「あー…今日は戻ったら報告書やらねぇと…だりィ…」
「…戻ったらいるんじゃないか?」
「…久々にデスクワークとかツォンさん言ってたか…?会いてぇな…」
「早く想い伝えたらどうだ」
言われなくてもわかってる。あいつも多分俺のこと好きなんだと思う、自惚れてなければ。
でも、今の関係を崩したくない思いもあり、伝えられていない。相棒曰く、焦ったい。"お前でもそうなるんだな"と言われたが、俺だって人の子だ。本命なんだから仕方ないだろ。
"デート誘えたら…な"と歯切れ悪くこたえると、サングラスをクイッと押し上げながら、"ふっ"と笑われた。あー、くそっ。デートもまともに誘えねえとか情けねえぞ…、と。
「ただいま戻りましたー、と」
オフィスのドアを開けながら言ったが、あれ…?いつもなら"おかえり"って声が聞こえるのに今日は聞こえない。ん?となり、オフィスに入りかけで止まったら、ルードがぶつかってきた。俺が止まったからとはいえ、痛ぇ…。
「すまん。中に入らないのか…?」
「あー…入る…」
オフィスに入り、中をぐるっと見回すとクッションに顔を埋め、ブランケットをかけて寝ている彼女がいた。いつのまにか俺の横に来たルードが"寝ているのか…?"と小さい声で呟く。ちらっとルードを見ると、驚いたようで口半開きにして阿保ヅラ。まあ、普段の彼女を見ているとそうなっても仕方ない。
噂の報告書はー…と、寝ている彼女の周りを目を向けるとまだ報告書が山積みになっている。連日の任務で寝ていないと聞いていたから、この量を終わらせるのは恐らく徹夜になるだろう。彼女のためにできることはないか…と一瞬で考え、相棒に話しかける。
「なあ…今度飯奢るから、アレ半分手伝ってくれないか?」
「…デートに誘うこともそこに追加だ」
「わかったぞ、と…」
余計なお世話だと、と思いつつも条件を飲む。
デスクで幸せそうな顔をして仮眠をとる彼女は、おそらく昼寝してリフレッシュしたのちに片付けるつもりだろうからアラームのセットしているはずだ。ここでアラームが鳴って起きたら、計画が水の泡。すぐさまデスクの上にあるだろうスマホを探す。想定指定していた場所になく、見落としたか…?と思い、もう一度彼女の周りを確認してみると、利き手で握りしめられているスマホを発見した。アラームが鳴った時に振動するようにもしているのだろう。
起こさないようにそーっとスマホの上部を掴み、ゆっくりと引き抜く。手に力が入っていなかったらしくあっさり引き抜けた。任務でずっと気を張っていただろうし、このオフィスなら気も抜けるか…と思考しつつ、パスワードをさっと入力し、ロック解除。アラームを取り消し、…これで準備は整った。
ふーっと一息つき、ルードに報告書を半分渡すと、こちらを見ずに無言で受け取り、すぐさま取りかかってくれた。流石相棒、よくわかってる。
報告書に取り掛かる前に少しだけ…と思い、ぐっすり眠る彼女の頭をそっと撫でる。猫のように少しだけすり寄ってきて、思わず天を仰ぐ。
もう少し撫でていたいが我慢し、報告書を手に取りパラパラ捲る。そこには一つ一つ丁寧に付箋が貼ってあり、書かれた内容に目を通す。どれもわかりやすく書いてあり、余裕をもって定時までに終わらせそうだ。
まさかデスクワークが大の苦手であるこの俺が率先して…しかも自分のではない報告書をやるとはねと、苦笑する。惚れてる女が連日の徹夜で顔色が良くないんだ。そりゃあ、早く家に帰って休んで欲しいだろ。
