汚れ一つない真っ白なジャケット、パンツを身に着け、優雅に歩く姿がいつみても美しくて自然と目で追ってしまう。私も凛と優雅に歩けたら…そう思うが、私はただの一般社員で彼はこの会社の社長。天と地ほどの差があるのだ。平々凡々の私が何を夢見ているのだろうか。さ、仕事に戻ろう。こんなところで道草食ってるのがバレたら、”キャハハ”と笑う上司からどやされるに違いない。廊下の隅から急いで離脱する。また、見れたらいいな…去りゆく彼から目を離さずにいるのは、自分でも笑ってしまう。
翌日、また同じ時間帯に同じ場所を通った私の視界の隅に真っ白が映る。視線を少しずらすと、歩くたびにふわふわと揺れ動く真っ白のそれ。今日も優雅に歩いていて素敵だ。
ふと気になったのだが、あの洋服のデザインをしたのはいったい誰なのだろうか。サイズもぴったりでビシッと着こなしているから御用達のブランドがあるのかな?
ああ、それにしてもキラキラしてて本当に好き。見るだけでこっちのモチベーションも上がる。うん、社長がかっこよくて良かった。
カフェテリアで同僚とコーヒーブレイクをしていると、社長とお付きの人が廊下を歩いているのが目に入った。今日2回目も見れるなんてラッキーじゃん。真っ白な社長と真っ黒な…タークスの人かな?正反対な色を持った組み合わせだが素敵だ。真っ白の社長が映える。
コーヒーを飲みつつ、モノクロの2人を目で追っていると同僚から「そんなに社長を見ていて飽きないのか?」と聞かれた。
「イケメンは見ているだけでいいんだ。目の保養だよ」
「確かにイケメンだけどさー…」
「今日も美しく優雅だった…」
尊い気持ちをじっくり噛みしめていると、肩を叩かれた。同僚と目が合うと、腕時計を指された。ああ、もう戻らないといけないのか。もっと噛みしめていたかった…と悔しい顔をしてしまう。それを見た同僚に苦笑いされてしまった。写真集出してくれないかな?この端末の待ち受けに設定をして、いつでも拝めるようにするし、写真集を隅から隅までじっくり見て目に焼き付けたい。
そこまで考えてふと私は思った。あれ、これ…アイドルを追いかける気持ちに似ているかも。ぼそっとつぶやくと、「あんた今更気づいたの!?」と驚かれた。自覚するのが遅すぎたらしい。そんなこと言われてもねーと呑気に思ってしまうが、この気持ちがわかってすっきりした。明日もまた社長見れたらいいな。
定時で帰れるはずが、兵器の不具合が見つかり残業だ。眠気覚ましに缶コーヒーを自動販売機に買いに行ったら、ブラックが売り切れだった。ツイテないなあ…。仕方ない、糖分補給も含めてカフェオレでも飲むか…とボタンを押す。ガコン…と落ちてきた缶を取り出し口から取り出そうとしゃがんだ時、ふと視界に真っ白が映った。こんなこと昼間にも合ったな…と思い、頭だけそちらへ向くと社長がいた。少しお疲れのようで、フラフラとしている。危なっかしいな…と思いながら見ていると、脚が前にうまく出なかったようで躓き前へ身体が傾く。
「あっ!」
思っていたよりも大きな声を出してしまったが、目の前で社長が躓いているのをみてしまったのだ…。あんなに凛と優雅に歩いている社長が何もないところで躓いたのが衝撃的過ぎて、目を離せなかった。そう、それが悪かったのだ。
「…みっともないところを見せてしまったな。このことは内密に頼む」
「は、はいっ!勿論です!」
しゃ、社長と会話をしてしまった!それに普段は凛と優雅にしているのに違った一面を見れたことにとても嬉しかった。は〜、どんな社長も素敵です!なんて言えたらどんなに良いのだろうか。
「声が漏れているぞ。いつも熱い視線を投げていたのは君だろう」
「ひえっ!!」
「悪い視線ではなかったから放置していた」
体制を立て直し、いつもの如く優雅に立つ社長が目の前にいて、眩しい。そして、いつも見ていることがバレていたことが恥ずかしくて、顔を見れない。ずっと見ていたことによって不快な思いをしていたんじゃないかという可能性もあることに気づき、血の気が引いた。冷や汗も出てきた。
「ふ、不快な思いをさせてしまっていたのなら、申し訳ありません…」
極度の緊張で震えた声が言葉を発するたびに小さくなっていく。目の前が霞んできてくらくらしてきた。
「見て見ぬ振りをしていたんだ、気にするな。不快ならすぐに対処していた」
不快ではなかったことを知り、ほっと胸を撫で下ろして息を吐き出す。「ああ、そうだ」社長が目の前にいるのにも関わらず気を抜いてしまい、驚く。姿勢を正し、向き直ると再び口を開いた。
「夜遅くまでご苦労。不具合の対応、念入りにな」
そう言うと、今度はしっかりとした足取りで去っていってしまった。
あれからというもの、社長の視界に入ると話しかけられるようになってしまった。アイドル的な存在なので、話しかけないで!見てるだけにさせて!なんて言えないし、イケメンが目の前にいると緊張する。それに先日何もないところで躓いたことの過程を見てしまったことが頭から離れなくて、どうしても可愛い人だなという気持ちが出てきてしまう。
後々、社長が絡む一般社員ということでタークスの人たちにも絡まれるようになってしまうことをこのときの私は知る由もなかった。
フォロワーさんの誕生日お祝いSS
「何もないところで転ぶ」社長を見てみたい
2020/10/08