01

「あのね・・・わたし、えっと・・・小狼に言いたいことが・・・ある・・・の」

途切れ途切れに言葉を紡ぐさくらの頬はほのかに赤く染まっていたが、 鈍感な小狼は首を傾げてさくらのそんな様子を不思議に思っていた。

その一つ一つ言葉を紡ぎ出す度に頬の赤は彩度を増しても、小狼は気付かず、首を傾げる。

「なんだ?」
「あのね、あのね。わたし・・・小狼のこと・・・」

リーンゴーン

城の鐘は夕刻を告げるとともに、二人だけの時間の終わりを静かに告げたのであった。
さくらはその言葉の先を紡ぐことをやめた。そして「バイバイ」と微笑んで踵を返すとさくらは自分の家である城へと戻って行った。

そんなさくらの背をじっと小狼が複雑な気持ちで見ていたことなど、さくらには知る由も無い。

「・・・こんな気持ちになるのはまずいよね父さん。いくら幼なじみだからって、相手はお姫様なんだから」





次に彼がその愛しい少女の名を呼ぶとき、静かに始まっていた物語が音を出し始める。










「さくら!」

無我夢中に走る。

「さくら!」

愛する人の為に。

「さくら!」

愛する人の名を

「さくら!!」

叫ぶ。












触れた愛しい少女の身体には、感じたい愛しい体温の欠片も感じられず、 神官から衝撃の事実を聞かされる。

「姫の中から生まれてから今までのすべての思い出が消えているんです。そして・・・散った記憶はすでにこの世界にはありません。 心が無くては躯はただの虚ろな容器に過ぎない。このままでは・・・姫が」




色付きを見せた筈の二人の関係はこの時を境に色失せ、その代わりなのか一度結ばれた見知らぬ縁が色付き始めた。





「さくらを助けて下さい!!」





次元を超えて愛する者を助けようと必死に懇願する小狼の
この言葉だけが、二人の色付きの名残となるのだった。
この言葉だけが、二人の全てを裏付けていた。
この言葉だけが、二人の確かな時間を知っていた。














「次元を越える力。行方を指し示す翼・・・今、その力が蘇る。すべてはこれからだ。すべてが終わった時、次空を越える力が手に入る・・・」




終わりの始まりはすでに始まった、と男は不敵な笑みを浮かべた。


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