けて逆に懐かれたか?ここ数日あまり乗り気じゃない任務を連続でこなしていたせいで荒んでいた心が癒される。人助け…いや猫助けも悪くはないぞ、と。
こいつも元気になったし、そろそろオフィスに戻るか…と思い、重たい腰を上げる。
「にゃあー!にゃあー!」
パンツの裾に噛みつき、オレのパンツを必死になって引っ張っているのが目に入った。あー、だいぶ懐かれてしまったみたいだな。ま、オフィスに戻ったところで数日間は任務報告書と始末書に追われるし、連れて帰ってもバチは当たらないだろう。
「俺がデスクワークする間だけだぞ、と」
言葉を理解したのか裾から口を離し、その場に座り「にゃーん」と鳴きつつ尻尾をゆらゆら振っている。まったく…。こいつを抱き上げ、脇に抱える。おいおい、ご機嫌で尻尾振るのはいいが、勢い良すぎてベシベシとオレの腰に尻尾があたってるぞ、と。んまあ、たまにはこういうのも悪くはねぇけどな。
オフィスに着くとオレ以外誰もいなかった。んだよ、相棒もいないのかよ。今日任務って言ってなかったから休憩中か…?
小脇に抱えていた猫をデスクの上に下ろし、頭をわしゃわしゃ撫でる。「大人しくしてろよ?」
オフィスに戻ってくる前に寄ったカフェテリアで買ったミルクを使っていないマグカップに移し、デスクの上に置いておく。
ルードに連絡して、オフィス戻ってくる前に猫の餌買ってくるようにお願いしとくか…。ポケットから端末を取り出しメールを送る。「猫のおやつ、帰りに何個か買ってきて欲しいぞ、と」これでよし。
報告書でも作成するかと椅子に座り、モニターの電源をつける。ブォン…という音にこいつの耳が反応する。カップに入ったアイスコーヒーをストローで吸いつつ、キーボードに両手を置くと近寄ってきた。マウスが置かれているところの近くで丸くなる。ちょうど撫でやすいところにこいつは来るな?
時折猫を撫でて遊びながらデスクワークをしていたら、相棒が帰ってきた。時計に目を向けると、結構時間が経ってる。今日のデスクワークは苦じゃないな。こいつがいるからか?と猫に視線を向ける。
「レノ、言われたもの買ってきた」
「おー、さんきゅー。こいつにあげてやってくれよ、と」
「連れて帰ってきたのか」
「成り行きでだぞ、と」
こいつに噛まれた人差し指をチラつかせながら言うとどこからか絆創膏を取り出して渡してきた。相棒は袋からおやつを取り出し、与え始めていた。泣く子も黙るタークスがこんなほのぼのしてるとは笑えるぞ、と。
その後も報告書作成を猫と戯れながらやって、どこからか帰ってきたツォンさんに呆れた顔された。報告書の作成進んでるし問題はないだろう。
束の間の癒しだってあったってバチは当たらないはずだぞ、と。
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2020/10/15