いつも私が働いているフロアで見かける黒髪がとても似合うあの人。この神羅で働き始めてすぐに見かけた、とても綺麗な男性だ。遠くから見ているだけの名前も知らないあの人のことを気がつけば目で追っていた。あの人はどこの部署で働いている人なのだろうか。今日も私は彼を探す。

 総務部で働く私は今日も様々な部門から上がってきた書類を捌く。内容を確認すると、中々に酷いものが書かれていてこれが神羅の闇か、といつも思ってしまう。最初は恐る恐る仕事をしていたがなれとは恐ろしいものだ。この仕事を任されて数年、私は情報を一切漏らさずに真面目に対応している。仲の良かった同期も尊敬していた同僚も皆情報を漏らしてしまい、総務課が対応していた。いつの間にか仲良くなっていたレノとルードとは飲み仲間だ。

 手にとった一枚の書類を確認していると、総務課の始末書だった。また、あの子達は何か壊したの!?と目を通すと、今回はそうではなかった。消耗品が壊れたら始末書じゃないのに…書き直してもらわないとな。息抜きついでに総務部まで足を運ぼう。書類をバインダーにはさみ、いざ総務課へ。

 エレベーターに乗り込み、目的の地下3階につく。いつ来てもちょっと雰囲気が怖い。当たり前だ、ここは泣く子も黙るタークスの根城。意を決して、オフィスのドアを開けるとそこにはソファーに寝転がっているレノとデスクに向かい資料を眺めるルードがいた。

「どうしたんだ?って言っても、書類に不備しかないよな、と」

「いや、不備は不備なんだけど今日はそうじゃなくて、使うテンプレートが違うから書き直してもらわないといけなくて」

「ふーん…ま!もう少しで主任帰ってくるから、そこらへんに座って待ってろよ、と」

 ど、どこに座れって言うんだ…!とそわそわしていたら、ルードが「空いているところならどこでも構わない」と言ってくれた。た、助かった…。とりあえずルードの隣ひと席空けて腰掛ける。


 私の後ろでオフィスのドアが開く音がした。向かい側にいるレノがドアを開けた主に声をかける。

「あ、書類に不備ってことで担当者が来てますよ、と」

「ああ。」

 あ、あれ?わ、私この声知ってる。恐る恐る振り向くとそこには長年想いを寄せている彼が。え?嘘…?

「お待たせしてしまい、すみません。お手数おかけしました」

「あっ、ここここちらこそすみませんっ!この書類ですが、消耗品のほうのフォーマットで書かないといけないものでして、お忙しいところ申し訳ありませんが書き直しをお願いします」

 動揺してノンブレスで話してしまった。おい、お前ら。どうして教えてくれなかったの。わかっていて黙っていたな!?ちらりと横を見るとニヤニヤしているレノとズレてもいないサングラスを直すルードが目に入った。くっそ…してやられた。

「再提出行く時間がありそうにないので、今お時間いただいてもいいですか?すぐに対応します」

「はい、問題ありません。ここで待っていても大丈夫ですか?」

「ええ、何もないオフィスですが…」

 そういうと彼はデスクに向かい、作業を開始した。ああ、驚くことは多いが、仕事をしている彼を見ることができるなんて。さらには長年分からなかった名前を知ることができた。嬉しくて思わず顔が緩んでしまう。

「コイツ、ツォンさんと連絡取れなくて困ってたんですよ、と。連絡先教えといた方がいいと思いますよ、と」

 締まりのないニヤニヤした表情でこっちを見ながらレノは彼に話しかける。こいつー!また、そんなお節介を!

「ああ、確かにここ数年彼女が担当していたか…。ここにかけてもいない時も多いからな…」

 どこからか紙を取り出し、持っていたペンでスラスラ書く。ペンを持って書いている姿もかっこいいなと、ぼーっと見ていると彼が立ち上がり、私の前にまで来た。え?え?

「いつも迷惑をかけて申し訳ないです。こちらに電話もしくはメールをください」

 そう言われて渡されたのは名刺。裏にはとても綺麗な字でメールアドレスと電話番号が書かれている。

「す、すみません…ありがとうございます…」

 まさか彼の連絡先を入手してしまうとは思わずドキッとする。今日は色々展開早すぎませんか。私のキャパシティがオーバー寸前です!

 後々にレノから話を聞いたところによると、私が教えてもらった連絡先はごく僅かな人しか知らないらしい。そんなものを一般社員の私に教えて大丈夫だったのかと不安になる私と、この年で初恋を彼にして少し特別扱いされた事が嬉しい私がいてとても複雑な気持ち。
 あなたを想う気持ちはまだひっそりしておこう。恋ってこんなにも楽しくて、胸が苦しくなるものなんだな…。


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2020/10/15




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