愛刀についた血を払い、納刀する。私の周りには少し前まで人間だった肉のかたまりがあっちこっちにある。今日は何人の命を奪ったのだろうか…。スーツには返り血が大量にかかってしまい、重くずっしりしている。早く脱いでしまいたいが、この任務は一人ではないため、連絡待ちだ。

 ふぅー…っと、息を吐き出し、天を仰ぐと顔に滴が当たった。ああ、雨だ。雨が降り始めた。だんだん雨の粒が大きくなり、降ってくる粒も増えてくる。
 沢山の滴が髪の毛や顔にもついている返り血を少しずつ流していく。徐々にジャケットが雨を吸い、返り血とあわさり重さが増し、吸収しきれなくなった雨水が滴り始めた。ふと…下を向き足元を見つめていると、滴っている雨水に返り血が混じっていることに気づいた。

 あっという間に私の足元には、血が混じり薄らと色付いた雨水が溜まり、水たまりができた。今日はこんなにも沢山の血を吸っていたのか…とぼんやり水たまりを見つめる。ジャケットが吸った血を雨が流すように私の手に染み付いた…この真っ赤になってしまった手の汚れも落としてくれないかと思い、手のひらを上に向け胸の前に出してみた…が、雨が手に当たるだけで何も変わらない。そりゃあそうだよね…、雨で落とせる汚れじゃない。

 "ははっ…"と、思わず声に出して笑ってしまう。何を今更、私はタークスだ。タークスであることに誇りを持って仕事をする。…もう一度私の周りを見て、そうこれは私の仕事。神羅のためにやらなければならないこと。レノは「どんな仕事も楽しむことがプロフェッショナル」と言っていたが、流石に人の命奪うことは楽しむことができないな…。ああ…、でも一方的に奪うのではなくて、強い相手と戦うときは楽しいかもしれない。どういう攻撃をすればいいのか、この後相手はどんな行動するのか…そういったことを瞬時に考えなければならない駆け引き。格闘ゲームをする人が言っていたが、早出しジャンケン。まさにそれを命かけてやっているわけだけど。


 どれくらい雨に打たれていたのだろうか。やっと無線に応答があった。どうやらあちら側も終わったらしい。通り道だからここで待っていろと言われてしまったため、もう少し雨に当たって誰のかもわからない血を流すとするか…。そう思い、瞼を降ろし再び天を仰ぐ。





「…帰るぞ、と」

 ずっと私に降り注いでいた雨が急に止み、レノの声が聞こえた。瞼を持ち上げると目の前に真っ赤が広がる。

「どれだけ雨に当たっていたんだ?風邪ひくぞ、と」

「どれくらいかは、わかんないけど…。今日は血を浴びすぎちゃったから、雨で流していたんだ」


 私を傘の中に入れても、もう意味がないのに、レノは優しいから入れてくれる。殆ど濡れていないレノを濡れ鼠の私が近くにいることで濡らしてしまうのは心苦しい。でも、そんなのとお構いなしで彼は私の隣に移動し、肩を寄せる。

「レノ、少し離れて…。濡れちゃうから」

「そんなのどうでもいいだろ。アンタがこれ以上濡れなければそれでいい」

 そう言うと、さらに体を寄せてきた。私が気にするんだけどな…。これ以上レノを濡らすわけにはいかないので、おもむろにジャケットを脱ぐ…が、雨水をたくさん吸ったジャケットがいうことを聞いてくれない…。

 苦戦してジャケットを脱いで、達成感に浸っていると、横から視線を感じた。なんかあったのかな?と思い、視線のほうへ顔を向けるとレノを目が合った。しかし、すぐに目をそらされる。不思議に思うが、何も言わないから聞かないほうがいいのだと思い、ジャケットをレノがいる方とは反対に持っていき、思い切り絞る。うわ、びしゃびしゃだ…。結構いい値段したのになと、思いつつも容赦なく雑巾のようにジャケットを絞っていると肩にふわっと何かをかけられた。


「体冷えるから、オレのを着ておけ。ルードにタオル出してもらっているから、ヘリに着いたら即拭けよ?」

 冷えた体をレノのジャケットが温める。といっても、シャツも濡れているため、徐々に乾いたジャケットも水を吸い始めるが。

 私よりも大きいレノが着ているそれは、私には大きすぎて、袖から手が出ない。先ほど雨に当たっていた時と同じように、手のひらを上に向け、胸の前に出してみる。やっぱり袖から手が出ない。隠すことはできるんだけどな…と思っていると、横から手が伸びてきて私の手をジャケットごと掴んだ。

「俺とお揃い、だから気にするなよ、と」

「そうだね…レノとお揃いなら悪くはないかも」

「ほら、ルードが首を長くして待ってるから、早く行くぞ、と」

 掴まれた手は解かれず、そのまま。レノの優しさが心に沁みる。こんな私を好きでいてくれるなんて感謝しかない。好きだな…と改めて思っていると、”オレもだぞ、と”声が聞こえた。ん?レノ心読めるの?と不思議に思ったら、声に出ていたらしい。恥ずかしさで、顔をふいっとするとクスクス笑われてしまった。





 ルードが待つヘリに戻ってきて、後部座席に腰を下ろす。はー、疲れた…。用意しておいてくれているタオルを受け取り、レノから借りたジャケットを脱ぐと、それを見たルードが慌てて、そっぽを向いた。いや、上着を脱いだだけじゃん。なんだよぉ…って思っているとルードの慌てようを見たレノがこっちを見た。

「おまっ!ジャケットを着ろ!脱ぐな!」

「え?何で?」

「透けてるんだよ!気づけ!!!」

「ああ…、大変失礼しました…」




 
 この後、速攻で神羅ビルに戻り、レノに"報告はオレがするから"と、強制的にシャワールームにぶち込まれた。さらには、イリーナによって《もこもこ》の部屋着が用意されていた。この《もこもこ》着て、オフィスって…タークスに合わな過ぎて笑ってしまったのは許して。


2020/07/03




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