群衆と宣戦布告


「彼氏が出来た」

その言葉は予想以上に俺の心をえぐった
那津はずっと俺のことが好きだ、そんな自信が心のどっかにあった
俺が彼女を作ったって那津は「クロ、クロ」って言ってそばに寄ってきてたし
そうしてくれることに優越感だって感じてた

夜「あれ、今日那津ちゃん来ねぇの?」
黒「、、、知らねぇよ」
夜「なんだよ、機嫌悪ぃな」
黒「、、彼氏」
夜「は?」
黒「彼氏出来たんだと」

目の前でコンビニの袋片手に立っているやっくんは心底驚いたと言うふうに目を丸くさせている
俺がやっくんの立場でも同じ反応をしたと思う
みんなは那津と俺がそういう関係だということを知らない。
でも、那津が俺に対して恋愛感情を持っていることは気づいてたんだと思う
だって、毎日昼休みには俺の机まで来てご飯を食べてたし、
忘れ物は絶対俺に借りに来ていたし、試合だって全部応援に来てたから

夜「いや、なんつーか、どんまい」
黒「はぁ?そんなじゃないし!フラれたとかじゃねぇし、愛想つかされたとかそんなんじゃねーし!」
夜「お前自分で言ってて悲しくなんねぇの?」

可哀想な目を向けられてる今が1番悲しいです。なんて心で呟いてみてもやっくんに届くは
ずもなく
やっくんは俺の前の席の椅子に後ろ向きに座って、コンビニのパンに齧り付いた
俺も大人しく弁当を食べることにしよう

夜「んで?」
黒「んあ?」
夜「那津ちゃんの彼氏って誰?」
黒「、、、リエーフ」
夜「ゴホッ、ゲホッゴ、はぁ!?まじ!?」
黒「ちょっ、やっくん落ち着いて、ね?」

みんな見てるから、と付け足すと周りを見渡し、視線に気づいて居心地の悪そうな顔をした。
俺だって初めは耳を疑った
確かにリエーフは那津に懐いていたし、那津だって可愛がっていた
でもそれは先輩後輩ってだけで、特別な意味なんて持っていないものだと勝手に思っていた

夜「あいつ全然そんな素振り見せてなかったよな」
黒「まぁ、懐いてんなぁとは思ってたけど、そういう好きだとは思わなかったな」

だよなぁと呟くと夜久は何か考えるように牛乳のパックのストローをくわえた
リエーフはすごく単純で素直。
思ったことは全部口に出してしまう奴で、それのせいで何度も夜久に蹴りを入れられている
そんな奴が今まで一度も那津への思いを口にしなかった意味を考えてしまうと俺の頭は痛くなった

リ「あ、そうだ!那津さん!俺、今日ミーティングだけなんで一緒に帰りましょっ!」
あ「いいよ〜、じゃあ待ってるね」
リ「マッハで迎えに行きます!」
あ「はは、ゆっくりでいいよ」

噂をすればなんとやら
二人の楽しそうな話し声が廊下から聞こえてきて、夜久と二人でチラリと廊下に視線を移す
1番に目に入ったのは、那津の後頭部。
そんでその奥にだらしない顔をしたリエーフ
予鈴が鳴るまであと数分
どこかでお昼を食べた帰りだろうとリエーフの手にある見慣れた那津の弁当用のトートバッグで容易に想像できた
リエーフは大きな体を丸めて那津と目線に合わせながら話をしている
大切にしてもらってんだなぁなんて安心したと同時にチクりと俺の胸が痛んだ

リ「そうだ那津さん!」
あ「んー?」
リ「駅前にクレープ屋さん来てるらしいですよ」
あ「行く!」

元気よく答えた那津の声を最後に二人の姿は見えなくなった
するとチラチラと俺の方を気にするクラスメイト達

黒「夜久さんなんか視線を感じるんですが」
夜「同情の目だろ」

そう言うと机のゴミを握りこんで夜久は自分の席へと戻って行った
ヒソヒソと「あの子、黒尾のこと、、」なんて聞こえてくる
みんな勝手な想像が好きだなぁなんてどこか他人事のように思いながらゆっくりと弁当を片付けていく

リ「黒尾さん」
黒「うわ!ビビった!気配消してくんなよ!」

いつものウザイくらいの元気はどこへやら、真剣な表情をしたリエーフがいつの間にか俺の隣に立っていた

リ「俺もう遠慮しませんから」

それだけ言うとリエーフはスタスタと教室を出ていった
ヒソヒソはガヤガヤへと音を変えた
そして、俺の心は粉砕した。

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