今日も日課の雇い主のペットであるモンスターたちの世話。鎮静剤打って大人しくなってるとはいえ、毎日この時間だけは"今日が命日"と思っている。もし万が一にでも鎮静剤の効果が切れてしまったら…ジ・エンドだ。死の恐怖を抱きながらモンスターたちがいる場所へと踏み入れる。
―今日も生きて帰れますように
本来ならレズリーと手分けしているのだが、今日は雇い主からのお使いがあるそうで、私ひとり。よりによって、今日ひとりにしなくてもいいのに…。自分の誕生日にモンスターたちの餌となることだけは勘弁したい。万が一、鎮静効果が切れてしまったときのために鎮静剤は持ってきているが…、出番がありませんように…と信じてもいない神様へ願う。
いつでも撃てるように薬をセットした銃を手に持ったまま一つ一つの檻をまわり、モンスターの状態を確認する。が、途中何故かモンスターではなく戦闘兵器も檻に入れられていたため、メンテナンスしつつ…いや良い息抜きもしつつ、ラスト1体まで来た。
そう、最後はあいつ。ヘルハウス。
外から檻の中を覗いて確認するが、薄暗く目視での確認ができない。それに音が一切聞こえない。あれ…?いつもこんなに静かだったっけ?と疑問に思いつつも、意を決して、最後のあいつの扉を開ける。
薄暗い檻を一歩一歩慎重に周囲を確認しながら進む。何かおかしい…。檻の真ん中あたりまで進んだところで、はっとした。これはやられた。あいつ、起きてやがる!
気づいた時にはもう遅くて、上から液体が私のすぐ近くに落ちてきた…。ゆっくりと天井に顔を向けると、そこには興奮状態のヘルハウス。
私がヘルハウスを認識した瞬間、こちらで飛んできて慌てて、その場を離れる。あと少し行動するのが遅かったら、ぺしゃんこになってた。
その後もひたすら攻撃を避けつつ鎮静剤を撃つタイミングを見計らうが、まったく隙がない。こちらから攻撃して隙を…と考え、攻撃してみたがそれが仇になった。攻撃をもろに受けてしまい、身体を吹き飛ばされる。
さっきの攻撃で銃を手放してしまい、鎮静剤を撃つことができない。それ以前に床に叩きつけられたせいで起き上がることすら…。まさか本当に誕生日が毎日になるとは。ここまでか…と諦めて、瞼を下ろす。
徐々にヤツが近づいてくる気配がする。ああ、これで本当に終わりなんだな…呆気ない人生だった…。色々なことが走馬灯のように駆け巡る。
今の雇い主に拾われてからは毎日せっせと動き回って、楽しい仕事も嫌な仕事も…同じくらいやってきた。やっとそれから解放されると思うと、少しだけ死の恐怖が和らぐ。でも、最後にレズリーには会いたかったな…。
―パァンッ
死を覚悟していたそのとき、銃声が鳴り響いた。
私に近づくヘルハウスの気配がなくなり、恐る恐る瞼を持ち上げると、私の前に立っていたのはレズリーだった。
「どうして…ここに…?」
「お使いが予定より早く終わったから、急いできた。それだけだ」
「助かりました…」
「礼を言うのはまだ早い。鎮静剤はどこだ?」
「吹き飛ばされちゃって…」
かろうじて動く腕で飛ばされた方向を伝えると、「あとは任せろ」と言い、吹き飛ばされた銃を素早く回収。そして、ヘルハウスに向かっていった。
あっという間にヤツの隙をつき、鎮静剤を撃った。レズリーはやっぱり凄いな…私ひとりだとこんなことすら簡単にできないなんて…。
痛む体を丸めてぎゅっと小さくなり、顔を埋める。情けない…と、泣きそうになる。
「…帰るぞ」
いつのまにか私の近くに来ていたレズリーがわざわざしゃがんで声をかけてくれた。彼を待たせてはいけないと、慌てて体を起こそうとするが思うように動かない。
「ご、ごめん…。ひとりで歩くの無理そう…」
「はあ…仕方ない」と呆れ顔をしつつも、私の背中、両膝の裏に腕を差し入れ、持ち上げた。
「おとなしくしてろ。あと、落ちないようにどこか掴んでおけ」
いきなりのお姫様抱っこに頭が追いつかず、レズリーに言われた通り…落ちないように彼のジャケットをぎゅっと両手で掴む。
「ふっ…」と笑う声がして、顔を上に向けると、彼と目があった。思ってたよりも顔が近くでドキッとしてしまう。
少し呆れた…表情で、「お前は本当に目が離せないな…」と。
幼少のころ読んだ本にあった描写にそっくりできゅんっとしてしまった。散々な誕生日だけど、悪くはないかも…。
囚われた姫を助け出してくれた王子様みたいだなって思ったのは、私だけの秘密
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2020/08/16