いずれその時は来る
空を漂う雲はゆっくりと暗くなり、空との輪郭を曖昧にしてゆく。
微かに闇へと食われてゆく空をぼーっとひとりでに眺めていたが、後ろから聞き慣れた声が掛けられた。
「何黄昏てるのさ」
「別に。黄昏る理由も何も、私にはない」
その言葉には苛立ちも何もこめてはいなかったが、あきらかに感傷的であった。
けれど沖田は全てを悟ったようにそのことについては一切触れることなく、静かに隣に並んで同じようにして空を仰いだ。
「今日は七夕だね」
「・・・・雨、降らなければいいんだけど」
「雨が降ってもカササギが橋を渡してくれるんじゃなかったっけ」
「そうだけど、せっかくの日に雨じゃ気分が滅入るじゃない」
「でも、二人にとっては待ちに待った日だから、雨でも何でも関係ないんじゃないかな」
「・・・・それもそうね」
穏やかな風が二人の頬を掠め、ゆっくりとした時間がそこには横たわっていた。
そっと静かに視線を隣にずらせば、絹のような頬に一筋の涙が流れていた。夕闇に照らされたそれは妖艶に輝き、そのあとに虚しさを残して流れてゆく。
いつもとは違った表情に、沖田は一瞬言葉を失った。
「●●・・・・・」
自分では気づいていなかったようで慌てて涙の筋を拭って元の表情に戻した。
「君は、年に一度だけでも会いたい人がいるの?」
「え?」
唐突で予期しない質問に一瞬、●●は目を丸くして固まったが、すぐにその質問の答えを探した。
瞳を閉じ、その中にかすかな光で人を描いてゆく。
年に一度でも、それでもいいから会いたい人・・・・・――――――
そしてゆっくりを瞳を開いて、前をまっすぐ見据えた。
「いる。会いたい人がいる」
「そっか・・・・」
「じゃぁ、貴方はいるの・・・・?」
「僕は・・・・いるよ」
自分に向けられていた沖田の視線がすっと空へと再び戻される。
けれどその瞳は先程までとは何かが違っていた。
強い決意をその瞳の中で燃やしていた。
「でも、僕は絶対に天帝の言う事なんて聞かないね。こんなにも会いたいのに年に一度しか会えないなんて、そんなの我慢できない」
その答えにくすっと笑みを漏らした●●に「何笑ってるのさ」と沖田は首を傾げた。
「らしい答え・・・でも一年に一度しか会えない」
「だったら君は大人しくいう事を聞くの?会いたいなら会いに行けばいい。天帝を恐れる暇があるなら、会いに行けばいい」
「・・・・・っ」
「僕の心は誰かの命令で容易く抑えられないよ」
嗚呼、この人なら、こんな私を救ってくれるかもしれない。
強引で、けれど優しいその心で。
儚くて、けれど明るいその心で。
天帝という名の運命。
私は、彼のように、橋が無くとも隔てる天の川を渡ってみせる。
私は、彼のように、制されたとしても天の川を渡ってみせる。
私はあなたになど屈しない。
いずれその時は来る
天の川が彼らの間を隔てようと
決して彼らは天の川を認めはしないだろう