盆も過ぎ、元気の戻った祖父も家に帰って来た。 春乃は縁側で洗濯物を畳みながら、朝顔の手入れをする祖父の背中を何とも成しに見る。 白いシャツは汗で濡れ、目深に被った麦わら帽子の下の首筋も赤く染まっていた。 最後の一枚を畳み終え、春乃は祖父へ声をかける。 「じーちゃん、麦茶持ってくるから一休みしません?」 「おう、そうだな。そうしようか」 顔を上げて振り返った祖父が顔の汗を、首にかけていた手ぬぐいで拭った。 今準備しますねと応えて、春乃は畳んだ洗濯物を持って家の中に入る。 洗濯物を棚に置いて、台所に入った春乃はガラスのコップを木の盆に置いて冷蔵庫を開けた。 そう言えば、汗も随分かいていたようだから塩分も補給させた方がいいだろうかと思い麦茶の入ったポットと、しょっぱい系のお茶菓子がないのでこれにしようときゅうりの漬け物を取り出す。 それらをお盆においてから、グラスに氷を入れようとしていると呼び鈴がなった。 来客の知らせに顔を上げて、「はーい」と応える。 玄関に向かおうとする前に、祖父が自分がでるからいいぞと声をかけてくれ玄関に向かってくれたらしい。 グラスはもう一つ必要かなと思いつつ、食器棚の前で耳を澄ませている自分の名を呼ぶ祖父の声が聞こえてきた。 なんだろうと思いつつ、それに返事をして玄関に向かう。 「どうしました?」 玄関には祖父が一人だけで春乃は不思議そうに背中に声をかけると、にやりと愉快そうに笑う顔が振り返る。 「お前にお客さんだよ」 「え……?」 「出迎えてやりなさい」 そう言われて反射的に、玄関のところに膝をついた。 半分だけ開けられた玄関からか祖父の姿が影になって、逆行を受ける来客者の姿は見えない。 祖父がゆっくりと後ろに下がり、中に入るように進めるとその人物は前へ進み出た。 「!」 春乃はそれが誰かを理解した瞬間、目を丸く見開いた。 ぽかんとマヌケにも口を開けて見上げたその人物は穏やかに微笑んでいる。 「グーテン ターク、春乃」 「ブロッケン、マン…?」 驚きに固まる春乃に、ブロッケンマンの笑顔が不思議そうな表情に変化して行く。 「そんなに驚いて、どうしたんだ」 「え…、あの、いえ」 しどろもどろになりながら春乃は言葉を探した。 ブロッケンマンの隣に立つ祖父も不思議そうな顔で春乃を見ている。 春乃はごくりと喉を鳴らしてから、今日って何日でしたっけと祖父に問うた。 あ?と怪訝そうな声を上げながらも、祖父は律儀に返答をくれた。 ですよねぇ、と呟いてから春乃は目の前の人物を見上げる。 いやに真剣な顔で見つめられ、どうした?と小首を傾げるブロッケンマンに意を決して春乃は言った。 「お盆過ぎたのに、なんでまだいるんですか?」 春乃の発言にブロッケンマンは目を瞬き、祖父は盛大に吹き出して腹を抱えて笑い出した。 その後、家に上げられ春乃の話を聞き、祖父からの日本のお盆についての説明を聞いたブロッケンマンが、春乃の誤解を理解し盛大に頭を抱えることになるのはそのすぐ後のことである。 そして……ブロッケンマンが春乃との約束を果たすべく、祖父と向き合う時はもうすぐそこまで来ていた。 END (ずっと、そばにいる) おまけ 「というか…死人が帰って来たと思っていたのか?」 「じ、時期があまりにもアレでしたので…」 ふむ、と唸ったブロッケンマンが「おかしいな…」とぼやく。 「おかしいな……地獄の鬼達は、この時期に帰ると喜ぶと教えてくれたんだが」 春乃は真顔で応えた。 「死人がお盆に家に帰れば普通は嬉しいですが、生きて帰ってくるという発想は人間にはないので……」 鬼が見当違いの気遣いをした結果でした。