06.電車(笠松幸男)
ガタンと揺れれば足元がふらつく私に、目も合わせず無言で席を譲る、足元にエナメルバッグ、耳にイヤホンの彼の声が聞いてみたいと思った。
ガタンと揺れれば足元がふらつく私に、目も合わせず無言で席を譲る、足元にエナメルバッグ、耳にイヤホンの彼の声が聞いてみたいと思った。
誠の文字を掲げる彼らの、一の背中を見つめる。決して振り返らない彼の姿が見えなくなるまで動けずにいる私は、誠に反する愚かな女だ。
展望デッキに上り、フェンス越しに翔を乗せた飛行機が飛び立つのを見送る。ぼやけた視界に映るのは鮮やかな橙色の空だけだった。
最後の思い出にと皆がシャッターを切るのを佇んで見ていた。その輪の中心にいる涼太が私に気づき困った様に笑ったが気付かないふりをした。
重たい仮面を外し鏡と向き合えば、死んだはずの男が映る。もう二度と人に見せることのない顔。あと何度、僕は君を裏切れば良いのだろうか。
いつも余裕な笑みを浮かべている秀一の顔が強張る。真っ直ぐと私を見据える翡翠の瞳。ようやく彼は、私に秘密を打ち明けてくれるらしい。