首筋を這うようなざわついた気配に足を止め振り返る。 背後にはもちろん誰もいないし、何事かおこったような騒めきも周囲には感じられない。 気のせいだろうか──何か、嫌な空気を感じたのだ。 「コハル先輩ー?どうかしました?」 立ち止まった背中に、隣を歩いていた秋都が数歩先で立ち止まった。 「いや……」 勘でも鈍ったのか、と悪寒がぞわりと走った余韻がまだ残る首裏を手のひらで撫ぜながら溜め息を吐き出す。 「河川敷のほうかな……」 「河川敷?」 予感の方向にあたりをつけてそう呟けば、小首を傾げた秋都が思い出したように手を打った。 「あーそういや、超人の皆さんが合同スパーやってるらしいですけど。 声でも聞こえました?」 「バカ、ここからどれだけ離れてると思ってんだ」 冗談めかしてそう言って笑う秋都の後頭部を小突いてやりながら、小春はもやつく感覚を吐き出した。 「ただ何か、嫌なカンジがしてな」 「えーやだなぁ、先輩。 虫の知らせは私の専売特許ですよう」 「だよな……まぁ、何かあってもそこに超人がいるならあっちで何とかなるだろう」 さぁ行くか、と懸念を振り払うように再び足を進める。 胸ポケットにしまってある懐中時計の針が猛然と逆回転している事に、小春はもちろん気付かない。 「──あ、そう言えば」 「うん?」 「前にミート君から聞いたんですけどね、諺に“天災は忘れた頃にやってくる”ってあるじゃないですか」 ふと思い立ったように、唐突な話題を話し出した秋都の横顔を見下ろす。 妙な予感に片眉を跳ね上げて「それが?」と話を促せば、秋都は「それがですね」と声をひそめる。 「超人界では、ちょっと違うそうですよ。 “忘れた頃に”じゃなくて、“悪行超人の禍は間髪入れずにやってくる”って言うんですって」 「……」 「あれ?どうかしました?」 思わず顔を顰めて黙り込んだ小春を見上げて、秋都はきょとりと丸い瞳を瞬く。 小春は僅かに引きつった唇を苦く歪めた。 「お前な……自分で虫の知らせがよく当たるってわかってて、その話を今するか?」 「えぇ?」 まだ自分の発言の恐ろしさを理解していないらしい秋都に、痛む頭を思わず抑えて小春は溜め息を吐く。 「なんでこのタイミングでそんな話、思い出すんだ」 「あー」 とどめの小春の言葉にようやく合点がいったのか秋都の目が泳ぐ。 「まさに、虫の知らせですかねぇ……」