オレは全然こいつのことを知らなかったんだと今痛感した。いつもは薄いメイクをし、ビン底メガネをかけ、インドアで大人しいという印象の同僚。しかし、今は露出の多いパーティードレスを着て、髪の毛を綺麗に結い上げ、ビン底メガネからコンタクトに替え、パーティードレスに併せてた程よいメイクをしている。信じられない。
女ってこんなに化けるのかよ…と思ったのと同時に、コイツの本当の姿はこっちなんじゃないかとも思った。
「レノ、任務なんだからもう少ししっかりして」
オレの蝶ネクタイを整えて、燕尾服についたホコリを落とす。見慣れている姿だったら、こんな感情になることはなかった。完全にやられた…。鼓動が早いことがバレないで欲しい。顔はポーカーフェイスでどうにかなるが、オレの心臓…正直すぎるぞ、と…。
「首…きつくない?普段は全開だから窮屈だよね。でも少しは我慢して」
"はい、おしまい。これで大丈夫だよ。"と言い、オレの胸元をぽんっと叩く。
オレのパートナーとして彼女とパーティーに参加していて、オレら以外にタークスはいない。今回どういう奴らがこのパーティーに参加してたのかを知るためだけに来ている。
「ねえ、レノ。やっぱり私じゃパートナーとして相応しくないんじゃないかな…」
「そんなことないぞ、と。まさかここまで化けると思ってなくてだな…、正直驚いてる」
「普段ね…だってあのオフィスでそこまでする必要ないかなって…。私はタークスであり、彼氏とか結婚とかそういうのとは程遠いから。だから、今日久々にお洒落できて楽しいんだよね」
「オレとしては今の方が好きだぞ、と。それにオレたちはタークスだが、タークスに理解ある人いるかも知れねえだろ?」
「そうなるとタークスのメンバーか、社長しかいないじゃん」
「かもしれねえな…」
まるで悪戯が成功した子供のように…まではいかないが、お互い目をあわせて、くすくす笑う。
「んじゃ、お姫様…オレと一曲踊ってくれませんか、と」
「是非…!」
どうやってこの同僚を落そうかは後回しだ。とりあえず、今は彼女を一時的にでもオレのだから独占欲に浸りたい。あー…明日から楽しみだぞ、と。
彼女の手を引き、舞台へ上がるが…本当にお姫様を連れているみたいで柄にでもねえこと思ってしまう。これがあれか…ちょっと前に聞いた話、12時までの魔法。この時間が終わってしまうのがもったいない。
履きなれないでだろうヒールの高いパンプスを履く彼女を心配し、一曲踊ったところで一旦踊るのをやめた。普通に歩いてるから、おそらく靴擦れはしてないだろう。ほっとし、彼女に近くにあったドリンクを取って渡す。むっとした顔でオレを見てくる。なんだ…?オレ、なんかしたか…?
「レノ…貴方には欠点がないの!?イケメンでダンス上手で、エスコートもしっかりしてる。イケメンのくせに…」
「…オレだからな」
「なんか、ちょっとムカつく…」
ちょっとでも優位に立ちたくて…すぐ隣に居る彼女の額に軽くキスをすると、顔を真っ赤にして上目遣いでオレのこと見てきた。すげぇ、そそる。なんだよ、こんなに良い女が近くにいたの全然気づかなかった。恋愛対象外だった同僚だけど、無理だ。これは堕としたくなる。ぜってぇオレのこと好きにさせる。
「さっきの話だが…オレならタークスだから理解してるし、アンタ曰くイケメンだし、優良物件じゃないか?今ならフリーだぞ、と」
「ばっ…馬鹿なんじゃないの!冗談はやめてよね!」
「冗談なんかじゃないぞ、と」
抱き寄せて耳元で"オレのこと好きになれよ"と吐息たっぷりに言う、さっきよりも顔が真っ赤になり、涙目でオレをみてくる。いい反応だ。
「い、今までそんな素振りしなかったくせに…!」
「こんなに可愛く化けるの知らなかったからなー…。それにこんなに可愛い反応してくれるんだから、落としたくもなるだろ?」
"ぜったいにおちないんだから…"と、オレの胸元に顔を埋め、か細い声で言ってるが説得力ねぇな。
こいつのことをもっと知りたいと思うと同時に、同僚なのに本当に何にも知らなかったんだと改めて痛感した日。
オレもまだまだだな、と…。
2020/07/13