03

水の中から背に青い刺青を負った金髪の男が出てくると、そこへ長い金髪の少女が寄る。

「眠っちゃたの?王様」
「うんこれしか方法なかったからなぁ」

男は手渡された服を着ながら少女の問いに笑みを浮かべて答える。

「これからどうするの?ファイ」
「もうこの国にはいられないなぁ。いや、この世界には、かな」
「良く分からない」

無表情とまではいかないが、感情を表情に出すことに欠けているのか、何か不思議な感じのする少女だった。けれど純粋であることは明らかで、その純粋な心で目の前の相手のことを本当に心配しているのだと瞳から見て取れる。
その問いに金髪の男、ファイは変わらない笑みで答え続けた。

「いいんだよ。 チィはそれで。おっとあんまり時間がないなぁ。行かなきゃならないんだよ」
「どこに?」
「遠くに。できるだけ遠くに。アシュラ王のいない世界へ」

そう言って天を仰ぐ。
けれど天を仰いだところでそこには見慣れた筈の天井が広がるだけだった。そしてその天井に向けた顔には、明らか先程の笑顔などとは違う表情があった。瞳の奥が底冷えするような光で満たされていて、まるで別人のようだ。

それでもファイは顔を少女、チィに向けなおすと、そこは先程となんら変わらない笑顔の表情があった。

「チィに頼みたいことがあるんだー」
「なぁに?」
「もしも王様が目覚めたら教えて欲しいんだ。だからちょっと姿を変えてもらっていいかなぁ」
「うん、いいよ。チィはファイがつくったんだから」

ファイの頼みに何の拒みも見せず、素直に言われたまま従うチィの身体は砂のように細かくなり、それと同時に平たくなって、先程までファイが潜っていた水面を覆い隠し、一枚の大きな布のようになった。

そしてとうとう、自分と同じ空間に自分以外の存在が消えると、再びファイの瞳は色を消した。

「せめて、眠りの中では良い夢を」

水底に眠るその人物をいちべつすると顔を上げる。





暫し静寂が支配したこの世界から、この次元から、自らの魔術でファイは姿を消した。














魔術師はそれが本物なのか境の危うくなってきた仮面をつけ、「元いた所にだけには帰りたくありません」と、己の願いを口にした。





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