しばらくして、"終わったぞ"と声をかけられる。流石相棒、仕事が早い。ま、普段デスクワークが苦手な俺に代わって報告書や始末書を片付けているからだろう。でも今日の俺は違う。今やってるので終わりだ。俺にしては上出来。2人で分担したというのと、メモを残しておいてくれたことからだいぶ早く片付いた。
「俺も終わったぞ、と。ついでに今日の報告書もな」
「そうか。…そろそろ起こして帰らせたらどうだ?」
ルードに言われ時間を確認すると、定時まであと少しだ。確かにこの時間なら起こさないとな。こんなに寝かせるならそっと仮眠室に運べばよかったと思ったが、そこで起きてしまった可能性があることを考えるとこのまま寝かせたのは正解だろう。
椅子に座ったまま、彼女の近くに移動する。まだ、寝息が聞こえる。だいぶぐっすり寝ているな。あー…こんなに気持ち良さそうに寝ているのに起こすの忍びねぇな…。
意を決して身体をそっと揺らして、"起きろー"って声かけるが反応なし。え、まじで熟睡じゃねえか。さっきよりも強めに身体を揺らす。お、うっすら目を開けた。
「おい、そろそろ起きろって。長時間その体制で寝ると体辛くなるぞ、と」
「あと5分…」
そういうと、また目をつぶってしまった。いい感じに寝てたから起こすに罪悪感があるが…ここは心を鬼にする。
「はあ…もう少しで定時になるぞ、と」
数秒してガバッと上半身が起き上がった。"嘘だろ…"と言って、絶望してるが寝起きだから少しぽやぽやしてる。可愛くて頭を撫でると気持ちよさそうにする。やっぱり猫みたいで可愛い。
「積み上がってた書類はルードと手分けしてやっておいたぞ、と」
驚いた顔で俺の顔を凝視し、報告書が積み上がってたところを一瞬見てから、今度は俺とルードを交互に見る。おーおー、いい反応だ。
「…レノの提案だ」
「余計なこと言うなって」
ルードの一言で彼女の目が大きく開く。ったく、言わなくていいことを…。少し照れ臭くてそっぽを向く。
「2人ともありがとう…。お礼させて欲しいんだけど…」
「レノから貰うから大丈夫だ」
だーかーらー!余計なこと言うなって!こいつ、面白がってるな!?"え?レノから貰うの?"って顔してンじゃねえか!
"レノは…?"と少し上目遣いで言われてドキッとする。俺は…と思いルードをチラッと見ると、チャンスだろと訴えてくる。わかってる…わかってるぞ、と。深呼吸し、意を決してオレは言う。
「…デート1回だぞ、と」
「それでいいの?」
「それがいいんだぞ、と…」
きょとんとした顔で少し首を傾げながら言われて、動揺してしまった。あー…ぜってぇ耳…だけではなくて顔も赤い。カッコつかねえな…と頭をガシガシ掻いていると、"ふふふっ"と隣から笑う声が聞こえた。
"笑うなよ"、とむすくれて言ってしまうのは許して欲しい。
「デートプランはレノね。当日楽しみにしてる!」
満面の笑みで言われれば、こっちも嬉しくなる。デート誘えてよかった。荒ぶった気持ちとこの顔の熱を冷ますために一旦外に出よう。
"おー、楽しみにしておけよ"と、言い終わると同時に椅子から立ち上がり、足早にオフィスを後にする。あのまま居たら、墓穴掘るだろうしな。
ルードに協力してもらったとはいえ、デートに誘えたことが嬉しい。俺ってこんな単純だったんだな、と苦笑してしまう。
翌日、ツォンさんに"やっとデートに誘えたのか。早くくっつけ。見てるこっちが落ち着かん"と言われ、すぐさま"ツォンさんに喋ったのか!?"と、すました顔で自席にいるルードを睨みつけた。が、首を横に振られた。じゃあ、どうして…?
「エアリスから、"2人の休みあわせてあげてね"と連絡が来た」
まさかのそっち…!?とその場にへたり込むと、2人に鼻で笑われてしまった。
あーあー…情けないぞ、と…
2020/06/14