雨がざーざーと降り注ぐウォールマーケット。雨が降る事を知らず、傘を持っていない私は濡れ鼠になりながら歩く。もうどれだけ雨に当たっているのだろうか。雨をたくさん吸った髪の毛から雫がぽたぽたと地面へ落ちていく。洋服もたくさん雨を吸って重たくなり、とても歩きづらい。すぐ止むと思っていたから雨宿りをしなかった。あの時の私、判断を誤ったな…。雨に濡れた事で徐々に体温を奪っていく。これは風邪引くかもなと思い、顔を歪める。同僚の彼にお小言をもらうことになるのは確定だろう。
俯きながら濡れて重たい体を引きずりのろのろと歩いていると不意に私の前に誰かが立ち、雨が止んだ。ゆっくりと雨で重たくなった顔をあげると、そこには同僚のレズリー。私と目が合うと呆れた表情をし、少し下を向いた。
「帰りが遅いから迎えに来た」
「ありがとう…」
「…ああ、少し傘を持っていてくれ」
私に傘の柄を持たせ、レズリーはおもむろにジャケットを脱ぎ始めた。どうしたんだろう?不思議に思っていると、そのジャケットはふわっと私の肩にかかった。
「それだけ濡れていたら冷えるだろう。風邪をひかれたら困るから、着ておけ」
レズリーは一方的に言うと、傘を持つ主導権を奪い歩き出した。置いて行かれないようにと慌てて、横に並ぶ。ぶっきらぼうに見えるが、なんだかんだ優しい彼。行方不明の恋人を今でも想う彼を好きになってしまった私は重症だ。
二人で入るには少し小さい傘なのだが、私の肩に一切雨が当たっていないことに気づいた。レズリーの肩をに目を向けると、だいぶガッツリ傘の外に出ているようでびしょ濡れだった。
「レズリーまで濡れることはないよ。ちゃんと傘の中に入ってよ」
「自分の心配だけをしてろ」
そういうところ、本当に好きだな。ぶっきらぼうに聞こえるけども、ちゃんと心配してくれて気遣ってくれて…。ただの同僚の私に何故そこまでしてくれるのだろうか。私が考えたところで答えは出ない。
今日は簡単なお使いだし、すぐ終わるからと思ったのが良くなかった。ちゃんと出かける前は天気を確認しておかないといけないな。今回は幸いにも持ち帰るものはなく、濡れて困るものは一切ない。雇い主にどやされる事はないのでこれ以上気持ちを落とす必要もない、が。
雨で土の匂いが強い、じめっとした空気は憂鬱になる。でも、今日はそんな空気にも悪い気はしない。肩にかけてくれた私には大きいジャケットを落としてしまわないよう胸元で両手を使いぎゅっと握りしめているからか、レズリーの優しい香りが頬をなでる。ごめんね、レズリーの恋人さん。ともに仕事をしている間だけはこの恋心を許してください。
雨が降り注ぐ静かなウォールマーケット。
先ほどとは違い私の足取りは軽かった。
Twitterにて開催されていた"彼シャツ"祭に参加
2020/07/27