"どうしてもレノにネクタイをして欲しい"
そう思ったのはいつからだろうか。タークスは真っ黒のスーツがトレードマーク。ツォンさんやルードはワイシャツのボタンを一番上まで留めしっかりネクタイを締めているのに、私の隣にいる同僚はそれとは正反対。ワイシャツのボタンは2,3個しか留めておらず、綺麗な胸元を見てくれと言わんばかりに解放されている。
そもそもネクタイを持っているだろうか?いや、それ以前にネクタイを結ぶことができるのか?そんな疑問は、すぐに解消されることになった。レノと警護の任務が入ったからだ。しかも、どこかのお偉いさん。半日…いや数時間だけの警護だが、お偉いさんというだけあって、正装で警護しなくてはならない。
「絶対嫌っすよ!ネクタイだけは勘弁してくれよ…」
「そうは言っても仕方ないだろう。任務だ」
「へーへー…。結んだのなんていつの話だと…。あー、どうやるんだっけな…」
ツォンさんに嫌々言ってたレノだが、しぶしぶと何処からかネクタイを取り出してきた。こいつ、ネクタイを持っていただと!?顔には出さず驚いていると、レノと目が合った。嫌な予感がする…。
「ちょうどいいところに。なあ、ネクタイ結んでくれよ、と」
ぽいっと私にネクタイを投げ、催促してくる。ああ、やっぱり結べないのか。返事も聞かずに投げてくるけど、私が結べなかったらどうするの。というか、相棒にやってもらえばいいじゃない。少しむすっとしてネクタイを眺めていると、"アンタにお願いしているんだぞ、と"言われてしまった。解せぬ。
レノへの恋心を隠している私は、ネクタイを結ぶという行為で至近距離まで接近しないといけない。なんだこれは、罰ゲームか?私がずっと想いを告げずにいることへの嫌がらせか?こうなったら…悪戯心も出てきてしまう。
「仕方ないな…」
重い腰を持ち上げ、ネクタイを結ぶためにレノへ近づくが、立って私を見ているだけで私がやりやすいように屈んでくれる気配がない。こいつ…!さっきの悪戯心が蘇ってきた。やるしかない…!
身長差があり、レノの顎が私の脳天に置かれることはしばしば…。
両手でネクタイの端を持ち、勢いよくニヤニヤしてこちらを見てくるレノの頭上を通過できるようにぽいっと放る。うまくネクタイがレノの背中へ回ったことを瞬時に確認し、ぐっと手前にネクタイを引っ張る。
いきなりのことにバランスを崩したレノは私のほうへ前のめりになる。このチャンスを逃すか!と、衝突しないように痛くないようにと唇を奪う。
驚いて目がまんまるになったレノを見て、してやったり!とキスしてしまった!という感情が出てきて動揺してしまう。
「驚いた?」
「キスはこうだぞ、と」
一瞬にして唇を奪われた。私の歯をレノの舌がゆっくりとなぞる。ぞわぞわして口が開くと好機と言わんばかりに舌が侵入してきた。後頭部を押さえられて離れたくても離れられない。彼の舌が私の舌に絡んで遊んでくる。
「んっ…はっ…」
くぐもった声が漏れる。こんなにキスが上手だなんて知らなくて、軽い気持ちでしてしまったことを後悔した。ちょっと驚かせようとしただけだったのに。
「ヤラシイ顔してるな、と」
やっと解放された唇。吐息がかかる距離で言われてしまい、私の心臓は爆発寸前だ。顔に熱は集中してるし、早く離れて落ち着きたくてもレノの腕が私を解放してくれない。これでもかと両腕をピンと張り、なるべくレノから離れようとしてもびくともしない。助けを呼ぼうにも主任とルードはいつのまにかいなくなってるし、諦めるしかないのか…?
「俺のことが好きなら、ちゃんとアピールくらいしろよ。お前バレバレだぞ、と」
本人にバレていたことが恥ずかしくて穴があったら入りたい…。もうなんでもいいから、レノ一回離れてよ。いつまでこの至近距離で恥ずかしい思いしないといけないの。いろんな感情が溢れてきて耐えられない。そう思っていると、涙が出て目の前が滲んだ。
「ごめんって。泣くなよ…」
両手で顔を包まれ、上を向かされる。レノと目が合い、「俺もお前と同じ気持ちだから」って初めて聞く優しい声。涙がぴたっと止まり、見つめ返していると、再び唇を奪われた。今度はさっきと違って優しいキス。両思いだとわかってからのキスはとても幸せで心地よかった。
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2020/10/15